294 / 722
第2章 幼年編
295 野営と砲弾の雨
しおりを挟む「じゃあ今日はこのまま野営をしようか」
「任せてください」
「アレク君お願いね」
「はい」
「今日はいつもと違う野営陣地ですからね」
「あらそうなの?」
「アレク野営食堂じゃないの?」
「あははは。今日はちょっと小さめなんだ」
「「「?」」」
ゴーレムは昼も夜も関係なく襲ってくる。でも土魔法で対ゴーレム用の野営陣地が作れる俺にはぜんぜん問題はない。そう言いたいところなんだけど、ここにきて正直魔力が不安になってきた。それは疲れからなのか、満タンにならないガソリンみたいなものなんだ。今夜にでもみんなに話そうと思っている。
42階層野営陣地。
いままでの野営食堂は魔獣の侵入を防ぐ高い柱の建屋に3重の堀が外周を守る仕様だった。でもここではまったく違った仕様が求められると思う。
ゴーレムのみ襲ってくるこの階層に聳え立つ男子寮は必要ないんだ。必要なのはゴーレムの岩や石礫からの攻撃に耐えられる外壁を持つ野営陣地なんだ。
だから正解は地下に構築するのが望ましいんだと思う。地面から上に露出している部分は少なめにして地下を広めにした構造のもの。
頭の中でイメージするのは塹壕っていうか分厚いコンクリート製のトーチカ。地面からわずかに屋根だけが見える半地下のドーム型野営陣地だ。
大きさはこれまでの最小。畳20畳程度プラストイレとシャワー室。その上でとにかくトーチカの上部を厚くすることに魔力を極振りした。これなら岩石をどれだけぶつけられても大丈夫だろうから。
シンプル仕様の野営陣地。なにより気をつけたのはこれまでの3階建男子食堂より消費魔力を少なくしたんだ。
「いでよトーチカ!」
ズズーーーーッ。
イメージどおり。砲弾の直撃を食らってもぜんぜん平気な円型トーチカ。入口も螺旋階段で地下1階に降りる感じにした。
「うわぁ、いつもと違うねアレク君」
「これでも本来のものよりかなりでかいがな。」
「アレクこれって‥」
「やっぱりアレク君もなのね‥」
「あははは‥」
▼
「「「お帰りー」」」
「「「ただいまー」」」
「アレク野営は俺たちも一緒で大丈夫か?共闘にならないのか?」
「はいタイガー先輩。ゴーレムだけだから大丈夫です。こちらから仕掛けるつもりもありませんし」
「まあお前が大丈夫って言うんだから大丈夫なんだろうがな」
「はい。あははは」
トーチカの外に発現した堀も初の2重仕様だ。理由は魔力温存のためもある。今までの3重と違い2重にしてかなり深く掘った。それも落ちたら外に出られないくらいに。もちろん底には槍衾をつけてある。
「でもいつもと型がぜんぜん違うよな」
「はい。投石してくるゴーレムに耐えられる厚さの屋根にこだわりました」
「「「へぇー」」」
「それよりも何かあっても守護神様2体が護ってくれますよ」
「おおよ!まかしとけ!」
「あらオニールったら‥」
クククッ
フフフフ
ププッ‥
マリー先輩やリズ先輩、オニール先輩がクスクスと笑っていた。
「ただですね、ちょっと心配な点があって‥‥」
俺は気になっていることを素直に話した。
「階層にいる時間が圧倒的に増えましたよね」
41階層も今いる42階層も滞在時間が増えている。この階層も野営が何日か続くだろう。おそらく今後も長く野営をする気がする。
「食糧も減ってきました」
現地調達できる食材も皆無な以上、食糧はみるみる減っている。
「このまま何も補充できなければ食糧はあと1か月はもたないと思います」
「だよね」
「そうなるよね」
「やっぱりな」
「まあ仕方ないよな」
「残念だよね」
だからお楽しみの食事も一気に節約レシピになったのも仕方ない。
「でも俺がいちばん気になってるのが‥‥自分のことで申し訳ないんですが、魔力量なんです」
「魔力量っていってもアレクはふつうの何倍もあるんだろ?」
「人よりは多いかもしれません。でもここんとこ不安なんですよね‥」
41階層以降、魔力量が満タンになっていない自覚があるんだ。いつもと明らかに違う。
「いつもなら1晩寝たら元に戻ってたんですけど‥ここんとこ起きても全量回復してないんです。なんか疲れもとれないし‥‥」
「アレクもですか?私もそうです!」
「私もそうなの」
「私もよ。みんな残存する魔力が不安になってきたわね‥‥」
「「「‥‥」」」
「魔力がない俺たちにはよくわからないが、たしかに41階層から急激に疲労感が増してるよな」
「タイガーもか。オイもなんか筋肉痛がとれないんだギャハ」
やっぱりみんなもそうなんだ。かと言ってどうすれば良いという明確な答えは見つからなかった。解決策も浮かばなかった。せめて回廊では長めに休憩しようっていうことが決まったくらいだった。
こうして俺たちみんなはゆっくりと転がる石になっていることに誰もが気づき始めた。
▼
翌朝。
結論でいえば野営トーチカは正解だった。ズーンッズーンッと朝まで夜通し砲撃の音が止まなかったが。
朝、トーチカ周りにはたくさんの岩が落ちていた。外に1体のゴーレムもいなかったのは想定どおりだ。
(内堀にも外堀にも何体ものゴーレムが倒れ伏していたけど)
「お、俺が‥‥」
「オニールがぺしゃんこなの!」
「なんでレベッカ
さんが無事なんだよ!不公平だろ!」
ぺしゃんこのオニール像の横でレベッカ像はふつうにポージングをしていた。
昼間は時おり襲ってくるゴーレムに気は休まらなかった。翌日もまた翌日もそのまた翌日も野営トーチカ。
結局42階層では5泊の野営を要した。
「あっ、回廊だよ!」
やっと回廊が見えた。ホッとした。
回廊からは魔獣は出てこなかった。これも学習できた。
「今までの休憩室で楽しかったのが嘘みたいだね‥」
しみじみとビリー先輩が言った。
「そうだな。疲れは溜まっているが誰も傷ついていないことだけは幸運だな」
「「「だよね」」」
うん。タイガー先輩の言うとおりだ。
結局41階層も42階層も魔獣肉など食糧の補充はできなかった。物資面でもストックは減る一方だ。
単調なんだけどだんだん神経がすり減るようなダンジョン探索。みんなメンタルがやられてるんだろうな。疲労の蓄積もハンパないし。
――――――――――――――
いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる