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第2章 幼年編
292 42階層 火山地帯のゴーレム
しおりを挟む地味。
一言で言えば41階層と42階層はひたすら地味な絵図だった。
もしビデオに録画してたら再生時は間違いなく早送りしただろう。そのくらい地味な絵図が続いたんだ。
42階層 も。
最初は大したことないだろうって思ってたんだ。体調も整えて臨んだし、みんなの士気も高かったから。でもやっぱり一筋縄ではいかなかった。
火山地帯。
遠くにはいくつも噴煙が立ち上がっているのが見える。時おりドーンと空気を震わせる噴火の音も聞こえる。ダンジョン内なのに、だ。映像?いやリアルにしか見えないんだけど。
回廊を出た先。旧道はすぐにアップダウンのある山道になった。そしてその山道は延々と続いていた。41階層の豪雨と同じでゴールがまったく見えないものだった。
さすがに戦闘靴が溶けるほどの熱さじゃなかったけど、地面は床暖房以上の温度を伝えていた。ダンジョン内だから太陽は出てなかったけど、それでも真夏のあの刺すような暑さそのもののだった。俺は何度も何度も空を見上げては見えない太陽に文句を言った。
「チキショウ。暑すぎるぞ‥」
「でもアレク、この服は作ってよかったね」
「ああ涼しいぞ」
「ええ大正解よ」
「うん僕も無いよりは断然いいと思うよ。けっこう涼しいし」
「へへっ」
豪雨時に耐水性が証明された魔獣ヘルハウンドの毛皮は熱もある程度緩和してくれてるみたいだ。耐火性はさすがに実証できてないけど、ヘルハウンドの毛皮から作った服は機能性が高いに違いない。
「背中が涼しいね~」
「僕も涼し~い」
首元に仕込んだガタロの魔石からは背中にじわじわと水が滲み出ている。この水が蒸発するときの気加熱が温度差を生んで体感として涼しくしている。
それでも暑いのには違いないんだけどね。
「アレク君いくよ。せーの!」
「はい、どっせーいっ!」
シャンク先輩1人では押しきれない坂道は俺もリアカーの後ろから押して手伝った。さらにきつい勾配はみんなで押したり支えたりした。
戦闘靴はとってもいい仕事をしている。アイゼンは地面にぴったりと圧着して勾配を滑らずにいてくれる。
「「「はーはーはー」」」
41階層の終わらない豪雨を経験したセーラが「まだ?」「まだ?」と問うことはなくなった。黙々と歩き、ときには黙々とリアカーの後ろを支えていた。
そしてこの流れはひたすら続いた。
それはお昼ごろ。
エナジードリンクを飲んでいたときだ。
「来たぞアレク」
「はい」
前方からやってきたのは土ゴーレムとその上位互換、岩ゴーレムだった。
ズーーンッ ズーーンッ ズーーンッ ズーーンッ‥
ゴーレム自体に魔法は効かない。刀も通らない。一撃で倒すか何度も何度も足を削るか、風魔法や土魔法で転倒させてその歩行を強制的に終わらせるしか勝算はない。
ズーーンッ ズーーンッ ズーーンッ ズーーンッ‥
「俺が倒します!」
「任せたアレク!」
土ゴーレムや岩ゴーレムは20メルに近づいたら石礫や岩石を放ってくる。だからその前に土魔法で転がせてやるぞ。50メルに近づいた。よし今だ。
「土遁。外堀の術!」
シーーーーーン
あれ?発現しないぞ?もう1回だ。
「土遁。外堀の術!」
シーーーーーン
「土遁。外堀の術!」
「土遁。外堀の術!」
「土遁。外堀の術!」
シーーーーーン
えっ?!なんでだよ?!魔力はふつうにあるのに?
