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第2章 幼年編
282 それぞれのトラウマ(後)
しおりを挟む【 セーラside(後) 】
「叔父さま‥‥叔父さまは女神さまの教えに反しています。それは‥‥」
意を決してセーラが口にする。
「なにより女神さまは人を殺めることを認めておりません」
「‥‥」
「叔父さまは聖職者心得を覚えておいでですか?」
「ん?なんだ?」
「叔父さまがまだ幼い私にプレゼントしてくれた聖職者心得。あのとき叔父さまは私の頭を撫でながら『父を助け、より良い聖職者になりなさい』とおっしゃってくださいました」
「‥‥」
「私は叔父さまの言いつけを守り暗記をするくらい心得を読み続けました‥‥」
「心得に曰く、『其れ聖職者たる者いかなることがあれど人を殺めることは許されぬ。心に其を思うだけでも教義に反する。心に人を殺める思いを宿した者は自らの心も殺める者なり』
それなのに叔父さまは‥」
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!お前など屠ってくれようぞ!」
そう言うなり、懐から短刀を出し至近距離の椅子から飛びかかるセーラの叔父。
ダーンッ!ガンガンガンガン‥
「なんだ?なんだ?なぜだ。なぜ進めぬ?」
「ホーリーシールド(聖壁)です」
「小癪な小娘めー!」
ガンガンガンガンガンガンガンガン‥
それは聖職者にはあるまじき狂気じみた振る舞いだった。短刀を握る手からはじわじわと血も滲み出す。
「叔父さまに化けた者よ。貴方が正しい道を歩む者であればその傷は癒されるでしょう。そうでなければ貴方は女神さまの下に旅立つことでしょう」
「ホーリーライト、ヒール!」
サァァァァーーッ!
聖なる灯りと聖なる癒しを施される魔物。真に聖職者なればいざ知らず、階層主は魔物だった。魔物にセーラの聖なる癒しはマイナスでしかなかった。
ギャーーーーーッ
スライムを連れたゴブリンメイジが絶叫と共に倒れ去る。
床に沈んでいく魔物を見つめながら独り呟くセーラ。
「トラウマ……この程度に動揺する私はまだまだですね」
しっかりと前を向くセーラだった。
【 シャンクside(後) 】
うわぁぁぁーーー
逃げろーーーーー
追え追えーーーー
阿鼻叫喚。洞窟内は蜂の巣を突いたように大混乱であった。
小鼠についてシャンクとトールが向かった先は皆が逃げる方向とは真逆、山頂へと向かう上り坂だった。
「領兵が先に気づいてくれればいいんだけど。先に悪い人に見つかったら生命がないからね。だからみんなとは逆に逃げるのよ」
「そうなんですね」
「小鼠さんは賢いね」
「「ふふふ」」
小鼠が喋る話に納得しつつも不安な気持ちを隠せないシャンクだった。それでもトールに不安を与えたくない気持ちだけで小鼠の後を追う。
だんだん辺りからは人の気配もなくなった。
「よく頑張ったわね」
「2人ともえらいわ」
いつのまにか小鼠はいなくなっていた。月明かりに照らされて。そこには2人の若い女性が待っていた。双子だろうか?青白い肌が印象的な女性。服装をふくめて酷似した2人はスレンダーな獣人だった。
「私はローラ、こっちは妹のマーラ、私たちは蛇獣人よ。熊獣人のお2人さん」
「助けてくれてありがとうございます。僕はシャンク、従兄弟のトールです」
「お姉さんたちありがとう」
「たいへんだったわねシャンク君」
「はい‥‥」
話をするとシャンクたち同様、外出中いきなり拉致されたという2人。
「私たちがティマーなの」
「だから悪い人に捕まったらたいへんなのよ」
「そうなんですね」
「お姉さんたちがティマーなんだ。動物さんたちと仲良くなれてすごいね」
「さあ頑張ってもう少し先に行くわよ」
「明るくなるまでにここからもう少し離れなきゃ」
「「はい」」
▼
「探せ、探せ」
「双子がまだだ」
「生意気な熊の子どももまだだねぇ」
「見つけたら殺せ」
残念ながら逃走は失敗だった。
足がつくのを恐る盗賊団は逃亡者を赦すことはない。多くの獣人が生命を落とす中、シャンクたちに危機が迫っていた。
――――――――――――――
すいません。シャンクの話が広がって終わりませんでした(苦笑)
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