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第2章 幼年編
270 無双
しおりを挟む「フライ!ブースト!」
バブルスライムを倒したあと、500メル先の前方から接近してくる魔獣群を探知した俺は魔獣の群に向かった。
フライ(浮上)の魔法も何の違和感もなく十全に扱えている。全身に満ち満ちている俺の強さはどうだ!ああ、俺は強い!
飛んでいくとき、倒れたマリー先輩もセーラに預けたから、あとはセーラが上手くやってくれるだろう。
「アレク!」
でもセーラが心配してたよな。大丈夫だって。俺は強くなったんだから心配しなくてもいいんだよ。
▼
「オーク、オーガが100体か。クックック、ちょっとくらいは楽しめるかな」
ギュイイイーーンッ!
自身を浮上させ地面との摩擦をゼロにして一気に魔獣との距離を詰める俺。堂々と奴等の真ん中にゆっくりと降りてやった。
このときの俺は無敵の自覚があったんだ。力を振るうたびに感じる圧倒的な優越感。それはとてつもない昂揚感となって俺の中に快感を呼び起こしていった。俺は強い。俺は強い。俺は最強だと。
ギャッギャッギャッギャッギャッ‥
ウォーウォーウォー‥
ガルルルーッ ガルルルーッ ガルルルーッ‥
降り立つ俺を広く取り囲むかのように魔獣がひしめいている。
サスカッチのときと同じ。2列縦隊となっているのはオーク、オーガ群100体。周囲にはワーウルフやヘルハウンド、コボルトなども100体。さらに100体の魔獣もいる。ところどころにはゴブリンメイジやゴブリンソルジャーも潜んでいる。
「たくさん集まったな。テメーらに一応聞いといてやるよ。この線を越えたら殺す。越えなかったら許してやるよ」
そう言って俺は俺のまわりにぐるっと20メルにメギドの青白い光の円を引いた。
ギャッギャッギャッギャッギャッ‥
ウォーウォーウォー‥
ガルルルーッ ガルルルーッ ガルルルーッ‥
俺を取り囲んで咆哮を上げる魔獣たち。
ん?いるな。
「クックック。居たか」
魔獣群の最後尾に‥‥アイツが居た。
それは魔獣群のさらに後方300メル。慎重に隠れている奴だ。
「ゴブリンソルジャーみーっけ!ククッ、テメーは許さないからな。またセコく隠れやがって」
「メギド!」
300メルをものともしない攻撃力。
ギャーーーーーッッ!
「射程外だと思ったんだろ?慎重なことだよな。でもはずれー残念賞!」
ゴブリンソルジャーの片足をメギドで刺し貫いてやる。
レーザーのようなメギドの青白い炎は当たったら最後決して鎮火できない。未来永劫その場を燃やし続けるんだ。
魔獣群の間に潮が引いたような道すじが現れる。俺専用の強者の道すじだ。
七転八倒、転げまわるゴブリンソルジャーの足を踏んでやる。
「ん?痛い?痛いのか?ごめんなさいは?ごめんなさいは?ごめんなさいって言わなきゃダメだろうがよ!」
ダンダンダンダンッ!
ギャーーーギャーーー
「アレク‥殺す!アレク‥殺す!」
「おー喋れるようになったか!進歩したな。偉そーに殺すってか!やってみろよ、ほらほら」
ガンガンガンガンガンガン!
ギャーーギャーーギャーーギャーー
「ほらほらやってみろよ!」
ガンガンガンガンガンガン!
