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第2章 幼年編
297 44階層回廊 先輩たち
しおりを挟む「「「お帰りー‥」」」
「「「ただいまー‥」」」
ボル隊が回廊に入ってからしばらくして、ブーリ隊も回廊へと続いた。
「「あー疲れた‥」」
みんな這々の体だ。サイクロプスは強いけどあとのガタロやコボルトの1体1体は、もはや俺たちには余裕で対処できる魔物なんだ。でもそんな弱いガタロやコボルトも四六時中休みなく襲って来たら精神的にも休む暇がなくなるんだ。魔力だけじゃない。少しずつ少しずつ体力も気力も削られているのをみんなが自覚してる今なんだ。
「言いたかねぇけど俺は言うぞー!」
そう言ったオニール先輩が大きな声で叫んだ。
「俺は腹がへったんだよー!うまいもんが食いたいんだよー!」
「私も言います!」
オニール先輩に呼応するようにセーラも大きな声で叫んだ。
「お腹が空きましたー!お肉をお腹いっぱい食べたいでーす!」
「オイも言うぞー!」
「腹へったー!ギャハハハハー!」
「「お前らなぁ‥‥」」
タイガー先輩とビリー先輩が顔を見合わせて苦笑いをした。
「でもみんなの気持ちもわかるの。私も飴が舐めたいの」
恨めしげに俺を見ながらこう言ったリズ先輩。
えっ!?今リズ先輩、飴を舐めたいって言ったよね?くどいようだけど舐めたいって言ったよね?
舐めてないじゃん!齧ってるじゃん!あーびっくりしたよ、ホントにもう!
でもみんなの気持ちはめちゃくちゃわかる。だって俺もみんながお腹いっぱいになる顔を見たいからいろいろ作ってたんだから。
「はいはーい無理なものは無理。仕方ないよねー」
「お前ら去年食ってたもんを思い出せ」
「「ぶーぶー!」」
マリー先輩とキム先輩が諭すがぶーぶーと不満を言うオニール先輩とセーラ。
「じゃあせめて今日の夜ごはんだけはお腹いっぱいになるものを作りますね」
「「ほんとかアレク?」」
「「やったー!」」
そう、とりあえず節約レシピながらお腹が膨れるものはまだ作れるはずなんだ。
▼
いつものようにシャンク先輩に手伝ってもらい夜ご飯ができた。
「じゃあみなさん、お腹いっぱい食べてくださいね」
「「「アレクお母さんいただきまーす!」」」
「はいはい‥」
今日のメニューはとにかく今ある食材でお腹をいっぱいにするというコンセプトなんだ。
◎ いろいろ干し肉のスープ
「これ、俺たちが今まで飲んでたやつと味がぜんぜん違うんだよな」
「ん。これなら毎日でもいいの」
これまでストックしてあった干し肉も41階層の嵐でけっこう湿気っちゃったからね。保存には適さなくなってきたんだ。それも理由のひとつ。みんながおいしいって言う理由はズバリ顆粒コンソメが入ってるからなんだよ。コンソメや出汁の顆粒はダンジョン飯のレベルアップにとっても使えるよ。そしてなによりもスープの水分でお腹も満たされるからね。
◎ いろいろ肉のツクネ
「うまい!やっぱこれだよな」
「いつ食ってもうめーなギャハハ」
ツクネ(ハンバーグ)はみんな大好きな肉料理だ。これも残ったいろんなお肉を合わせつつ。パン粉や小麦粉、タマネギーなどでかさましもしたよ。小麦粉はお腹の中で膨れるからね。
◎ 焼きビーフン
「へぇーこれが米なのか」
「僕これ好きだよ」
麺料理は米の麺ビーフンの焼きそば風。これもいろんな魔獣肉を刻んであるよ。シンプルな塩味だけどごま油がいい仕事をしている。
◎ シチュー
「優しい味がする」
「この味つけは故郷の料理に似てるな」
ココナッツミルクがベースのクリームシチューだ。これもいろんな魔獣肉にタマネギーや芋、干し人参を加えたもの。エスニック系クリーミーなシチューは美味い。やっぱり水分でお腹を満たしてもらう魂胆なんだ。
◎焼きタマネギーと粉芋
普段はそれほど意識して摂らないけどさすがに野菜不生は気になる。こんなことなら各種ビタミンや植物繊維が豊富なサプリとか作ってこればよかったな。
◎ 焼きおにぎり
「やっぱ米はうめぇよなぁ」
「このおにぎり、もっともっと食べたいです」
