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第2章 幼年編
285 40階層休憩室 食事会(前)
しおりを挟む「タイガー先輩、ゲージ先輩ちょっと手合わせしてください」
「「おおいいぞ」」
2日間休憩することになった40階層休憩室。
みんな思い思いに組手をしたりストレッチ、武具や戦闘靴の掃除、装備品の点検などをしている。
俺もタイガー先輩やゲージ先輩から体術の手合わせをしてもらう。キム先輩からはクナイを交えた格闘術や脚運びを習ったり、オニール先輩からは対人の槍使いを想定した闘いを立ち会い形式で習ったりしている。
先輩たちから教わることは山のようにある。
たった2日だから時間もぜんぜん足りないし。
もちろん相変わらず魔石をニギニギして魔力の増強に励んだり、リズ先輩からは魔法陣を習ったり、セーラからは聖魔法を習ったりしている。
こっちのほうもぜんぜん時間が足りないよ。
セーラもダンジョン探索に来て以降、俺と同じように魔石をニギニギしている。
そんなセーラにも少しずつ魔力が増えているそうだ。
(でもセーラ曰く、どの魔石も色が可愛くないのがつまらないって言うけどレインボーカラーの魔石は無いと思うよ)
「アレク君あのね、休憩室は休憩するところなのよ。もっとのんびりするものなのよ」
「アレク、マリーの言うとおりだぞ。何もせずゆっくりすることも大事なんだぞ」
マリー先輩とキム先輩が真面目な顔で言った。続いてリズ先輩がオニール先輩を見ながら言った。
「そうなの。アレクはもっとオニールを見習うべきなの」
ちょうどその時オニール先輩はお腹を掻きながら大いびきをかいて寝ていた……。
「アレク君そろそろご飯の準備にかかる?」
「ですね。じゃあシャンク先輩手伝いお願いしますね」
「うんいいよ」
(離れてセーラが睨んでいるが気付かないふりをしよう)
休憩室での食事作りはシャンク先輩と2人でやるのが自然の流れになった。シャンク先輩は食事の下準備も丁寧だし盛り付けもセンスがある。だから食事も一層美味しくなるんだと思うな。
今日のメイン食材は海鮮だ。
毎日肉ばかりじゃ飽きるからね。てか、みんなぜんぜん肉に飽きないのが不思議だよな。毎日肉ばかりで嫌にならないのかな。
俺的にはやっぱり肉、魚、野菜を満遍なく食べたいよ。しかも和洋中にエスニックと料理法も変えながら。
豊富な食材にそれなりに増えた調理法。飽きのこないように毎日努力しているよ。
ダンジョン探索にありがちなひたすら干し肉ばっかりを食べることや、芋だけを食べるなんてことは辛いもん。毎日同じものや同じ料理法には抵抗があるんだよなぁ。特に倒した魔獣はなんでもかんでも塩ふって焼くだけはつまんないんだよね。ちょっとぜいたくかな。
今日は海鮮釜飯と海鮮のグリルだ。
ときどき魚介系を挟めばまた肉も美味しくなるはずなんだ。
グリルは大きなロブスターや蟹、サーモンがずらりと並ぶ。1人半身の大ボリューム。単に塩をふっただけでももちろん美味しくなるんだろうけど、一手間加えたんだ。
オリーブオイルを表面に塗って俺特製の香草入アレク塩で焼いてあるよ。シンプルだけど単なる塩よりもけっこう素材の旨みをひき出していると思う。
魚介たっぷりのあら汁も作った。アラとは言うものの正肉たっぷりなんだけどね。
今日のお米は1人1釜で炊いた炊き込みご飯だよ。
お米は炊きたて白ご飯、おにぎりと進化したよ。今日の炊き込みご飯もみんな驚くだろうな。今日の炊き込みご飯(釜めし)は貝柱、海老、イカ(キーサッキー)、サーモン、カニなどの魚介がふんだんに入っているんだ。
海鮮の炊き込みご飯は出汁のおいしさがご飯に染みこんで旨さ格別だからね。釜炊きならではお焦げも美味しいし。
海鮮系の炊き込みご飯。特に貝やカニから出る出汁は塩味や旨みがいい意味でもそうでない意味でもすごくあるんだ。俺的にはちょっとしたこだわりもあるんだよ。
大好きだった東北のじいちゃんは料理もすごく上手だった。まだ元気だった頃の俺はよくじいちゃんの手ほどきを受けて料理の真似事をしてたけど、今にして思えばあの当時の経験がとっても活きているんだよな。
例えばね、海鮮で炊き込みご飯や海鮮あら汁を作るときどんなことを注意すると思う?