ギャーーギャーーギャーーギャーー
メギドで燃えてないほうの脚を踏んでやったよ。
グリグリ グリグリ グリグリ
「ホラホラ闘ってみろよ!」
最初の勢いはどこへやら。だんだんと生気が乏しくなってきたゴブリンソルジャー。
「なんだ。もう元気がなくなったのか。あんまりやり過ぎると後の楽しみがなくなるからな。とりまこのへんでやめといてやるよ。ペッ!」
顔に唾をかける。
「ア、アレク‥‥」
瀕死のまま、それでも俺を睨みつけるゴブリンソルジャー。
「あとで遊んでやるからそこで見とけ。ワハハハハハハ」
ガーンッッ
ゴブリンソルジャーの顎を蹴りあげる。
「フライ!」
そして最初の場所に戻った俺。
地中から椅子を発現させて座った。
「よーしてめーら退却してもいいし攻めて来てもいいぞ」
そう言って両手を広げジェスチャーたっぷりに魔獣たちに選択肢を与えるのだが、逃げる素振りをする魔獣は1体もいない。かと言って向かってくる魔獣も1体もいない。
ギャッギャッギャッギャッギャッ‥
ウォーウォーウォー‥
ガルルルーッ ガルルルーッ ガルルルーッ‥
思うがままに叫ぶばかりの魔獣。コイツらはただただ戸惑っているんだと思う。だって指示を出すはずのゴブリンソルジャーは今や瀕死の有様だから。
「わかったわかった。じゃあかかってこいよ!」
今度は万歳をして好きに攻めてもいいぞとばかり椅子を後ろに下げながら余裕でぶらぶらとやるんだが……。
さすがの魔獣たちにも彼我の力の差がわかるのかギャーギャーと騒ぐばかりで誰も飛びかかってこない。
「めんどくせえ奴らだな。じゃあこれならどうだ?メギド!」
瀕死のゴブリンソルジャーに近い300メル後方から少しずつ中心円に向けて迫ってくるように、逃げられない青白い炎(メギド)の壁を作ってやった。
ギャーーッ!
巻き添えを食らった魔獣は早々とのたうち回っている。
「ほら、これなら逃げられないぞ。どうする?どうする?どんどん炎は迫ってくるぞ?ワハハハハハ」
ウーヴァァァァァーーーー!
意を決して玉砕覚悟の1体のヘルハウンドが飛びかかってきた。そしてそこから先は全員の魔獣たちに攻撃の意志が伝播したようだ。
「攻撃っつっても今のテメーらにゃ恐怖の連鎖なんだろうがな。玉砕覚悟で突っ込んでくるしかないよな、クックック」
ギャッギャッギャッ‥
ガルルルーッ‥
「鉄条網の前にサンパチ式歩兵銃片手に突っ込む馬鹿どもめ!」
そこは鉄条網よりはるかに凶悪な青白い炎が待ち構えている。
後ろから迫ってくる青白い炎と併せて、飛び越えようが突っ切ろうがすべての魔獣たちに均等に降り注ぐメギドの炎だからだ。
ギャーーーーーーッ
断末魔の叫びを上げて最初に飛び越えようとしたヘルハウンドが全身を青白い炎に焼かれ生きながら灰燼となる。後に続く魔獣も同様。身体の大きさも俊敏さもまるで関係なし。すべての魔獣に平等に与えられる絶対の死の連鎖だ。
ギャーーギャーーギャーーギャーーギャーーギャーーギャーーギャーーギャーー
「おいおい、簡単に倒れすぎだっつーの。もう少しは楽しませてくれよ」
メギドの炎を越えてくる魔獣はすべてが青白い炎に焼かれて倒れていく。
後方の迫り来る炎を飛び越えて逃走を図る魔獣も出てきたが、その魔獣たちも青白いメギドの炎に巻かれてなす術なく倒れていく。
ギャーーギャーーギャーーギャーー‥
ワハハハハハハハ
「ケツに火をつけてじゃねーよ。ワハハハ腹いてー」
阿鼻叫喚の地獄絵図となっていく最中、100体のオークオーガたちは唯一未だ隊としての規律を保っていた。
微動だにしない。
それはサスカッチたち2人を思い出させた。
「おーすげぇな。お前らはまともだよ。うん、お前らは悪くない。サスカッチの仲間かもしれないしな。よし、そのまま行っていいぞ」
圧倒的な強者、生与奪の権を今この場で手中にしているのは俺なんだ、そんな思いの俺はあらためて快楽に酔いしれながら立ち上がる。
「うん、ゴブリンソルジャー、アイツだけは殺しとこう。フライ!」
そして300メル前方のゴブリンソルジャーの元へ戻ったんだ。
するとゴブリンソルジャーは居なくなっていた。燃える片足1本を残して。
「ハハハ。足を切って逃げたか。またいつでも殺しに来い!待ってるぞー!」
大声で俺は叫んだ。
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