273 / 722
第2章 幼年編
274 吐き出す
しおりを挟む「「「お帰りー」」」
「ただいまです」
「どうだった?」
「はい、みんなに話を聞いてもらいました」
「そう」
俺は少しはにかみながらも笑顔で応えた。
行く前の逃げるようにブーリ隊に向かったときとは俺の顔つきが違うんだろうな。
話をしたことで今は少し晴れやかな気持ちにもなったんだ。
こっちでも、みんなにちゃんと思いの丈を話さなきゃな。
「その前にメシを作りますね」
▼
ボル隊の夜ごはんはお粥にした。
みんな病み上がりだからね。
「今日の夜ごはんは消化の良いお米のお粥です。食べられそうな人は焼魚や貝をのせて食べてみてください。この胡麻油を少しかけると味も深まります」
鮭や貝柱は少し干してから炙ったもの。塩味と素材そのものの味がするから食欲が湧いてくるはずだと思う。
鮭はまさにキングサーモンそのものの味だった。昔スーパーで買った安売りの冷凍鮭の塩焼きをよく食べさせられたけど、それよりもはるかに美味しかった。そんな鮭や貝柱を炙ったものをのせたお粥に胡麻油を少し垂らすと一気に中華風になって食欲も増すよね。でもまだ食欲があまりない人はお粥だけでいいんだ。
魚や貝は残ってもいい。明日のおにぎりの具材にするから。ここからはフードロスにも気をつけないとな。いつ補給もままならなくなるかもわからないから。
と言ってもたくさん確保してあるけどね。
「へぇー前も食べたやつだよね?麦のよく似たのは小さなころ風邪をひいたら食べさせられたわ。見た目も含めてあんまり美味しくなかったけどこのご飯のお粥?これは美味しいわね」
「ああなんだか優しい味だよな」
「魚や貝柱をのせると何杯でも食べられそうだよ。僕食欲も出てきたよ!」
「アレクこの胡麻油も美味しいです!」
「うん、良かった‥‥」
「あーアレク泣いてるー!」
「泣いてねーし‥‥」
「やーい泣き虫アレク!」
「言うよなセーラは!」
「当たり前です!アレクはほっとくとまたみんなに心配をかけるんだから!」
「ごめんって……」
「ホントよアレク君。セーラさんに心配かけ過ぎなのよ。ブーリ隊に言ってる間もセーラさんは心配して大泣きしてたんだから」
「あーマリー先輩言っちゃだめです!」
セーラが赤い顔をして下を向いていた。
フフフフ
あははは
「「「おいしかった。ごちそうさま」」」
お粥は俺も含めて満身創痍だったボル隊にはよく合ったみたいだ。
食後の「別腹」は塩大福を作った。ブーリ隊には同じやつを倍量ほど用意してきた。
塩大福は甘塩っぱくて大好評だった。
▼
「さて‥‥じゃあ聞こうか」
「ああ」
「「はい」」
「はい」
ボル隊のみんなの自然体にちゃんと聞くよって感じがとってもありがたい。
ブーリ隊の先輩たちもそうだったけど、あらためて俺は仲間に恵まれていると実感したんだ。
「アレク、ちゃんと話すんだよ。がんばれ!」
「がんばれ!」
シルフィとシンディの2人がマリー先輩の肩に乗って声援を送ってくれる。
「ちょっぴり長くなりますけど聞いてください」
うんうんとみんなが頷いてくれる。
「俺本当の名前はショーン・サンダーと言います。生まれはヴィンサンダー領領都サウザニアです。
父上の名はアレックス・サンダー、母上の名はセーラ・サンダーと言います」
「「まさか‥‥」」
マリー先輩もキム先輩も即座に気づいたようだ。
「先輩たちのお気づきのとおりです。父上はヴィンサンダー領の領主でした。
母上は俺が産まれてすぐに亡くなりました。病気で亡くなったのか、何か理由があるのかどうかは今ではわかりません。
父上は生まれたての俺の養育もあってすぐに後添えを迎えました。女の名はオリビア。家宰のアダムが何処から連れてきた女です。その直後に産まれた弟はシリウス・サンダー。顔は俺や父上にはまったく似ていません。性格もですが‥‥言い難いことですが家宰のアダムやオリビアによく似ています。
父上は母上が亡くなってから3年後にノクマリ草という毒草で毒殺されて亡くなりました。その葬儀の前後に俺もまた毒殺されました」
「酷い‥‥」
セーラが唇を噛みしめる。
「‥‥」
何か思うところがあるのか、キム先輩は難しい顔をしていた。