小さめの焼きおにぎりを1人2つずつ用意した。焼き目のついたおにぎりは香ばしさが食欲をそそるよね。
ついこないだ1人1つの釜で4合のお米を炊いてたんだけどね。今日は10人で5合だよ。1つはそのままで食べてもらい、もう1つはスープ類に入れて雑炊風にして食べてもらう。これもお腹が膨れるメニューだ。
どうかな?水分を多く摂取してもらったからそれなりにお腹も膨れたんじゃないかな。
みんな喜んで食べてくれたよ。
「さすがに『別腹』はないよね?」
「ありまーす。ちょっと待っててくださいね。少し大きな音がしますけど大丈夫ですからね」
そう言いながら俺は人の丈くらいある鉄の筒を発現した。その下から火をあてて、筒をぐるぐる回す。
今日のお菓子はポン菓子だ。少量のお米や麦に圧力を加えてから急速に圧を抜いたら10倍くらいの大きさに膨らむんだ。田舎の秋祭りの屋台で食べたりしたポン菓子。これは材料の米や麦も少しで済むからね。甘味も少量の粉状メイプルシロップで済むから一石二鳥なんだよ。
ピーーーーッ
空気が抜ける音がする。よし圧がたまったな。みんな何をするんだろうと興味津々だ。
どーーーーーーんっ!
突然爆発音が回廊内に響きわたる。
「「キャーーーッ!」」
思わず悲鳴を上げるセーラとリズ先輩。
セーラは予想どおりだ。わははは、してやったりだよ。
リズ先輩のこんな声は‥‥うん、正直かわいいな。
マリー先輩はわりと平然としてた。うん、ちょっぴり残念だ。
「シンディ、アレクのあの顔見た?」
「あー見た見たシルフィ。鼻の穴膨らませてるあの顔は変態のときの顔だよねー」
「「ねー」」
2人とも聞こえてるって。変態はひどいよ変態は!てか俺‥‥変態なのかなぁ。
「あーうまかった」
「腹いっぱいだぞギャハハハ」
「アレク、とっても満足です」
「「「お母さんごちそうさま!」」」
「喜んでくれて俺もうれしいです」
ああみんなが喜んで食べてくれてよかった。
▼
食後は自然と真面目な話になった。
マリー先輩とタイガー先輩がお互いに頷き合ってから小さなルービッ◯キューブみたいな小箱を取り出した。
「シャンク君、セーラさん、アレク君これは何か覚えてる?」
「あの‥‥遺物ですよね」
「そうよ」
2個1対のこの小箱。ダンジョン内でごく稀に見つかる「遺物」と呼ばれるものだ。
遺物。それは神々が造ったものとも古代人が造ったものともいわれている。学園ダンジョン探索に出るパーティーの2チームに貸出されるものだ。
遺物の貸出し。だいたい遺物の値段なんか計り知れないくらい凄いものなのに、なんで貸出してくれるんだろう。理由はわかんないけど学園長って太っ腹だよな。
タイガー先輩が一方の遺物を手のひらにのせて俺たちに説明する。
「魔力を込めて一方の遺物を外部から強く押すんだ。魔力の大小は関係ない。アレクのような奴からビリーよように水魔法しか発現できない奴でもな。するともう1個の箱が共鳴して音が鳴る仕掛けだ。アレク、理由は分かるな?」
「撤退ですか?」
「そうだ。箱の音が鳴ったと同時に2つのチームは速やかに10人のパーティーとなり撤退作戦に移る」
「遺物を押すタイミングはそれぞれの隊の判断に委ねるが‥」
タイガー先輩が一呼吸おいて言った。
「ここからは俺たち6年の総意としてお前たちは聞いてくれ。
ここまで来れたことに俺たち6年生は充分満足しているよ。この先50階層を抜けて前人未到の51階層以上も探索していきたいがな。ここからは俺たち6年生はこれまで以上にお前たちをサポートしていきたい。だから進むも退くもお前たち3人の判断を尊重する。もちろん危ないときには遠慮なく遺物を押すことになるがな」
「押すったってタイガー、俺たち3人は押せねえだろうが」
「ギャハハそうだぞ」
ふふふ
ははは
ワハハ
「とにかくだ。ここまで来れたんだ。みんな怪我なく帰りたいな」
先輩たちの気持ちが嬉しかった。
遺物。便利なものだけど。やっぱり使わないのがいちばんいいよ。
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