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第2章 幼年編
258 リッチ(中)
しおりを挟む「さあみなさん、お客様のおもてなしですよ。おいきなさい。$$€€##**$$££‥…」
そんな言葉を発したリッチは、両手を下から上に持ち上げるように床からゾンビを次々に発現させた。
ズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズ‥‥‥
ブーリ隊との間に溢れんばかりに湧き出るゾンビ群。
「おいおい、何体出てくんだよ!クソが!」
思わずオニールが悪態をつく。さもありなん。まさに雨後の筍。しかも高速早送りのように、ゾンビがわらわらと床の中から現れた。
「さあさあ皆さん、お客さまを歓迎しますよ。ホッホッホ」
「$$€€##**$$££‥…」
リッチが何かの文言を唱え、両手を上げる。そのたびに床からゾンビが現れる。そしてリッチの詠唱と押し出される両手の動作にあわせてゾンビが行動を開始する。
「ホッホッホ」
「なにがホッホッホだよ、テメー!」
「ホッホッホ、口は悪いですが元気なお子ですなぁ」
「テメー見てろよ!今にその面を絶望いっぱいにしてやる!‥‥ってリズがだけどな」
「フッ、行くぞオニール!」
「おおよタイガー!」
ダンダンッ!
ダンダンッ!
ズルッズルッズルッズルッズルッズルッ‥
ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー‥
歩みは遅いながらも、じわじわと襲い来るゾンビ群の中に突っ込んでいく2人。
タイガーは両掌の鉄爪を振りおろす。
ザンッ!ザンッ!
ザンッ!ザンッ!
ヴヴァー‥グウゥゥゥ
ヴヴァー‥グウゥゥゥ
ヴヴァー‥グウゥゥゥ
振り下ろされる鉄爪に応じて一切の反撃もできぬまま倒れていくゾンビ群。
オニールも槍の高速連撃をみせる。
ザンッ ザンッ ザンッ ザンッ ザンッ!
目にも止まらぬ槍である。
ヴヴァー‥グウゥゥゥ
ヴヴァー‥グウゥゥゥ
ヴヴァー‥グウゥゥゥ
広範囲に行使される圧倒的な槍の力。これにはアンデット(不死者)たるゾンビでさえも歩みを止め倒れ伏す。
「ゲージ、そっち行った奴らは頼むぞ!」
「ああ。オイに任せろ!」
ズルッズルッズルッズルッズルッズルッ‥
ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー‥
本陣の前で。しっかとゲージが待ち構える。タイガーとオニールが撃ち漏らしたゾンビを倒していく。鋼鉄のように硬い尻尾。まるで振り子のように左右に振るわれる。
ブンッッッ!
ブンッッッ!
ヴヴァー‥グシャッ
ヴヴァー‥グシャッ
その力の前で抗うゾンビなど1体たりともいない。次々と吹きとぶゾンビはまるで崩壊したマネキンのように部屋の壁にまで飛ばされて砕け散っていく。
「さすがゲージだな。俺らも負けてられねえわ」
「フッ、オニールの言うとおりだ」
ブンッッッ!
ブンッッッ!
ザンッ ザンッ ザンッ!
ザンッ ザンッ ザンッ!
ヴヴァー‥グウゥゥゥ
ヴヴァー‥グウゥゥゥ
ヴヴァー‥グウゥゥゥ
次々と倒れ、あるいは吹きとぶゾンビ群。
ゾンビを倒し続けるタイガー、オニールにゲージなのだが…。
「ホッホッホ、$$€€##**$$££‥…」
「クソが!」
リッチが詠唱し、両手を上げれば床から絶え間なく発現されるゾンビ群。その群れは無限とさえ思えるほどだ。
倒しても倒しても溢れ出るゾンビ群。タイガーからリッチまでの距離は一向に縮まない。遥かに遠い敵の本丸、リッチだ。
と。
ヒュッ!
ビリーの矢がゾンビ群の首魁、リッチに向けて放たれた。
ビクッ!
