アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

267 バブルスライム(後)

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キム先輩、シャンク先輩の2人が重体となった。それでもバブルスライムの侵撃は止まらない。
当初あった俺の燃え滾るような激しい想いはだんだんと静かに落ち着いていった。


感情の欠落?
そうかも。たぶん今の俺の目は魚の目みたいなんだと思う。

厭世?
これもそうかも。真面目に生きている人間が馬鹿を見る、こんな世の中がだんだん嫌いなってきたのかもしれない。

(真面目な人間が馬鹿をみる?それって絶対に違うだろ‥)


 「アレクしっかりしてよ!アレク!アレク!」

シルフィがずっと俺の横で叫び続けている。

 「俺は大丈夫だよシルフィ‥」
 「大丈夫じゃない!大丈夫じゃない!大丈夫じゃない!」

 シルフィの目には涙が光っている。
ごめんなシルフィ。たしかに大丈夫じゃないのかもな。でも落ち着いてるんだよ俺は。

(なぜ真面目な人間が馬鹿をみる?なぜ悪意を振り翳す奴の意向が通るんだ?違うだろ?堂々巡りをする俺の心中‥)


(バブルスライムだけじゃない。なぜだ?なぜ他人に悪意を振り翳す奴がいる?なぜだ?弱いから仕方ないのか?なぜ悪意を押し通す?強いからなのか?なぜ放っておかない?なぜだ?人は悪意を注がれれば痛いし、傷つくんだぞ?なぜだ?なぜだ?なぜだ?)


俺の想いは堂々巡りをした。



そして‥‥

ついにもう1人の俺が誕生した。


俺の中に語りかけてくるもう1人の俺が現れた。

(そのとおりだよ。お前は悪くない。ただお前のまわりが不条理なだけなんだよ)
(なぜ不条理なんだ?)
(フッ。不条理の理由か。そんな理由はお前がいちばんわかっているだろう?)
(‥‥俺が弱いからか?)
(それしかあるまい)
(お前は俺なのか?)
(ああ。だから俺はお前の気持ちがいちばんわかるのさ)
(‥‥)
(弱っちいお前は不条理な世の中を不条理だって不平不満を言うしか能がないんだよ)
(じゃあどうすればいいんだ?)
(それもお前は答えを知ってるだろ?不条理な奴、不条理な世の中を否定すればいいだけのことだよ)
(不条理な奴を否定する‥‥)
(ああ。そしてお前はそれができるくらいに強いはずだ)
(俺は強い?)
(ああお前は強い。白と言い張る奴らの黒いものを裏返せるくらいにな。それは歪んだ不条理を正せるくらい強い本当のお前自身の強さだよ)
(俺は強い?)
(ああお前は強い)
(俺は強い。俺は強い。俺は強い‥)
(くだらないことに悩むな。お前は強い。行け!)
(ああ)


俺の中の俺に導かれるまま、ついに俺はある解答を導き出す。

(アレク、もうわかるだろう。お前の為すべきことが)
(ああ‥)


もう決めた。やられたらやり返そう。どんなに謝ろうが絶対に許さない。悪意には悪意を。倍返しだ。ブツブツ‥‥。


いつのまにかボル隊の戦力はマリー先輩と俺の2人だけとなった。障壁のなかではセーラが懸命に回復治癒にあたっている。


ピョーン ピョーン ピョーン ピョーン‥

バブルスライムの標的はマリー先輩、俺、障壁のセーラに絞られた。

ギユュュュンンッッッ!

ガアァァァンンンッ

ギユュュュンンッッッ!

ガアァァァンンンッ

幾度となく障壁にぶつけられるバブルスライムの悪意。
ガラス張りの障壁を打ち破ろうとするバブルスライムの激しい体当たりだ。

障壁内ではセーラが懸命に障壁を維持し続けながら両手をキム先輩、シャンク先輩に当てつづけている。

シュッ!

シュッ!

マリー先輩はシンディの補正の下、矢を射続けている。

そして突如‥‥あって欲しくない最悪のシナリオがついに訪れる。


シュッ!

矢を放った瞬間を合わせるように。バブルスライムがマリー先輩を急襲した。

ギユュュュンンッッッ!

 「くっ!」
 「マリー!」

咄嗟にシンディのエアガードがその間に入るのだが‥‥。

ガアァァァンンンッ

バブルスライムの体当たりを受けて吹っ飛ぶマリー先輩。

 「マリー先輩!」
 「マリー!マリー!マリー!」
 「だ、大丈夫……。シンディのおかげよ‥‥」

ガクガクガクガクガクガクガクガクッ‥

真っ青な顔になりながら、それでも立ちあがろうとするマリー先輩。口元からは吐血が見られる。

 「マリー先輩!マリー先輩!マリー先輩!」

必死に叫ぶ俺に歯を食いしばるように精一杯の笑顔をみせるマリー先輩。

(バブルスライムお前は間違っている。なぜ虐げる?マリー先輩からお前を虐げたか?違うよな?お前からだ。もうやめろ。これ以上は許さない。俺はお前を決して許さないし、俺は俺を許さないブツブツブツ‥‥)


ピョーン ピョーン ピョーン ピョーン‥

バブルスライムが追い撃ちを仕掛けた。

ギユュュュンンッッッ!

ガアァァァンンンッ

再び吹き飛ばされるマリー先輩。
(なぜだ?なぜだ?なぜだ?なぜ悪意を振り翳す者が勝つ?不条理だろ)
(アレク‥‥お前はまだくだらない言葉遊びを続けるのか?)



 「シルフィ、シンディと2人でマリー先輩をセーラのところへ」
 「「アレク‥わかったわ」」

 「フライ!」

俺はクイッと人差し指を上げ、浮上させたマリー先輩をシンディとシルフィに任せる。

 「「マリー!マリー!マリー!」」

浮上したマリー先輩を聖壁に運ぶシルフィとシンディ。















この瞬間。俺は1人になった。






(行けアレクよ‥‥)







パリーーーンッッ


俺の中で壊れちゃいけない何か大切なものが壊れたような音がした。

(やられたらやり返す。どんなに謝ろうがお前は絶対に許さない。悪意には悪意を。倍返しだ。ブツブツ‥)

俺はバブルスライムに向かって歩き出した。




――――――――――――――


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