272 / 722
第2章 幼年編
273 38階層 告白
しおりを挟む「じゃあ今日はこのままここで野営ね」
「「「はい」」」
「夜警はまだキムやシャンク君には負担かな?」
「いや俺はもう大丈夫だ」
「僕も大丈夫です」
「マリー先輩夜警は必要ないと思います」
「えっ?」
「はい、たぶんこの階層ではこのまま魔獣は1体も来ないと思います」
「そう‥‥それはアレク君が知ってる何かに理由があるのね?」
「はい‥‥」
「‥‥うんわかったわ。なら余計ゆっくりできるわね」
「そうだな。それもアレクとセーラのおかげだな」
「そうよねー」
「僕が倒れたあともアレク君は頑張ってくれたんだよね。セーラさんは僕の足まで治してくれたし」
「いえ違います‥‥キム先輩、マリー先輩、シャンク先輩、今回俺は迷惑しかかけてません。セーラとリズ先輩がいなかったらお、俺は‥‥」
「「アレク君?」」
「アレク?」
言葉が満足に出てこなかった。
歯痒さというか、自分自身の情けなさと恥ずかしさに逃げ出したくなるくらいだった。
でもちゃんと話さなきゃ。
「まあとにかくゆっくりするんだから今日はゆっくり何が起こったのか話を聞こうか」
「そうだな」
「その前に僕なんだかとてもお腹が空きました」
「私もです!」
「じゃあアレク君何か作ってくれる?」
「はい。でもすいません。その前に‥‥」
「そう‥‥わかったわ」
結局朝までゆっくり休憩することにした。例によって堅固な男子寮を発現したけど、おそらくこの階で魔獣に襲われることはもうないと思う。
「すいません、俺先にブーリ隊のところに行ってご飯を作ってきます。あっちでも
先輩たちにもちゃんと説明しなきゃいけないし。行ってきます。フライ!」
いたたまれなくなって逃げるように野営食堂を出発したんだ。
「マリー、アレクは飛べるようになったのか?!」
「ええ私も初めて見たわ」
「えっ!?僕も初めて見た!すごいよアレク君は」
「マリー先輩が倒れてからです。一気にいろいろと進んだのは‥‥」
「みたいね‥‥」
「それも含めてあとでアレク本人から話があると思います」
「そう。でもセーラさん、最後にはみんなが笑えるんだよね?」
「はい!」
「じゃあいいじゃない。ねぇキム?」
「ああそれなら問題ない」
「いいよねシャンク君?」
「はい僕もぜんぜん問題ありません」
「だってセーラさん。どうやら今回はセーラさんがすごくがんばってくれたみたいだしね」
「はい‥‥う、ううっ。うわぁーん」
そう言ったままセーラは泣き出したそうだ。そんなセーラをマリー先輩がずっと肩を抱いて背中をさすっていたそうだ。
▼
「あれ?どうしたアレク?」
「お前!?飛べるようになったのか?」
「ギャハハハ、オメーは相変わらず予想の数段上をいくな」
「でどうした?」
「メシ作りにきました」
「おーそりゃあうれしいなぁ」
「俺たちブーリ隊はリズ以外何もやってないからな。それでも腹は減るんだよ」
「ははは。たしかに何もしてなくてもお腹は空くね」
「はい。じゃあ少し待っててください」
「それと野営陣地も一応発現しときますけど、たぶん明日の朝までこの階層では魔獣は来ないないと思います」
「そうなのか?」
「ん。アレクが言うならそう。何だったらオニールだけ下にいても大丈夫」
「なんで俺だけ1人で外なんだよ!」
「今回はオニール像がないからオニールが代わりに立つのがいいの」
「なんだよ、それ!」
「早く像立てろよアレク」
「はい‥でも俺‥」
「チッ‥‥お前‥‥なんか調子狂うよなまったく!」
「す、すいません。ほ、ほんとにすいません。うっうっ‥‥」
みんな何も言わずに俺がメシを作ってる間も静かに待っててくれたんだ。俺はメシを作りながら‥‥とにかく泣き続けた。
食事は鮭のおにぎりを作った。
「これあとで食べて
ください」
「ありがとうな」
「楽しみだぞ」
「早く食いたいからさっさと話せアレク」
「そうだぞ」
みんなが気を遣ってくれるのが余計に辛い。
そしてしばらく沈黙のあと。
ごくんっ。
意を決して俺は話だした。
「俺、先輩たちに隠してたことがあるんです。俺の本当の名前はショーン・サンダーと言います。
父上の名はアレックス・サンダー、母上の名はセーラ・サンダーと言います」
「話の途中でごめんね。アレク君それってもしかしてヴィンサンダー領の先代の領主様だよね」
さすがビリー先輩だ。
「はい、ビリー先輩の仰るとおりです」
「「マジか‥‥」」
オニール先輩やタイガー先輩たちは目を丸くして驚いている。リズ先輩は‥‥ずっと目を瞑っている。
「母上は俺が産まれてすぐに亡くなりました。
そして父上は俺の養育もあってすぐに後添えに迎えたのがオリビア・サンダー。家宰のアダムが何処から連れてきた女です。後に産まれた弟はシリウス・サンダー。確証はありませんが、俺や父上にはまったく似ていません。
「まさか家宰似か?」
「はい‥‥。そして家宰アダムは現在ヴィンサンダー領では「お館様」と呼ばれています。家宰アダム、継母オリビア・サンダー、弟シリウス・サンダーの3人が現在のヴィンサンダー領を動かしています」