咄嗟に腰を屈めてまわりのゾンビを盾に、その中に避難するリッチだったが……。
「ホッホッホ。いやいやヒヤリとしましたぞ。ただ矢で私は倒せませんぞ。身体は着替えるだけのことですからな。ホッホッホ」
そう言ったリッチは自らの顔に刺さった矢を何ら苦痛を感じずに平然と抜き去った。
ヒュッ!
ヒュッ!
ブチュッ
ブチュッ
さらに2射。ビリーが放った連射はゾンビ群の間を抜けて、リッチの左腕から左肩に2本突き刺さる。
「ホッホッホ。お見事、お見事。実に正確な射撃ですな。
だが、あまり当ててほしくはありませんぞ。今のこの身体はけっこう気に入っておりますからなホッホッホ」
そう言いながら、左肩腕に刺さった矢を何の躊躇なく抜き取るリッチ。
「やっぱりぜんぜん効かないね‥」
矢の攻撃は一切の効果なし。
そこへリズの聖魔法が放たれる。
「ホーリーアロー!」
バシュュューーッッ!
リズが構えた弓から、実体のない光の矢が放たれた。聖魔法の矢、ホーリーアローだ。
魔法使いながら、聖魔法を発現できるリズ、渾身の一矢である。
バシュュューーッッ!
バアァァァンンンッ!
聖魔法ホーリーアローが重なった5、6体のゾンビを突き抜けてリッチに迫るのだが……。
あと1歩、わずかにリッチに届かなかった。
!!
ここでリッチは初めてこれまでにない俊敏な動きをした。
さらに低く腰を屈めて矢を避けたのだ。
「危ない危ない。さあみなさん、おいでなさい。$$€€##**$$££‥…」
ズズッズズッズズッズズッズズッズズ‥‥‥
ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー‥
即座に現れるゾンビ群。
「守ってくだされよ」
そして自らをゾンビに守らせるようにリッチが両手のひらを自身に向けた。
ズルッズルッズルッズルッズルッズルッ‥
ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー‥
リッチの前にできるゾンビ群の肉の壁が何重にも重なっていく。
「聖魔法だけはいけませぬ。こればかりは当たりたくないものなのですよ」
「みなさん、私を守ってくださいな。$$€€##**$$££‥…」
リッチがかざす両手はオーケストラのコンダクターの如くに。詠唱にあわせてゾンビ群の防衛壁が幾重にもできていく。
ヴヴァー‥
ヴヴァー‥
ヴヴァー‥
ヴヴァー‥
そんなゾンビの輪の中に隠れながらリッチの声が聞こえてくる。
「いやいや危のうございましたぞ。お子の弓矢は怖くはありませんが、お嬢さんの聖魔法は危ないですからな」
そんな言葉が続く中でもビリーの矢が放たれる。
ヒュッ!
ザクッ
右肩に突き刺さる矢。
「うんうん、そちらのお子の矢は正確ですな。ですがこの矢は何本当たろうが問題ないのですよ」
そう言いながら、ゆっくりとその矢を引き抜くリッチ。
顔をしかめるビリー。
「ははは。さすがはリッチだね」
「聖魔法も当たらなきゃ意味がないの」
落胆するビリーとリズ。対して、余裕綽々のリッチだ。
「宴席はまだまだ続きますぞ。宴じゃ、宴じゃ。ホッホッホ」
再び両手を上げてゾンビを発現していくリッチ。
ズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズッズズ‥‥‥
ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー ヴヴァー‥
一方、タイガー、オニール、ゲージの3人は……。
「ハーハー。ぜんぜんたどり着かねぇなあ」
「ハーハー。去年もそうだっただろう。ふらふらになってようやく倒せたんだ。オニール、今年も変わらずだ。槍を振るい続けろ」
ザンッ!
ザンッ!
「ハーハー。オニール、おめーもう疲れたかギャハハ」
ブンッッッ!
ブンッッッ!
「とにかくゾンビを倒し続けるしかない。リズの聖魔法が届くまでな」
「んなことわかってるって」
ザンッ ザンッ ザンッ!
ザンッ ザンッ ザンッ!
「まだまだ大したこっちゃねぇ。いくぞ!」
「「おお!」」
(うん、そろそろかな。みんながんばれよ。今年はひょっとすると早く終わるからね)
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