アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

262 白玉入りお汁粉

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 「あーコメは美味かったなぁ。食ったーって満足感がすごいよな。あっ、コメじゃなくって白ご飯って言うんだったな」

オニール先輩の言がすべてを表してる。

大絶賛だったお米のお披露目会。結局、1人2合炊きの土鍋ご飯プラス1升炊いたご飯が完食だった。あらためてみんなの大食い具合にびっくりだよ。そのくせ、誰も太ってないんだよな。この世界はやっぱり不思議だよなぁ。


 「アレク、今日の別腹は何?」
 「おお、別腹も楽しみだぞ」

 (あー食後のデザートが普通に別腹になってるよ)

 「楽しみ、楽しみ」
 「はい、今日の食後のデザートは白玉入おしるこです」
 「シラタマ?オシルコ?」
 「はい、白玉入お汁粉です」
 「でもよ、本当にアレクはいろいろ知ってるよなぁ。それも古文書からか?」
 「い、いえ、これも村に来た旅人さんに教わった食べものなんです」
 「へぇー、白ご飯といい、その旅人さんには感謝しねぇといけねぇなぁ」
 「は、はい。あははは」
(旅人って言っても俺のことなんですけど。しかも時間も世界も飛び越えてきた旅人なんですけどね)

そう言いながら、俺が出した今日のデザートは白玉入の冷たいお汁粉。
保存に重宝する豆を水分たっぷりに柔らかく煮て甘味付けしたお汁粉を冷やしたものなんだ。中には雑穀の蒸した稗もそのまま入れてあるよ。こうするとプチプチした食感が楽しいんだ。

白玉はお団子を作ったときに余分に作っておいたもの。俺的には甘さを控えめにしたつもりだったけど、試食したらやっぱり甘かった。でも甘さに飢えてるみんなには甘すぎるってことはないよ。毎日神経も体力もすり減らしてるから、身体は甘味を欲しがってるはずだしね。

 「はい、できました」
 「よっ!待ってました!」
 「そうそう、甘味はそろそろ本当に減ってますからね。お代わりは1人1杯までですからねー」

そう、食糧の備蓄はお米が増えたことによりかなり改善したんだ。何よりリアカーには魔獣肉やコメなどを追加でたくさん詰めるようになったしね。ナマモノ保存にはクーラーボックスが大活躍だし。

だけど、メイプルシロップとマヨネーズはかなり減ってきた。このままいけば、あと1ヶ月は保たないよ。さすがにダンジョン内にメイプルシロップの木(カエデ)はないだろうし、コッケーもいないし。
やっぱりマジックバックがほしいよなぁ。あれがあれば食の悩みも解消するのになぁ。


 「では召し上がれ」

器を抱えて、スプーンを口にするかどうかと戸惑うみんな。

 「なんか見た目がアレだよな‥」
 「ドロっとしてるよな‥」
 「病気になったとき、食べさせられる麦や芋を潰したお粥みたいなの‥」
 「今日の別腹はちょっと‥」


お汁粉を前に半信半疑のみんな。でもお汁粉のスプーンを一匙口に入れた途端に、目を輝かせたんだ。

 「「「あまーい!!」」」
 「「「うまーい!!」」」

そこからは早かった。

 「甘くて冷たいスープだ」
 「シラタマ?これもうまーい」
 「ときどきプチプチした稗もいい感じで舌にくるの」

みんながそれぞれに感想を言って、最後にはみんなでハモって叫んでたよ。

 「「「お汁粉うま~い!!」」」


みんな喜んでくれたんだけど‥‥

 「アレクのケチ!」
 「ケチ、ケチ、ケーチ!」
 「なんと言われようが、もうありませんし、もう作りませんよ!」
 「「ケチ、ケーチ!」」
 「マヨネーズだって直飲みしてるからなくなってきたんですよ!その内メイプルシロップもなくなったら、塩味のものしか食事に出せませんよ!」
 「ケチケーチ…」