「シンディ?」
「わかんないわ?ただひょっとして‥‥アレク10メル先に発現してみて」
「うん、わかった。土遁。外堀の術!」
ズズズーーーーーッ
広範囲で堀が形成されていく。幅、深さ1mほど。底には槍衾が待ち構えている仕様はこれまでと同様。イメージどおりだ。
「発現できたわね。今度は20メルでやってみて」
「うん、わかった。土遁。外堀の術!」
ズズズーーーーーッ
今度も発現できた。
「じゃあ30メルと40メル連続で発現してみて」
「うん。土遁。外堀の術!」
ズズズーーーーーッ
シーーーーーン
あれ?
40メルは発現しなかったぞ。
「なんで?」
「たぶん何かの理由で魔法の届く範囲が30メルに制限されてるのよ」
「まさか?!」
ひょっとして学園ダンジョンの「意志」の顕れなのか。
「シルフィ風魔法をやってみようよ」
「わかったわ」
俺はシルフィと2人で進行速度に差の出たゴーレム2体に精霊魔法を発現してみる。
50メルに近づいたゴーレム、30メルに近づいたゴーレムに、続けて精霊魔法の風魔法を発現した。
「「ゲイル(疾風)!」」
ゴゴゴオオオォォォーーーッ!
疾風が30メル付近にいる土ゴーレムを直撃する。
ドオオォォォーーーンッ!
バラバラバラバラバラバラ
後ろ向きに。
直撃して倒れたゴーレムはそのままバラバラと土塊へと変わった。
シーーーーーン
50メル付近ににいる岩ゴーレムには風魔法自体が届かなかった。
「やっぱり‥」
「ええ」
「マリー先輩、シンディ!」
「「ええ、わかったわ」」
「理由はわからないけど30メルまでしか魔法の行使はできないのね!てことは20メルまでに倒さないと危ないわね」
「はい!」
「じゃあゴーレムがいっぱい出てきたら左右の後方にも土魔法を発現できる?」
「はい。俺自身が移動して発現してきます」
「ありがとう。セーラさん糸電話を飛ばしてリズにも30メルだって伝えてくれる?」
「はい!」
「あと数が出てきたらアレク君が左右は土魔法でできるだけ排除するから後方はお願いって」
「わかりました。フライ!」
即座に糸電話の通話をするべくブーリ隊のリズにアラクネ糸を飛ばすセーラだったが‥。アラクネ糸も30メル付近でふらふらと落下していく。その寸前。
「任せろ。俺が届ける」
ダッ!
言うが早いがアラクネ糸を掴んでブーリ隊へと届けるキムだ。
500メルをわずかな時間で走ったキムがブーリ隊本陣へと飛び込んだ。
「リズ、糸電話だ」
「ん」
「魔法の効果は30メルまでだ。詳しくはセーラに聞いてくれ」
「「「キム頼んだぞ」」」
タイガーたちブーリ隊男子の声かけに手を上げて即座に戻っていくキム。
「しもしもーリズ先輩」
「しもしもーセーラ」
「しもしもーよかったです」
「しもしもーん」
「しもしもマリー先輩からです。魔法は30メルにならないと効かないそうです」
「しもしもーん」
「しもしもーゴーレムが大量に出てくるようならアレクが左右に土魔法を発現するそうです」
「しもしもーん」
「しもしもーそのときは後ろのゴーレムをお願いします」
「しもしもーん」
戦闘時、アレク以外ふつうの魔法士は魔力量を慎重にやりくりしながら発現していく。それがダンジョンであれば魔力の残量イコール生命の重さに関わるからである。
マリーからの魔力の効果範囲情報。それはたしかにありがたかった。ただそれ以上に前をいく仲間への絶対的な信頼感と何かをやってくれるだろう期待感がリズ自身を奮い立たせているのだった。
ブーリ隊のリアカーの上に立ち上り拳を上げるリズ。
「みんな頑張るの!」
「「「おぉー!」」」
ブーリ隊の士気は未だ高い。
20メルまでに近づけることなく、前方のゴーレムは倒した。
「よし、行くよ」
「「「はい」」」
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