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第2章 幼年編
283 シャンクの覚悟
しおりを挟む※ ついつい長くなってしまいましたw
すみません(謝)
「!」
「!」
「!」
「!」
「シャンク兄ちゃん悪い人たちが追いかけてきたの?」
「トール大丈夫だよ」
「急ぎましょう」
「そうね」
「「はい(うん)」」
シャンク、トールの熊獣人の子どもを連れてローラとマーラの蛇獣人の双子姉妹が先を急ぐ。
熊の聴覚は哺乳類の中でも有数の鋭さである。それは獣人においても同様のことがいえる。そして蛇もまた聴覚に優れていた。(蛇獣人の場合、聴覚というよりは地面からの振動の探知なのだが)
蛇獣人の双子の姉妹ローラとマーラも顔を地面に触れて難しい顔をする。
「800メル下から10人くらいが上がってくるわ」
「シャンク兄ちゃん‥」
「大丈夫だトール。いざとなったら兄ちゃんが絶対にお前だけは守ってやるからな」
「うっ、怖いよ‥」
「とにかく急ぎましょう」
「ええ」
「「はい(うん)」」
くんくん、くんくん
「シャンク君どうしたの?」
「ローラさん、マーラさん、トールを連れてちょっとだけ先に行っててください。すぐに追いつきます」
ダッ!
言うや否や横道に逸れて藪に分け入ったシャンク。
「シャンク君どこへ?」
「わからないわ。でも‥‥急ぎましょう」
「いい?トールちゃん」
「うん‥‥」
▼
「ごめんなさい。お待たせしました」
しばらくしてシャンクが戻ってきた。蜂に刺されたのだろうか。身体中を刺され顔は見るも無惨に腫れ上がっている。
「シャンク君!」
「大丈夫?蜂に刺されたの?」
「はい。ちょっぴり刺されちゃいました」
「シャンク君いったい何を‥‥?」
「シャンク兄ちゃん、まさかそれ‥‥」
「トール」
言うなという強い意思表示をして首をふるシャンク。
「シャンク兄ちゃん蜂蜜はダメだよ!」
「ああトールでも最後のときはコイツに賭けるしかないよね」
「だってシャンク兄ちゃん‥‥」
「それって蜂蜜なの?」
「うん蜂蜜だよ。無事に帰ったらトールの叔父さん家で蜂蜜を料理してもらおうよ。トールの叔父さん、料理がめちゃくちゃ美味しいんだよ」
「‥‥そう。じゃあ頑張って無事に帰らなきゃね!」
「そうね」
1人小さな声で呟くシャンク。
(使わなきゃいちばん良いんだよ。使わなきゃ‥‥)
「あっ?雨が降ってきたよ」
ピトッ ピトッ ピトッ ザアアァァァーーーー
幸運。天から突然土砂降りの雨が降った。そしてその土砂降りの雨が4人を救った。追われる者たちにとって音と臭いを消す雨は願ってもない僥倖だった。
「助かったわ」
「これでしばらくは臭いも音も消えるから追手からは逃げられるわね」
「このまま山を越えて東から領都を目指しましょう」
「そうね。それがいちばんね」
▼
雨の中を延々と歩く4人。幼さゆえ疲労で歩けなくなったトールはローラとマーラが交互に背にのせた。
ひたすら逃避行を続ける3人。深夜からほぼ丸1日を歩き通したころ前方に炭焼き小屋を見つけるのだった。
「夜は危ないわ」
「あそこで1夜を明かしてから帰りましょう」
「そうね。ここまで来たらもう追いつかれないわ」
「シャンク君よく頑張ったね」
「うううん。お姉さんたちのおかげだよ」
「さっ早く寝て明日夜明けと同時に帰りましょう」
「そうね」
「トール君ん家で美味しいご飯を食べましょうね」
「そうね」
フフフフ
うふふふ
「シャンク兄ちゃん、僕おしっこ」
「外にいってきな。魔獣に気をつけるんだよ」
「うん、わかった」
翌朝、早朝。
「くんくん。ションベン臭いな。いたぞ。熊獣人のガキの匂いだ」
それは致命的なミス。かと言って市井に暮らす庶民の4人にそれを責めることなど誰にもできまい。
「お頭あの炭焼小屋に居ますぜ」
「くんくん、お頭蛇の女たちも一緒にいますぜ」
盗賊団の先頭、犬獣人の男が鼻を利かせていた。
「ヒッヒッヒ。ようやく見つかったかい。いいかいお前たち、熊のガキは見つけ次第殺すんだよ」
「へい了解でさぁ」
「蛇の双子は絶対に殺しちゃダメだよ。あの2人は正真正銘金のなる木なんだからね」
「「「へいお頭」」」
「最悪アジトを失くしても蛇の姉妹だけでも確保したらまた楽しい日々が戻ってくるからねぇ」
「お頭ちょいと相手してもらってもいいですかね?」
「好きにしな。でもアンタ蛇女でもいいのかい」