海鮮の炊き込みご飯やあら汁には塩味と海鮮特有の味の濃さをよく理解することが大事なんだ。
テレビなんかで見る豪快な漁師メシ。あれは鍋やお釜にどーんと食材をのっけて火を通すだけってイメージがあるよね。
もちろん丸のまま焼くだけなら充分に美味しいよ。
でも炊き込みご飯やあら汁なんかを作るときは違うんだ。全体を考えずにボリュームいっぱいに調理をすればそれでは美味しくできないんだ。なんでかって言うと魚貝ならではの塩味が強すぎたり、魚貝の旨味が勝ちすぎてしまうからなんだ。
だからそんな海鮮料理は美味しく食べ続けることができないんだ。濃すぎる味がだんだんくどくなるんだよね。
だから魚貝系の料理のキモは適度に味を「薄める」ことなんだ。
例えばね、魚貝の炊き込みご飯は先に貝だけ別に煮て、旨みの強い煮汁はお米を炊く水分量の半分以下にして薄めるのが美味しい海鮮炊き込みご飯の正解。
あら汁もそう。なんでもかんでも鍋に放り込むのは間違い。鍋に放りこむ前に1度食材に湯に通して臭みをとるのがコツなんだ。あら汁もそのまま調理をしたら味が濃すぎたり魚の臭みが出るんだよね。
それといきなり調理をするんじゃないんだ。調理前。塩をふって30分くらい放置するのも大事なコツ。塩の浸透圧で嫌な臭みが取れるんだ。
▼
米にしてからさらにみんながびっくりするくらいたくさん食べるようになった。だからお米は最初から1人4合炊いたよ。1人4合のご飯!みんな大食いタレント並みだよ!
休憩室中に美味しそうな香りが漂ってきた。
「お待たせしました。メシできましたよー!」
「「「待ってました!」」」
「今日は何食べれるんだ?」
「何かな?何かな?」
「絶対美味しいお米の匂いがするの!」
「はい正解です。今日は絶対おいしい魚介類のご飯です」
みんながいそいそと食卓に着く。
「今日は海のものが主役のご飯です。まずは魚介類のグリル。海老、貝、キーサッキー(イカ)、カニ、魚など好きに取ってそのまま食べてください」
「おおーすげぇなあ。いろんな種類があるぞ」
「アレクが採ってたやつだよな?」
「はいそのとおりです」
「スープはあら汁っていいます。いろんな魚介類の旨みが出てるはずですからね」
あら汁はいろんな魚介類の複合した旨さ。魚の骨から出る出汁も余すところなくいただきたいからね。もちろんエラや内臓など臭みの元になるものは除いてあるよ。
「今日のコメは海鮮の炊き込みご飯です」
「白ご飯やおにぎりとは違うんだね?」
「はい。これはコメに魚貝の旨みを吸わせて炊いたものなんです」
「へぇーなんか聞いてるだけでヨダレがでるな」
「炊き込みご飯はたくさんありますからお腹いっぱいになりそうだったら無理して食べずにご飯は残してくださいね。最後に味変しますから」
「味変?」
「はい。最後に違う料理に変身します」
「「「おおー!」」」
「なんかすげぇなギャハハ」
「ああなんか知らんけどな」
そんな海鮮炊き込みご飯の味変。
それは海鮮から採ったったスープに片栗粉でとろみをつけたものだ。スープ自体にちょっぴりごま油をたらしてあるから中華風の海鮮スープだね。
1人1釜の石窯。これを味変前に再度火を通して鍋肌を焦げるくらいにアツアツにする。お焦げを作るんだ。そしてそこから海鮮スープを注ぐと味変の完成だよ。
「じゃあみなさん、お腹いっぱい食べてくださいね」
「「「アレクお母さんいただきます!」」」
はいはい、もうお母さんでもなんでもいいよ!