最後には渋々納得‥‥いや、諦めてくれたみたいだけど‥。代用できないものに関しては、これはもうどうしようもないよな。


――――――――――――――


食後はそれぞれが休憩室でいつものルーティンだ。
戦闘靴を磨いているタイガー先輩やオニール先輩の姿はもはや見慣れた光景だ。

そんな中、俺はセーラから聖魔法「フライ(浮遊)」を教わっている。
フライが聖魔法扱いなのはなんか不思議なんだけどね。

 「いくよ、フライ!」

そう言って本日何回めかのスプーンが宙に浮き上がる。

ふよふよふよふよ~

 「ねえセーラ、どうやって浮かぶとか、イメージとかある?‥それから今何か考えてる?」
 「うーん‥‥お汁粉をもっと食べたい!」
 「あーお汁粉ねお汁粉‥」

セーラはイメージというか特段意識をせずに対象物を浮かび上がらせることができる。
そういや、モンデール神父様のフライはすごいって聞いたよな。めちゃくちゃ重いものを浮かばせるって。そんなすごい人のフライもやっぱり何も考えなくてもできるんだろうな。羨ましいぜ、まったく。
俺は‥‥うーん、ダメだ。ぜんぜん上手くいかない。

村で風魔法をベンから教わったときに軽い羽根を飛ばすイメージだよって教えてもらったから、フライも羽根がうかぶイメージかなって練習してるんだけど‥‥ぜんぜん浮かばないよ。風魔法と何が違うんだろう?



 「セーラ先生、もう1回お願いします」

はい、本日30数回めのセーラ先生の実技演習の時間です。簡単にスプーンを浮べるセーラをじーっと見続ける俺。うーん、何が違うんだ……。

 「セーラ先生、もう1回!」
 「アレク、ちょっぴり飽きてきました‥‥」
 「あーそうだろうねぇ」

 俺はセーラにひたすらスプーンをフライ(浮揚)してもらってるんだけどその原理がまったくわかんないや。イメージ戦略も上手くいかないし。対して、セーラは同じことばかりで飽きてるよな。
と、その様子を見ていたビリー先輩が声をかけてきた。

 「アレク君、参考になるかわかんないけど、階層主のリッチは両手を上げて詠唱してゾンビを発現していたよ」
 「あービリー先輩ありがとうございます」

せっかくビリー先輩が気を遣って言ってくれたんだ。一応マネしとこうかな。
 「こんな感じですよね」 

 そう言って俺はスプーンの前で両手のひらをくいくって上げてみせる。

 「上がれー上がれースプーンよ上がれー!」


 ふよふよふよふよー

 「えーーっ!マジ?」
 「アレクできたよ!」
 「アレク君できるじやないか!」
 「うぉぉ~ビリー先輩のおかげですー!」



 そう、手のひらを上げることと、「上がれ」って唱えたことのたったそれだけ。シンプルなんだけどほとんど無意識のうちにスプーンをフライすることができたんだ。すげぇー、さすがビリー先輩だよ。
そこからはいつものとおり。ひたすら反復練習。努力することだけが俺の得意としてることだからね。

 「フライ!」
 「フライ!」
 「フライ!」

うん、無詠唱でも浮くな。そんなこんなで2日の休憩の間にフライを覚えることができたよ。







 「アレク、セーラ、ちょっと話があるの」
 「「なんですか?リズ先輩」」
 「アレクは魔力量が豊富。私とセーラは少ない。だからもしもの時にアレクの魔力を譲渡してほしいの」
 「えっ?俺はぜんぜんいいんですけど、どうやるんですか?」
 「ん、ただ手を繋いでいるだけ」
 「へっ?」
そう言ったリズ先輩が休憩室の椅子を3つ向かい合わせにして俺たちにも座るように促した。そして座った3人が手を繋いだ。ただそれだけだ。

 「魔力の循環経路は人それぞれなの。だけど、手を繋いでいるうちにお互いの魔力経路が繋がるの。だからひたすら手を繋ぐだけなの」
 「へぇー。セーラ知ってた?」
 「私も知らなかったです!」


 リズ先輩の小ちゃな手は柔らかくてやっぱり俺はドキドキした。セーラの手も温かかった。2人の女の子たちと手を繋ぐ、それだけでなんだかとっても嬉しくなる俺だった。

 (ひそひそ、マリー先輩、またアレク君が鼻を膨らませています)
 (ひそひそ。本当に凝りないよねー、やっぱり変態なのかしら)
 (ははは。本当にそうかもしれませんよ)


このときの俺は、魔力譲渡の効果もぜんぜんわからなかったんだ。だけど‥‥後々に手を繋いでおいてよかったと心の底から思ったんだ。


――――――――――――――


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