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第2章 幼年編
248 31階層 ファイアバード
しおりを挟む「あっ、大事なことを忘れるとこだった!オニール先輩、槍持って構えてるとこ見せてください」
「ん?こうか?」
「うーん、ちょっと違うなぁ‥‥もう1回やってください」
「こうか?」
「うーん、なんか少し違うんだよなぁ。ブツブツ‥」
「アレク、戦闘中の服かなんかを作ってくれるのか?」
「服?あーはいはいそんなとこです‥‥」
(あ!そうだ。歌舞伎の見得を切るアレだよ!)
「オニール先輩、槍を肩に抱えてこう斜めに構えて、左足を前に右足を後ろで‥‥はいはい、そんな感じです‥‥重心は後ろで‥‥左手を前に出して‥‥ちょっと麦藁の人のゴム鉄砲っぽいな‥‥もう少し、そうそういい感じですよ。
手首をこう返して‥‥丈◯郎みたいに来い来いって感じで‥‥うんうん、これだよこれ!」
「ジョータロー?」
「あーいいんですいいんです」
「ちょっとこのままジッとしててくださいね」
「ん?なんだこれ?俺こんな構えしねーぞ?」
「いえ、いーんです。これが正解だからいいんです!」
そう言って俺はオニール先輩の勇姿をしっかりと目に焼き付けた。
(ヨシ、これで野営陣地2体めの守護神さまの完成だよ!)
(ヒソヒソ。アレクなんか悪い顔してるよね?)
(ヒソヒソ。失礼だなセーラ。明日の野営陣地、楽しみにしてくれよ)
(あーぜったい悪いことする人の顔だ。聖水撒こうかな。えいえいっ!)
(やめろセーラ!俺はアンデットじゃねぇ)
(えいえいっ!)
(やめろ、やめろ)
「んー?なんだ?お前ら何の話だー?」
「「なんでもないでーす」」
(もうアレク!私も悪い人になっちゃったじゃないの!)
(わはははは)
(くそーアレクめー)
▼
「じゃあ予定通りにボル隊が先行、500メルをあけて後ろからブーリ隊ね。
途中、どちらかが会敵したらもう1隊はその場で待機。とにかくお互いが助け合わないこと。
特にボル隊は後方の魔獣、ブーリ隊は前方の魔獣に注意してよ。
『共闘』にならないよう充分注意しようね。
あと基本、お互いに連絡は取り合わないからね。
万が一、誰かどちらかの隊と合流するときは決してその隊の戦闘に加わらないこと。
ここまで気をつけていれば『共闘』にはならないはずだからね」
「「「了解(です)」」」
35階層に向けて。
先行は俺たちボル隊。
◎ 先行 ボル隊
キム・アイランド(斥候前衛)
アレク(前衛遊撃)
マリー・エランドル(魔法士)
セーラ・ヴィクトル(聖魔法士)
シャンク(ポーター、盾、後衛)
「アレク、魔法を使う魔獣が増えるからな」
「はいキム先輩」
「ここからは1階層1階層が上位記録になる。決して気負うなよ」
「はい」
「シャンクとセーラもよく記録を取っておけ。ここからは来年以降に活きるんだからな」
「「はいキム先輩」」
去年のキム先輩たちの記録は40階層。
過去2位の学園記録だ。
(過去1位の記録は50階層。ホーク師匠のお兄さんが今も行方不明になっているというあれだ。行方不明って言っても‥たぶん死んでるよな)
ここからの階層。
過去の探索記録も極端に少なくなる。未だわからないことや魔獣も出る可能性もある。
だからより一層、仲間と協力して頑張っていかなきゃな。
ちなみに俺とセーラはこのあとの年も、毎年ずっと学園ダンジョン探索に潜り続けた。
だけど‥‥この1年の先輩たちと過ごした日々ほど充実してあるなかったんだ。俺たちが6年1組になるまでは。
――――――――――
31階層に向けてまずは回廊を進む。
これまでと同じく、なぜか壁面に明かりが灯された煉瓦造りのような回廊。
タ タッ タッタ タッタタタ‥
「アレク」
「ワーウルフ2、ヘルハウンド2です」
タッタタタ タッタタタ タッタタタ タッタタ タッタタ タッタタ‥
「キム先輩、ワーウルフだけお願いします。ヘルハウンドは毛皮を傷つけたくないんで俺の矢で倒します」
「わかった」
前方15メルの回廊先から。
直角右回りの先から飛び出してくる魔獣を待ち受ける。
既にキム先輩は逆さで天井にスタンバっている。
俺も矢を番えてヘルハウンドが飛び出してくるのを待つばかりだ。
ガウガウガウガウガウガウガウガウガウ
駆け寄る魔獣の足音、明らかに攻撃的な咆哮も聞こえてきた。
角を曲がって4体の魔獣が姿を見せた刹那。
俺はヘルハウンドにのみを狙って矢を放つ。
シュッ!