「悪名高いヴィンサンダー領のご当主様一行だね」
「ああ俺も聞いたことあるな、それ」
「で、それってあれか‥‥乗っ取りか‥‥」
「真相はわかりません。ただ父上は俺が3歳のときに毒殺され、次いで俺も毒殺されました。が、モンデール神父様が一計を案じて俺を死んだこととして救ってくれました。以来俺はデニーホッパー村の農家の息子アレクとしてディル神父様、シスターナターシャの庇護の下、現在に至ります」
「不倒に不断、知恵のナターシャさんがアレク君の後見なんだね」
「はい」
「どうりでアレク、お前の太刀筋は正統の王都騎士団の流れなんだな」
「それだけじゃないよね。魔法も含めて王国超一流の師匠たちがアレク君を教えてくれたんだね」
「はい‥‥」
「でもそれで父ちゃんは自分まで殺されたら割に合わねえじゃないか」
「オニールまずは続きを聞くの」
「ああ、すまねぇ」
「父上を殺し俺を殺したのはおそらく家宰や義母たちです。今も神父様を始め、俺を庇護してくれる人たちがその証拠を探してくれています。
だけど‥‥俺の彼らへの憎しみは消えません。3歳から今まで多くの人に助けられてきたことに感謝の気持ちには変わりません。どれだけ感謝しても感謝したりません。ですが‥‥俺のその憎しみの気持ちは年々強くなるばかりでした。そしてその俺の弱い気持ちが今回の闇落ちに繋がりました……。
俺は自分の中の弱い気持ちに真っ直ぐに向き合えることができなかったんです。
とにかく強くなれればなんでも上手くいくんだと勘違いしてたんです。だから、リズ先輩とセーラが俺を救ってくれなければ俺はそのまま闇落ちして、結果的にみんなも生命の危険に遭っていたと思います。本当に、本当にごめんなさい」
「「「‥‥」」」
「いいじゃねぇか。親殺されて自分も殺されかけちゃ恨まないほうがおかしいぜ」
「オニールの言うのには一理あるな」
「それでも!それでも俺は間違えた方向を勝手に正しいって判断してました。リズ先輩には俺は強くなっただろうって言って‥‥」
「アレク、オメー勘違いしてないか?」
「えっ?」
「オメーを救いに行くってリズが言ったとき何て言ったと思う?オメーを闇落ちさせないためだけに向かったと思うか?」
「だって俺が闇落ちしたらみんなにも迷惑かけるし‥‥」
「リズはなぁ、何も言わずに『一生1度切りのお願いだって』言ってこの場を離れたんだぞ?リズの気持ちがわかるか?」
「‥‥」
「アレク君、君のこれまでに出会った人たち、もちろん僕たち6年生やシャンク君も含めてね‥‥君が復讐に駆られて闇落ちしたらみんな悲しむだろうね」
「‥‥」
「俺も復讐が悪いとは思わないが、アレクがこのままそんな小ちゃなことて堕ちていくのはみたくないな」
「俺もだギャハハハ」
「つまりな俺も含めてみんなお前が好きなんだよ。だから途中何があったって信じてるし、リズみたいによっぽどのことでも口外はしないんだよ」
「逆にお前でもそうだろ」
「仲間だからな」
「正々堂々と父上と俺のの汚名を晴らしたいです。だから俺はまだヴィンサンダー領農民の子どもアレクとしてこれからも一生懸命に生きていきます
「よし、明日からまた頑張るぞ。もう2度とこの話はしないからな。お前はただの変態のばかな後輩アレクだからな」
「オニールにばかって言われたら終わりなの」
「なんでいつもそうなるんだよ!」
「それがオニールだからなの」
「「「そうだそうだ!」」」
「意味わかんねーわ」
「ヨシ、アレク戻れ。俺たちは今からメシ食うので忙しいからな」
「‥‥はい」
「じゃあ明日な」
「「「いってらっしゃい!」」」
「‥‥行ってきます!」
行こう。みんなが待ってるボル隊へ。
――――――――――――――
いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
異世界召喚されました……断る!
K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】
【第2巻 令和3年 8月25日】
【書籍化 令和3年 3月25日】
会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』
※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜
大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。
広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。
ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。
彼の名はレッド=カーマイン。
最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。
※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる