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第2章 幼年編
254 アラクネ
しおりを挟む「リズ大丈夫かい?」
「ん。そろそろ魔力量も心配だったの。だからアレクには感謝」
「よくやってくれたよなアレクは。だけどあの像は許さねぇぞ」
「わはは。最後に包囲されたときは、マリーでさえちょっとは不安になってたと思うぞ」
「ギャハハハ。あんだけゴーレムに囲まれたらな」
「ん。魔力量を心配するのは当たり前。アレクのは異常なの」
「あはは。普通以上のリズやマリーからもそう思えるんだね」
金のゴーレムを倒してからはゴーレムの襲来はほぼ止んだ。
散発的にヘルハウンドやワーウルフ、ガーゴイルが襲来するのみである。
極めて順調。
会話を楽しむ余裕さえ出てきたブーリ隊である。
前方に回廊の入り口も見えてきた。
「いい感じね。今日も少し早いけど野営に移ろうか。リズの魔力量も心配だし。
アレク君、おそらく今夜はゴーレムが来るわ。だからゴーレムの対策をした堀って作ってくれる?」
「はい、もちろんです!」
「では‥‥いでよ内堀、外堀、大外堀!」
(ヒソヒソ、シャンク先輩、また変な言い方してますよアレク)
(ヒソヒソ、フッ。まだまだ子どもだね、アレク君は)
(ヒソヒソ、シャンク先輩は大人ですよねー)
(ヒソヒソ、フッ。子どもは見守ってあげなきゃね)
(ヒソヒソ、わーい、シャンク先輩カッコいい大人だぁー)
(ヒソヒソ、フッ。大人を揶揄うんじゃないよ、お嬢さん)
(ヒソヒソ、大丈夫かな?うちのチーム)
(ヒソヒソ、フッ。子どもばかりだよな)
(ヒソヒソ、だよねー)
ズズズーーーーーッ
ズズズーーーーーッ
ズズズーーーーーッ
3重の堀を発現した。
大外堀。幅は5メル(5m)くらいはあるけど深さは1メル(1m)しかない浅い堀。これは夜間の対ゴーレム用に特化して発現したんだ。前を向いたままゴーレムが転けたら、槍衾が待ち構えている造りなんだ。
実は少し細工もしてあるよ。1メルだと安心してたら大間違いさ。
ところどころを底なし沼のように泥状にして動きがとれないようにしてあるんだ。
昼間ならわかるけど、夜中は堀の中がよく見えないからね。
土と泥の違いもわからないよね。
だからゴーレム以外の魔獣もけっこうひっかかるはず。
外堀と内堀は前回と同じ造りだよ。幅も深さもしっかり掘ってあるから、飛び越えられたら逆にすごいよ。
「ふふ、見るのは慣れたけど‥‥相変わらずすごいわねキム」
「ああ。大人の土魔法使いにもこんな規格外な奴はいないだろうな」
「だよねー」
「では‥‥いでよ野営食堂!」
ズズズーーーーーッ
これも前回と同じ。
直径1メルの丸くて太い柱を6本発現。そのの上に野営食堂。
高さは2階建。トイレと歩哨付。
下からはねずみ返し、屋根の上には剣山。2重の格子窓は矢を防ぎ、室内の灯りを漏らさない。堅牢そのものの野営食堂だよ。
「いでよ守護神!」
ズズズーーーーーッ
ズズズーーーーーッ
最後はやっぱり守護神さま。気魄たっぷりのレベッカ寮長とオニール先輩だ。
「ぷっ、あはははは。もうアレク君、毎度毎度笑わせないでよね」
「クククッ。アレク面白すぎるぞ。オニールが怒るはずだ」
え~!?どこに笑う要素があるんだ?まぁレベッカ寮長はそうだけど。
オニール先輩が怒る意味がわかんないよ。だってめっちゃカッコいいじゃん。
「アレク、2人ともカッコいいよね!」
「セーラわかるか!そうだよねー!」
「うんうん、わかるよ!」
そうなんだよ。レベッカ寮長は悪霊退散の意味で作ったけど、オニール先輩はカッケーフィギュアだもんなぁ。
――――――――――――――
「しもしもー。おはようタイガー、夜はどうだった?」
「しもしもー。ああマリー、ときどき遠くでゴーレムが壊れる音がするだけだったぞ。魔獣も全然来なかったよ」
「しもしもー。そう、よかったわ。あれ以来ゴブリンソルジャーも来ないしね。
さすがにあの3重の堀‥‥笑っちゃうしかないんだけど」
「しもしもー。よく寝れる野営なんて有り得ないぞ」
「しもしもー。だよねー。じゃあ今日もあと1点鐘分くらいしたら出発ね」
「しもしもー。了解」
▼
「くそー!ガーゴイルめー、また頭にしやがった!アレクやセーラ、魔物まで俺をなめやがって!」
ワハハハハハ
ギャハハハハ
ふふふふふふ
あははははは
「オニールが『くそー』とか言うからそうなるの」
「くそだけにな。リズの言う通りだ。ギャハハハハ」
オニール像の頭は今朝も真っ白になっていた。
――――――――――――――
34階層の回廊を進む。
暑さはいくぶん和らいだが、湿度が高い。
ダッダッダッ ダッダッダッ ダッダッダッ‥
チューチューチューチューチュー‥
大型犬並みの大きさがあるチューラットが走って来た。
ザンッ!
ザンッ!
ヂューッ
ヂューッ
見た目巨大なカピバラだよな。目は真っ赤に血走ってるけど。
攻撃力も今までのやつとは格段の差だよ。
だけどやっぱりチューラットだからツクネ(ハンバーグ)の肉に最適だよな。
「アレク、今夜はツクネだよね!」
「ああ」
「私、ツクネだーいすき!」
肉好きのセーラが喜んでチューラットの解体シーンを見ていた。
解体、グロくないんだな……。
「!」
「アレク!」
「はい、キム先輩」
前方には、回廊の進路を防ぐように糸が張り巡らされている。見るからにネバネバの糸……。
その真ん中、蜘蛛の巣の中央にいたのはアラクネだ。
巨大な蜘蛛の身体に人型のそれ。ミニじゃない、ふつうサイズのアラクネだ。
ラノベ世界のアラクネなら見た目がちょっとエッチなお姉さんなんだけど……。
蜘蛛の胴体に醜悪極まりない見た目の老婆がついてるのがこの世界のアラクネだ。
グフフフフフフフッ
グギャーッ グギャーッ
何だお前、笑ってんの?
「「キモい!」」
シルフィとシンディがハモった。たしかにキモいなこいつ。でもこいつの糸は頑丈だからね。糸だけは貰っとかなきゃ。
グフフフフフフフッ
グギャーッ グギャーッ
「スパーク!」
ビリビリビリビリーーーーーッ!
グギャァァァァーーー
虫型の魔物は雷や火で1発なんだよな。
アラクネは見た目キモいけど糸のためには頑張って解体しなきゃ。
お尻に小刀を刺して糸を紡いで‥‥。
「「キモっ!」」
セーラとシャンク先輩は遠巻きに俺が糸を紡ぐのを見ていた。
俺だってキモいわ!
「ねぇ、誰か手伝ってくれない?」
「「「絶対やだ!」」」
トホホ……。
――――――――――――――
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