ギャッ
ギャフッ
2体のヘルハウンドの急所を射抜いた。
「ヨシ、毛皮ゲットだぜ!」
「ふふ、余裕ねアレク君」
と。
間を開けず、ワーウルフの直上から音もなく降り立つキム先輩。ワーウルフ自身が気づくことなく、クナイがワーウルフ2体に突き刺さる。
ザクッ!
ザクッ!
ギャンッ
ギャンッ
よーし。キム先輩と俺のコンビネーションもバッチリだ。
「じゃあシャンク先輩、ヘルハウンドだけお願いしますね」
「わかったよ」
リアカーの後部にヘルハウンド2体を載せていく。血のついた魔獣を積めても気にならないよう、リアカーの後部は魔獣用のスペースにしてあるんだ。
さぁ立ち止まらず、ドンドンいくぞ。
ドドドドドドドドドド‥
ウォーウォーウォーウォー‥
「あっ、お肉が来た!」
お肉じゃねぇっつうの。
「スパーク!」
ウガッ
ウガッ
ウガッ
オークが3体現れたけど、問題なく雷魔法で倒す。だんだん加減もできてきたから中のお肉が焼け焦げたりはしないよ。
オークはおいしいから、すぐに解体、解体っと。
ん?
これまでのオークとはなんか違うぞ。体毛がほとんど生えていないじゃん。
えー皮もけっこう硬いな。まるでゲージ先輩の尻尾みたいだよ。
「キム先輩、こいつらって硬くないですか?」
「ああ、硬いだろ。理由はこの先だ。この先の31階層は暑いから魔獣もその暑さ対応
だろうな」
「あーやっぱり‥‥」
うん、やっぱりダンジョン探索のヒントはその前の回廊に出てくる魔獣にあるんだよな。
火を吐くヘルハウンドに皮の硬いオーク。そして虫の魔物は一切でてこない。
ってことは、やっぱり火山地帯が待ち構えているんだ。
この後もヘルハウンドを中心とした魔獣が不定期に襲ってきたけど、大した問題もなく回廊の終わりが見えてきた。
「あっつ!」
「う~う~」
「暑いなぁ」
回廊の中まで暑さが伝わってくるよ。
回廊の先。
遥か向こうに噴煙を上げる火山が見える。暑さ全開の山岳地帯だった。
「31階層と32階層はとにかく暑いからね。さっそくアレク君やセーラさんが作ってくれた耐熱耐火服を着ていこうか」
31階層に入る前、さっそくヘルハウンドの耐火服を着込んだ。
なんかみんな二足歩行の黒い魔獣だよ。
毛皮なんだけど、暑さも少しを防いでくれてるみたいだ。無いよりはマシだな。
「暑いな‥」
「暑いー暑いー!」
「う~う~う~」
「セーラ、お前さっきから『う~』しか言ってなくね?」
「う~う~う~」
「あ~そんくらい暑いのね‥‥」
とにかく暑かった。
こんなに暑いなら水着でもいいんじゃねぇ?
「そうよ、去年までは水着で走り抜けたのよ。それでもときどき火傷したりしてね、たいへんだったんだから」
(えっ、なんですと!やっぱり水着だったんかい!しまったー。耐火服なんて作るんじゃなかったよ!でもマリー先輩の水着かぁ。どんな水着なんだろうなぁ。ウヘヘ。ビキニかな、セパレートかな。たまらんなぁ~)
じーーーーっ
じーーーーっ
「セーラさん、またアレク君が鼻を膨らませてあの変な顔してるよ」
「シャンク先輩、放っておきましょう。変態のアレクのことは‥‥」
そんな雰囲気は当然精霊やエルフにも如実に伝わる。
「シンディ‥‥暑いんだけど、なんか背筋がゾクって寒いわ」
「マリー、それはあの変態君のせいよ」
「ああ‥‥なるほどね‥‥」
耐熱耐火服を着ててもみんなが暑さに辟易してる中、妄想の世界にいた俺はぜんぜん暑くなかったんだ。
「アレク、キモっ!」
「えっ?シルフィなに?」
「‥‥無自覚ってホント怖いわシンディ」
「ホントねーシルフィ」
えっ?なに?俺のこと?