「父上の葬儀のとき、弟のシリウス・サンダーが世継ぎになると発表されました。まだ父上が生きているうち、父上は俺にヴィンサンダー領を託すとよく言っていました。が、もちろんその言葉の証拠はありません。
家宰アダムは現在ヴィンサンダー領では『お館様』と呼ばれています。家宰アダム、継母オリビア・サンダー、弟シリウス・サンダーの3人が現在のヴィンサンダー領を動かしています」
「悪名高いヴィンサンダー領主の3人組ね」
「マリー先輩、アレクの親族のこと知ってるんですか?」
「ヴィンサンダー領の3人組は王都でも何かと有名よ」
「ああ黒い噂の類いは俺でさえも知ってるぞ」
「そんな‥‥」
セーラが青い顔をしている。
「俺も父上の葬儀からすぐに毒殺されました。が、それを事前に察知していたモンデール神父様のお力添えで毒殺されたショーン・サンダーもまたこの世を去りました。そして開拓村デニーホッパー村の農民の子アレクが誕生しました。ヴィヨルド学園に来るまでは、モンデール神父様、ディル神父様、シスターナターシャの庇護下で俺は努力してきました」
「不倒、不断、知恵のナターシャさん。ヴィンサンダー領が王国中に誇る3人がアレク君を支えたのね。そしてそこにホーク叔父さんも加わったのね」
「は、はい‥‥」
俺はいつしかまた泣きながら話をしていた。それはブーリ隊で話をしたときと同じで、話をすればするほど心が軽くなっていく気がしていた。
「3歳のとき、名を捨ててこのまま農民として生きていこうとも思いました。実際、俺を本当の息子として可愛がってくれている両親の愛情はとても深いものでしたから。
だけど‥‥魔法を覚え、ディル師匠から剣を学んで歳が経つほど‥‥だんだん俺は勘違いをしていきました。俺は強くなったんじゃないかと。さらに父上と俺を毒殺し、すべてを奪った家宰たち3人への憎しみの思いは消えることもなくどんどん大きくなっていきました。人伝に王都から聞こえてくる3人の醜聞も、俺の心に潜むどす黒いものをどんどん大きくしていきました。その怒りや憎しみやはだんだん隠しきれなくなっていきました。
そんなとき、バブルスライムがみんなを傷つけました。俺の心の中にみんなが倒れていく絶望感とバブルスライムへの憎しみがいっぱいになりました。不条理じゃないかって。
そして俺は‥‥俺の心の命ずるままに闇落ちしました。酷いことをする奴には同じくらい酷いことをすればいい。暴力には暴力で対抗すればいい。そう結論付けた俺は、暴力を振るう自分自身に酔いしれたんです。でもリズ先輩とセーラが俺を信じてくれたおかげで俺は踏みとどまることができたんです。
死んだ母上も闇落ちした俺にまだ間に合うと言って現れました。
あのとき、リズ先輩と母上のおかげで還ってこれました。
でも、もしあのまま闇落ちしたら俺はみんなを危険の中に置き去りにしたと思います。
だから闇落ちから還ったあとにセーラとリズ先輩に助けられたんです。俺は‥‥俺は最低でした」
「う、ううっ‥‥」
セーラが咽び泣いている。その姿に俺は胸が締めつけられるような気がした。
「俺はこの学園ダンジョンが終わってもしばらくはこのアレクの名前のままで生きていきます。
そしていつか本当の名前を出しても誰からも後ろ指をさされることなくちゃんと生きられるようになったら、父上と俺の無念を正々堂々と晴らしたいと思います。以上です」
これまで溜めていたものを吐き出した。
言ったことに後悔はない。それどころか、言ってよかったと自分自身を鼓舞する気持ちも溢れたんだ。みんなに謝って、許してもらって、それからちゃんと生きていかなきゃなと改めてそう思ったんだ。
――――――――――――――
いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
異世界召喚されました……断る!
K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】
【第2巻 令和3年 8月25日】
【書籍化 令和3年 3月25日】
会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』
※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる