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第2章 幼年編
276 39階層 初秋
しおりを挟む39階層に続く回廊が見えてきた。
後方500メルにはブーリ隊も続いている。
よーし気分一新、頑張っていくぞ!
ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥
「アレク!」
「はいキム先輩。蜻蛉ですよね」
「ああ風魔法を使ってくるぞ」
初めて見る魔物だけど、それほど危険性は感じない。てか、コイツらの翅は耐水性があるから使い勝手が良さそうだな。
てことはやっぱりこの先は雨が降るんだろうな。
ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥
高速の羽音を響かせて前方から現れたのは10匹ほどの蜻蛉。見た目オニヤンマなんだけど全長1.0~1.5メル(m)はある巨大な昆虫魔物だ。
◯蜻蛉
体長1.0~1.5メル(m)の虫型魔物。自身に風魔法を纏い高速で襲ってくる。
すれ違いざま攻撃対象を鋭利な翅で切り裂く。高速で対象物を切り裂くため、生身の手脚を切断することもあり得る。移動は直進のみのため、その進行方向をよく見ることが大事。食用不可。魔石なし。透明な翅は耐水性の高い衣料品として転用可能。
「羽根が刃みたいになってるからな。すれ違いざまに切られるなよ」
「はい」
刀を上段に構えて待機する。
「何が『風の刃』よ。たかがトンボのくせに!」
「そーだそーだ!」
プンスカと胸を張ってシルフィがご立腹みたいだ。シンディも同様。風系の2つ名のある魔物に対してシルフィたちの嫌悪感と言ったらもう笑っちゃうくらいだよ。そりゃ本家の風の精霊だからわからなくもないけどな。
「直前で逆ブーストをかましてやるわ。アレクいいわね!」
「(かますって‥)いいよシルフィ」
「シルフィけちょんけちょんにやっちゃえ!」
「もちろんよシンディ!」
(あーなんか蜻蛉がかわいそうになってきたよ)
「キム先輩俺がやります」
「任せたぞ」
ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥シュッ!
正面から一気に加速して蜻蛉が迫ってくる。こりゃたしかに速いな。虫系でもトップクラスの速さだ。でも‥‥シルフィの前で風魔法を使うのは悪手でしかない。
ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥
突っ込んきた。
ブワワワァァァァッッッ!
蜻蛉の目の前で両手を広げるシルフィ。いきなり巻き上がるシルフィの逆風だ。迫ってきたトンボはひっくり返ったり、その場でピタッと動きが止まる。
まるで宇宙遊泳をする人みたいだよ。そりゃパニくるわなコイツらも。
ザンッ ザンッ ザンッ ザンッ ザンッ!
ザンッ ザンッ ザンッ ザンッ ザンッ!
蜻蛉の魔物の胴体を真ん中から一刀両断する。
「ふんっ!」
なぜかシルフィが腰を捻ってすっくと立った。右ひじと左ひじをくっつけるようにして右手を天に上げ、左手を地面を刺しながら。
なんだよシルフィ、どこで覚えたんだよ!殺人女王様のJO立ちかよ!(でも‥カッコいいな‥)
蜻蛉の魔物からは翅のみを回収した。透明な翅はレインコートにちょうどいい感じだな。
「セーラ、また野営のときこれで雨除けのコートを作ってくれる?」
「はい!でもアレクみんな透明で色がないから残念です」
「ああそうだね‥‥」
セーラは7色のレインボーカラーが好きだったよな。たしかにこのコートにも色付けたら戦隊モノになるよなあ。みんなは何色が似合うんだろう。マリー先輩はやっぱピンク色かな。キム先輩は黄色かな。シャンク先輩は緑かな。セーラは赤か白かな。俺は‥‥闇落ちしたから黒かな。ちょっと嫌だけど。
服も何かで染色もできたらいいのに。
ブーンッ ブーンッ ブーンッ ブーンッ‥シュッ!
ブワワワァァァァッッッ!
ザンッ ザンッ ザンッ ザンッ ザンッ!
ザンッ ザンッ ザンッ ザンッ ザンッ!
