アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

299 44階層 延々と①

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ガラガラガラガラ‥‥

罪人‥じゃなかった。セーラを載せたリアカーが前を進む。

 「シャンク先輩重かったら俺代わりますね」
 「うっ‥シャンク先輩重くないですか?」
 「うううん。せんぜん変わらないしリアカーは楽なんだよ。元々セーラさんも軽いし」
 「さすがシャンク先輩です!それにひきかえアレクは‥ブツブツ」

鳥籠の中でぷんすかと怒るセーラだけど俺何か悪いこと言ったっけ?


44階層。
過去の先輩の記録どおり。始まりは春だった。残雪残る雪解けの旧街道だ。


 「ううっ、ちょっぴり寒いです」
 「耐熱耐火服着ようか」
 「そうだな」


 「!」
 「!」

 「来たぞアレク!」
 「はいキム先輩!」


ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥

 「アレク!」
 「はいキム先輩。蜻蛉ですね」
 「ああ。風魔法に気をつけろよ」
 「了解です」

50メル先に近づいてくる昆虫型魔物の蜻蛉(オニヤンマ)2体。

 「アレク、あんたは最後に刀で斬るだけでいいわよ。出てくる蜻蛉はぜんぶ私たちがケチョンチケョンにしてやるわ!」
 「そうだそうだシルフィ!2人でじゃんじゃんぶった斬るぞ!」
 「「がんばるぞー!」」
 「「おおー!」」

 「「あはは‥‥」」

マリー先輩と俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「風の刃」の2つ名だか異名だかを持つ昆虫型魔物の蜻蛉(オニヤンマ)。剃刀のように広げた翅は1.0~1.5mほどある。自身に風魔法を纏って対象の相手を切り裂く攻撃はもちろん厄介には違いないんだけど……。もっと厄介なのはこっちのシルフィさんとシンディさんかもしれないんだ。2人はかなりご立腹なのである。このままだと俺にとばっちりが来るのも必定なわけで……。

 「シルフィ、シンディ。軽めの逆ブーストでいいよ。完全停止させなくてもいいんだからね。アイツらが進み難いくらいの逆風で大丈夫だから」
 「「わかったわ」」

俺たちはもちろんだけど精霊のシルフィとシンディもダンジョン内では魔力の供給が滞る。限りある魔力を無駄にすることなく、みんなが省エネ運転をしなきゃね。

ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥シュッ!

蜻蛉は一気に加速。俺たちの前に突っ込んできた。このまますれ違いざまに俺たちを切り裂くつもりなんだろうけど、こっちには本家風の精霊が2人もいるからね。「風の刃」なんてふざけた別名の魔物はご本家のシルフィたちを怒らせるしかないんだ。まあ蜻蛉にしたらなんでシルフィたちが怒ってるのかわけわかんないだろうけど。

ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥

 自身に風を纏って急速に近づいてくる蜻蛉2体。対する2人の精霊シルフィとシンディが蜻蛉に向けて並んで両手をかざした。

 「いくよシルフィ!」
 「ええシンディ!」

ブワワワァァァァッッッ!

突っ込んでくる蜻蛉に向かって突風のように吹き荒れる風。見る間にスピードが落ちる蜻蛉たちだ。そりゃ台風並の向かい風だもん。進めないよな。

 「シルフィ、シンディもう充分だよ!」

一歩前に出た俺は背の刀を抜く。

ザンッ!
ザンッ!

蜻蛉の胴体を真ん中から一刀両断だ。

 「ふんっ!蜻蛉め!」
 「おとといきやがれってんだ!」

お前は江戸っ子かシンディ!
ん?シルフィとシンディの2人が並んで空中にスッと立ったぞ?

 「出たー!またかよ!」

これきっと勝利の舞(ポーズ)だよ。2人のシンクロ演技?が始まった。なぜか腰を捻って空中にすっくと立った2人がともに右ひじと左ひじをくっつけるようにして右手を天に上げ、左手を地面を刺しながらポーズを決め、俺を見てニヤッと笑った。
なんだよシルフィ、シンディ!どこで覚えたんだよ!俺の頭の中をトレースしたのかよ!殺人女王様のシンクロ
JO立ちかよ!(でもかっけぇ‥)


ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥


ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥


ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥


ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥


ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥


悲しいかな予想が下まわることはなかった。そのうち蜻蛉に加えてスカラベー(甲虫)も襲ってきた。

スカラベー、別名「弾丸虫」。1回の飛行距離は最大で10メル程度の甲虫だ。その衝撃は激しく鉄帽でさえ穿つこともあるくらいだ。スカラベーはその加速中は弓矢同等の速さで迫ってくる。
そんなスカラベーへの対処は至って簡単だ。奴らの射程に入らず、垂直に羽ばたく予備動作中か飛行直後の地面に這ってるときを叩けば良い。

蜻蛉もスカラベーも少数であればそれほど怖くはないんだ。でもコイツらがときにはセットでひっきりなしに襲ってくるんだ。蜻蛉を気にしつつ、スカラベーにも対処しなければならなくなるんだ。しかもこれが延々と続くから気が休まる暇もない。

 「はーはーはー」
 「ハーハーハー」
 「はーはーはー」
 「ハーハーハー」

蜻蛉とスカラベーは1エルケ(1㎞)に1回は襲ってきた。先行する俺たちボル隊はシルフィとシンディの精霊2人ががんばってくれてるけど‥‥やっぱり気が休まることはぜんぜんなかった。後続するブーリ隊はさらにたいへんだ。襲いくる蜻蛉とスカラベーはリズ先輩を除く4人で対処せざるを得ないんだから。


ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥

ギュイイイーーンッ!
ガンッッ!

 「きゃーっ!」

時おりセーラが籠る鳥籠にスカラベーが突き刺さる。

 「セーラさん大丈夫だよ。すぐに取るからからね」
 「シャンク先輩ありがとうございます」

「鳥籠」に突き刺さるスカラベーを引き剥がしては裏返して鉄爪を突き刺していくシャンク先輩。セーラは申し訳なさそうにしてるけど気にすることはまったくない。


旧街道が雑木近くを通ったときだ。

 「!」
 「!」

 「アレク、アラクネだ」
 「弓矢でやります」

シュッ!
ギャーーーーーッ!

蜻蛉、スカラベー、アラクネ。この魔物3種が単体で現れることは少なかった。同時に現れることの方が圧倒的に多かった。しかもアラクネに注意を向けている時に限って、蜻蛉もスカラベーも多く襲ってきた。

 「はーはーはー」
 「ハーハーハー」
 「はーはーはー」
 「暑くなってきたな」
 「暑いですー」

「鳥籠」のセーラは俺たちよりさらに暑いんだろうな。
朝から3点鐘くらい進んだだろうか。だんだんと気温が上がってきた。夏が近づいているようだ。



――――――――――――――


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