「お頭コイツは誰だっていいんでさぁ」
「やだねぇ盛りのついた犬は」
「「「ハッハッハちがいねぇ」」」
だんだんと近づいてくる追手。
「逃さねえぜ」
「囲め」
「囲め」
「囲まれてるわ」
「お姉ちゃん辱めを受けるのも一生アイツらに飼い殺しになるのも嫌!」
「でも‥‥仕方ないわ」
「ローラさん、マーラさん、今から僕が外に出ます」
「ま、まさか、シャンク兄ちゃん!?」
「何があっても絶対に絶対に外に出ないでください。トールがいいって言うまで絶対に、絶対に外に出ないでください」
「シャンク兄ちゃん‥‥」
「トールちゃんシャンク君は何を?」
「あのね‥シャンク兄ちゃんは蜂蜜酔いなんだ」
「まさか!?」
「蜂蜜酔い?お姉ちゃん何なの?」
「マーラ‥シャンク君はね‥‥自分の生命で私たちを救おうとしてるのよ‥」
ギーーーーーッ
炭焼小屋を開けてシャンクが出てくる。
「やっと出てきたかい。世話をかけるガキどもだねぇ」
ヘッヘッヘッ
へっへっへっ
はははははは
「せっかく雨の中逃げられたかもしんねぇのによぉ、ションベンはいけねえぞ。臭いで丸わかりよ」
「おいおい子どもに言ってもわかんねぇって」
「ヒッヒッヒ、せめて痛くないように殺してやろうかねぇ」
「同じ獣人なのに‥‥おばあさんたちは心が痛くならないの?」
「聞いたかオメーら!心だってよ!」
「ケッ!」
「ガキだなぁ」
「何が痛いもんさね。いくらでもいる弱い人間を売って商売をする。こんな楽な仕事をやめられるわけなかろうよヒッヒッヒッ」
「せめて兄弟そろって一思いに殺してやろうかね」
「大人なのに‥‥ひどいね」
「さあ殺っておしまい」
「おばあさん、それとおじさんたち。僕もこのまま死ぬわけにはいかないんだ。だから‥‥痛くしてごめんね」
シャンクが後ろ手にしていた蜂蜜を口にした。
ごくんっ‥‥
「ま、まて!ひょっとしてコイツは蜂蜜酔い‥」
ガアァァァァーーーーッ!
蜂蜜酔い。
熊獣人1,000人に1人の割合で現れる特異体質。言うまでもなく蜂蜜酔いを発症する熊に蜂蜜は厳禁である。
そのあまりの凶暴ぶりは熊獣人の一族であっても秘匿とされる。
蜂蜜酔いをする熊獣人は食した直後より意識が混濁し敵味方関係なくその体力の続く限り、暴れ尽くす。
鎮圧には子どもの熊獣人でも騎士団の最低一個小隊(30人)が必要とされる。
別名バーサーカー(狂戦士)。
ガアァァァァーーーーッ!
やめろーーーーーー
助けてくれーーーー
殺さないでくれーー
阿鼻叫喚。悲鳴が聞こえる。
ドーンッ ドーンッ ドーンッ ドーンッ!
一定の間隔で続く轟音はしばらく止まなかった。
戸外の喧騒は1点鐘余りでなくなった。
それは嵐のあとの静けさ。
「お姉ちゃんたちもう大丈夫だよ‥‥」
炭焼小屋を出る3人。
10数人の野盗は見るも無惨だった。
圧倒的な暴力は容赦なく、四肢が離れた者や頭部の向きが違っている者を筆頭、生きている者でさえ筆舌に尽くし難い有様だった。
「ひ、ひ、人殺しーーヒャァァーー」
半狂乱になって叫ぶ狐獣人の女はすでに正気を失っていた。
そして‥‥。
「シャンク兄ちゃん!」
「「シャンク君!」」
少し離れた大木の脇に倒れているシャンク。
全身の刀傷は言うまでもないが、何よりも目をひくのは頭部から流れる夥しい出血と背丈の位置で倒れている大木だった。
「シャンク兄ちゃんは僕たちを襲わないように‥‥」
「「シャンク君‥‥」」
「一刻も早く戻るわよ!」
「うん!」
「なんだ?どうしたべ?」
その後、炭焼小屋に来た男の持つポーションにより奇跡的に一命をとりとめたシャンクだった。
ーーーーーーーーーーー
階層主の椅子に座るのはあのときの狐獣人。
「おやおやあのときの熊のガキかい?」
半ば嘲笑を持ってシャンクに語りかける年配の狐獣人の女だったのだが‥‥
ガタガタと震えていたと思ったシャンクの雰囲気が見る間に変わっていった。
「おばあさん、また人を傷つけるんだね?」
「あ、あんた‥‥」
「僕はあのときのことを未だに悔いてるんだよ。トールを巻き添いにしたって」
「ま、まて。わ、わかった‥」
シャンクが纏うあまりの殺気にあてられる狐獣人の女。
「くっ、くそーー!」
シャンクに飛びかかるのだが……。
ザンッ!
シャンクの鉄爪が振るわれた。
ギャーーーーーッ
即死のゴブリンメイジとスライムが床に沈んでいった。
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