「来たぞアレク」
「はい」
ガアガアガア ガアガアガア ガアガアガア ガアガアガア‥
遥か山の彼方から黒い胡麻粒が飛んでくる。
2羽。オレンジ色に近い赤い鳥、ファイアーバード(火の鳥)だ。
◯ファイアバード
火の鳥。別名、風の炎弾。1.5m~2.0m。
火山地帯に生息する鳥型魔獣。
鋭利な爪や嘴で対象を切り裂く。
高度から自身に風魔法をかけて急降下で攻撃をするため、注意が必要。
強度の弱いタンクの盾はかえって危険である。
火魔法は効果がない。
食用不可。魔石は燃料としても優良。
「俺がやります」
「フッ、任せた」
ダダダッ
仲間から1人離れて立ち、目立つように刀を上にぐるぐる回す。
「おーい、こっちだぞー」
すると火の鳥が2羽、俺の上空20メルあたりを円を描いてぐるぐると回りだした。どうやら俺をターゲットにしたようだ。
俺は上を見ながらも刀を正眼に構える。
と、ふだんならやる気に欠けるシルフィがやる気を滾らせている。
マリー先輩に憑くシンディもだ。
なぜ?
「何よ、変な鳥が風魔法?偉そーに!あんたたちなんか、けちょんけちょんよ!」
「そーよシルフィ。あんな鳥なんか許してあげないんだから!」
「「ムッキー!」」
へっ?
「マリー先輩、あの2人なぜあんなにおかんむりなんですか?」
「あーそれはね、ファイアバードの別名のせいよ。『風の炎弾』だからね、風魔法の使い手のあの子たちには許せないそうよフフフ」
あ~それでシルフィさんがおかんむりなんだ。
ファイアバードがそんな別名を持って風魔法を使うから、本家 風の精霊的には許せないんだろうな。
でもシルフィもシンディも変なところで怒っちゃって子どもだよなぁ。クククッ。
「「なによアレク」」
「いえ!なんでもありません!」
そんなことを言ってるうちにファイアバードが迫ってきた。
ファイアバードの倒し方は単純なんだ。
上空から自身にブーストをかけて急降下してくる奴をしっかり見てて、避けた瞬間に斬るだけなんだ。
俺1人でも2羽くらい問題なく斬れるんだろうけど、シルフィさんたちなんかめっちゃ怒ってるもんな。
絶対何かやるよな。ここはお任せしようかな。
「見てなさいよー鳥めー!」
そう吠えたシルフィさんが俺の頭の上に立ち上がったよ。
ガァガァ ガァガァ ガァガァ‥
ぐるぐると俺の頭の上20メルくらいを回っていたファイアバード2羽。おそらくこの段階で俺をロックオンしたんだと思う。
ガァガァ ガァガァ ガァガァ ガァガァ‥
ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる、ぐるぐる‥
俺を真ん中にして、20メル上空から回りながらさらに上へ上へと上がっていった2羽のファイアバード。
その高さがだいたい40メルを越えたあたりだ。
ふわっ
2羽のファイアバードが空中で頭を下に向け羽ばたいた。
グンッ!
頭と嘴を下に自分自身にブーストをかけて急降下してきたんだ。
ギュイイイーーンッ!
疾い!よく見てないと危ないよ。
一角うさぎの突進なんてこのスピードの前では止まってるみたいだ。
ホントなら直前まで我慢して、接触寸前に避けて叩き斬るつもりだったんだけどね……。
ギュイイイーーーーーンッッッ!
あと2、3メル。
ぶつかる!
そう思った矢先に。
「エカガード!」
ブワワワワワーーーッッッッ!
強烈な向かい風を発現させたシルフィ。
その力はファイアバードが突進してくる力を抑えたり相殺するどころか、瞬時にファイアバードを上回わる力を生み出したシルフィ。
それは空中での生殺与奪の主導権をいきなり奪われたファイアバードの恐怖に現れていた。
ギェッ?
ギェッ ギェッ ギェッ ギェーーーッ!
俺の目の前で。
攻撃することも逃げることも出来ずにあたふたするファイアバード2羽。
無重力空間を泳ぐ宇宙飛行士だな、この姿は。
逃げようと羽ばたくも……。
「エアガード!」
上からはシンディが同じような旋風を起こしてるから逃げられないんだ。
うん、こりゃパニくるよ。
俺の目の前でただ無重力状態のように漂うだけのファイアバード2羽……。
「「アレク!」」
「はいよシルフィ、シンディ!」
ザンッ!ザンッ!
「ふん!大したことないじゃない」
「ホントよ」
ふんとシルフィとシンディが吐き捨てた。
呆気ないまでのファイアバードの最期だった。
――――――――――――――
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