回廊の道中襲ってくるトンボは尽くシルフィのカモだった……。
なぜかその都度さまざまなJO立ちをするシルフィだった。(ひょっとしてシルフィは俺の頭の中とリンクしてるんだろうか)
目の前が明るくなってきた。39階層だ。
晩秋の光景。
進行方向左側は芒(ススキ)の茂る海岸地帯だ。
稲穂のように美しい芒はまるで波に揺れる海の波のように広がっている。
太めの芒の茎は矢に使えるな。たくさん刈っていこう。
【 ブーリ隊side 】
「アレクも落ち着いたみたいだな」
「ああ、蜻蛉もアイツにかかったらまったく問題なしだよな」
「でもよ、去年はこの蜻蛉でも次から次へと襲ってきたからヘトヘトになったんだよな」
「そうだね。食糧も底を尽く前だったしね」
「だから結局40階層主のあとは撤退するしかなかったもんな」
「それでも去年は学園ダンジョンで過去2番めの記録だもんな」
「今年はまだまだ余裕もあるしな。今年はひょっとしてひょっとするかもよハハハ」
「オニールはそうやって油断するからダメなの」
「だから遠まわしに言ってるじゃねぇか」
「油断大敵、オニール問題児なの」
「変な標語にして言うなよな!」
「「「油断大敵、オニール問題児!」」」
「なんで皆んなでハモるんだよ!」
ワハハハハ
ギャハハハ
フフフフフ
あはははは
「おっ、ボル隊が止まったぞ。昼メシ昼メシ!」
「今日はほとんど朝と一緒だって言ってたよなアレクは」
「ギャハハハオイはあのおにぎり大好きだぞ!」
「おお俺もだゲージ。あの塩鮭?あれ最高だよな」
「貝柱もおいしかったの」
「海苔のツクダニ?もあるって言ってたよね」
「「「いただきまーす」」」
アレクが用意したおにぎりの具は塩鮭、貝柱、海苔の佃煮の3種類。お昼には朝にはなかった海苔で巻いた三角形の正統派のおにぎりだ。
ブーリ隊の5人は海苔にも興味津々となる。
「なんだ?この黒い羊皮紙みたいなもんは?」
「くんかくんか。海の匂いがするの」
「たぶん海藻で作ったんだろうね」
おにぎり自体の美味しさはもう食べるまでもなく知っている5人だ。
「「「美味い!(うま~い!)」」」
「この黒い羊皮紙みたいなやつもうまいな」
「海の香りだな」
「やっぱ塩鮭は最高だぜ」
「オイは貝柱も好きだぞ」
「この海苔のツクダニ?も甘くて柔らかくて美味しいね」
「塩鮭、貝柱、海苔のツクダニ。どれも最高なの」
「ああ、去年食糧も尽きかけてたのが嘘みたいだな」
「ああ干し肉とクズ野菜のスープ、カビの生えた堅いパンしかなかったよな」
「誰かは殺人的料理を作ろうとするしなクックック」
「オニール何か言ったの?」
「いえ!何も言ってません!てかこんなうまいもんを食べ続けられるなんて夢みたいだよな」
「ああ本当だね」
「それもこれもかわいい後輩のおかげなの」
「変態だけどな」
「「「ああ(間違いない)」」」
ワハハハハ
ハハハハハ
ギャハハハ
フフフフフ
あはははは
お昼ご飯のおにぎりはボル隊のみんなからは大好評だった。ブーリ隊のみんなも喜んでくれたらいいな。
右手に海、左手に芒を見ながら歩く旧道すじ。
芒の間からときどき襲ってくるのは蜻蛉の魔物ばかりだった。
海辺からは半魚人みたいな魔物も襲ってきたけど雷魔法の敵ではなかった。
魚もたくさん獲れた。
鯛みたいな魚も獲れたよ。海水からは海塩も作ったんだ。
「ちょっと待っててくださいね」
獲れたばかりの鯛は海藻と椰子の葉で巻いた。その上から作ったばかりの海塩で覆って発現した釜で焼いて鯛の塩釜焼きを作った。
夜ご飯にはこの塩釜焼きを食べてもらおう。トンカチを置いてこう。塩釜を割ってくださいってね。
土魔法で発現した板に説明書をつけてと‥‥。
「アレクの字は汚いから何書いてるかわかんないです!」
「えっ?」
失礼だなセーラは。
「えー読めるよ」
「本当に読めないです。ゴブリンのほうがマシだよ」
「ププッ、ゴブリンのほうがマシだって」
「フッあながち間違いではないな」
「てかゴブリンって字を書くのかよ!」
「それくらい字が汚いってこと!」
「セーラだんだん遠慮なくない?酷くない?」
「だってアレクの字の汚さは歌と一緒でゴブリン並だもん!」
「歌って‥ハッ!」
その瞬間、セーラの台詞が妹の台詞と重なった。妹のスザンヌもセーラと同じことを言ってたなって……。
後ろではシルフィとシンディも腹を抱えて笑い転げていた……。
「そんなにヘタヘタって言わなくてもいいじゃんか‥‥」
「じゃあアレク君僕が絵を描くよ。この板ちょっと貸してね」
そう言ってシャンク先輩がサラサラとイラストを描いたんだ。
「うわっ!シャンク先輩めっちゃ上手い!」
「ホント!シャンク君上手いわね!」
「シャンクお前‥それ才能だぞ」
「ホントです!アレクが1000字書くよりシャンク先輩の絵の方が100倍わかりやすいです!」
『塩釜を小槌で割って魚を出して食べる』
たしかにちょっぴり個性的な俺の字では1000字書いても伝わらないだろうけど‥‥。
のちにシャンク先輩が描くイラストはかわいいと学園中でも評判となった。
中原中でも人気となる絵本作家デビューの瞬間だった。
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