みんなからの歓声や感嘆の声、言葉が止まない。
「カニうめー!」
「海老や貝もめっちゃうまい!」
「へぇーあのキーサッキーってこんなにうまいんだな!食感も独特だよな」
「あら汁?も美味しいわ」
「鮭?魚もアレク君の塩のおかげですごくうまいね」
「この鮭って魚、おにぎりに入ってた魚だよね?」
「あーあの鮭おにぎり?あれはめちゃくちゃ美味かったな」
「「「うんうん」」」
おにぎりの具の鮭はやっぱり大好評だったよ。
魚介類のグリルは間違いのない美味しさだよね。特に俺的にも鮭はめちゃくちゃ美味いと思ったよ。なんてったってキングサーモンだもん。身がふっくらして旨みも抜群なんだよ!
「えーっと今回の魚介類のグリルは調味料で味変ができます」
「味変?」
「はい。味変というかランクアップですね。特にキーサッキーや海老、鮭がさらに最強になる調味料で味変です」
「最強‥‥ごくん‥‥」
「はいセーラさん何かわかりますか?」
「はいアレク先生!それは絶対マヨネーズだと思います!」
「正解です!」
「「「おおーやっぱりマヨネーズかよ!」」」
そう、海老やイカ、鮭にはマヨネーズがめちゃくちゃ合うと俺は思う。特に鮭にはマヨネーズが最強だと思っているんだ。スーパーの安い鮭の塩焼きでもマヨネーズを付ければ美味しかったもんなぁ。
「残念ながらこの中にマヨネーズを直飲みする人たちがいます」
「「「ブーブーブー」」」
マヨネーズを直飲みするオニール先輩、ゲージ先輩、セーラの3人がぶーぶー文句を言っているけどここは断固無視だ。だって残り少ないマヨネーズなんだから直飲みされたら今日にも在庫切れになっちゃうよ!
「ですから今日の夜ご飯はみんなで1本のマヨネーズですよ!間違っても直飲みしないでくださいよ!」
「「「ブーブーブー」」」
それでもマヨラーのみんなは大喜びでグリルの魚介類にマヨネーズを付けていたよ。
「マヨネーズ付けると美味いよなー」
「マヨネーズ最強です!」
「ギャハハ。飲めないのが残念だけどな」
大盛りで夕食が進む。でもさすがの大ボリュームにリズ先輩はそろそろお腹も満腹になりそうだ。
「アレクお腹も膨れたの。この炊き込みご飯はこれからどうするの?」
おおーすげえ。少食のリズ先輩でさえ半分の2合くらい食べてくれたよ!
「はい。じゃあリズ先輩ちょっとお釜を借りますね」
そう言った俺はリズ先輩のご飯のお釜を再度熱熱にした。
「これにスープをかけますからスプーンで食べてみてくださいね」
そう言ってアツアツのお釜に海鮮スープをかける。
ジュワワワヮヮヮーーーーッ!
途端に白煙が立ち上るお釜。海鮮炊き込みご飯が中華風にまるっと変身したんだ。もちろんここにグリルした海老やカニなどを追加してもらってもいい。炊き込みご飯が中華風海鮮お粥に変身だよ。
「ん。これならまた食べられるの」
リズ先輩が満足して言った。
「いい匂いがするわ。私もちょうだい」
「僕もお願い」
みんなも順番に釜めしにスープを注いで味変していく。さすがにお腹もいっぱいになっただろうな。
「うめー!でもまだ食べられるな」
「だな。ギャハハ」
オニール先輩とゲージ先輩が言った。
えーー!?どんだけフードファイターなんだよ!
でもあれだけたくさんあったものをすべて平らげてくれるのは作り手としてすごくうれしいな。
「おいしかったの」
「ええ今日も本当に美味しかったわ」
「とってもおいしかったです!」
あー女子3人が満足して言ってくれてるけどたぶんこのあと、あの一言が出るんだよな。
「「「別腹食べたい!」」」
やっぱり!
「はいじゃあ別腹も今から作りますね」
今日のデザートも初公開ネタでいくぞ!
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