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第2章 幼年編
247 矢とお好み焼き
しおりを挟む食後、矢をたくさん作った。
・ 聖水を浸して射るアンデット用の矢
・ から揚げ油のリサイクルとして。油脂を使い虫型魔物を燃やす火魔法代替の矢
以前作った対魔獣に特化した矢も、再度作り直したよ。
・ キラービーの針で作った麻痺効果のある矢
・ ミニコカトリスの体液で作った石化効果のある矢
「いっぱいおもしろい矢ができたね」
「ははは。ええビリー先輩」
「作ってくれた魔獣ごとに特化した矢は大事に使わなきゃいけないね」
「あはは。作ってて楽しかったですよ、はい」
どの矢がどう効果なのか、間違えないように矢羽に印でもつけとこうかな。
「あとは普通の矢ですよね。あるだけ作っておきましょう」
「お願いするよ」
柄にも最適な軽くて硬いトレントの板はたくさん積んできたんだ。だから矢の柄はたくさん作れるよ。
羽根も糸もたっぷりあるし。
金属は俺が持ってきた鉄の塊がまだ少しある。
スカルナイトの剣はビリー先輩も俺も途中で拾えるだけ拾ってきた。あとはその剣を溶かして矢尻を作れば矢はまだまだたくさん作れる。
鋳造魔法は使い勝手がいいよなぁ。金属魔法さまさまだよ。
「これだけ矢があればまだまだ大丈夫そうだね」
「はい。でもビリー先輩が言ってたように1000本射るような状況が続く可能性を考えたら、途中でもっとスケルトンの刀を拾っとかなきゃいけないですよね」
「そうだねアレク君」
「はい!ビリー先輩」
ああやっぱり俺、このビリー先輩は特に好きだなぁ。尊敬もするし。貴族で頭はいいのに、俺なんかにも腰は低いし、ユーモアもある。
俺も大人になったらビリー先輩みたいにカッコいい雰囲気を出したいよ。
今は俺がもの言えば変態扱いだもんな……。
「アレク君それとね、来年以降のために頭の片隅にでも覚えておいてほしいことがあるんだ。ちょっと話してもいいかな?」
「もちろんです、ビリー先輩!」
「僕が思うにね、学園ダンジョンは意志を持ってるって思うんだよ。人格って言ったらおかしな話なんだけどね。学園ダンジョン格って言うのかな。
で、その人格は厳格なんだ。
学生の部位欠損や人格の崩壊を平気にやるくらいにね。
それでも学園ダンジョンって言うくらいだから、最後の最後は学生に対する優しさがある。だから50数年に及ぶ探索で死者だけは出ていないんだろうね。
ダンジョンが発する何らかの意志を理解することが探索の鍵になるんじゃないかなって思うんだよね」
そう言ったビリー先輩は、ビリー先輩ならではの視点でいくつかの所見を語ってくれた。
ダンジョンの意志。
その言葉に俺は感銘を受けた。転生した俺的には、そのダンジョンの意志なるものは、古代人か神様のダンジョン作成者の設計図的に捉えているんだけど、この異世界という現場でダンジョンを人格として捉えることができるのはビリー先輩くらいじゃないかな。
いくつか興味深い説を話してくれたビリー先輩。
最後に攻略のヒントをくれた。これは俺自身も思ってた「ダンジョン攻略」のヒントなんだ。
「探索は、準備をちゃんとした人たちだけが先へ行けるんだって僕は思ってるんだよ」
「あっ、やっぱりそうですよね!
俺も感じてたのは、回廊に出てくる魔獣は次の階層のヒントになるし、2層続きの階層の最初は次の階層のヒントや準備になるって思ってました!」
「うんうん、おそらくアレク君のその考えは当たってるだろうね。だからこそ探索例が極端に少なくなる30階層以降は、より注意深く考えなきゃいけないよ」
「はい」
「アレク君はこのあと5回も探索できるんだ。僕はいつか君が最高深層階の記録を出すと信じてるんだよ」
「いやいや俺、さっき2回もヤバかったですから」
「ははは。心配はしなくていいよ。学園ダンジョンは個人の力プラス、チーム、パーティーの団結力が重要だからね。
アレク君とセーラさんはお互い助けあいながら進むもんなんだよ」
「はい、ビリー先輩」
ビリー先輩の考えとアドバイス。さすがだなって思った。イケイケドンドンでも出たとこ勝負でもダメなんだよ。仲間で助けあって探索する。
そんな当たり前のことを深く考えなきゃいけないんだよな。
――――――――――――――
「リズ先輩、ちょっと相談なんですけど……」
「ん?」
当たったら爆破する魔法陣はできないかって相談したんだ。
そしてこれを矢の柄に巻きつれられないかなって。
こんなのができたら、ちょっとした銃だもん。
「羊皮紙が足りないの。それから魔獣を倒すくらい爆破力を持った魔法陣は作るのに時間がかかりすぎるの」
「あ~やっぱり無理ですか~」
「ん」
結論から言えば、「爆発する矢」は出来なかったんだ。
でも結果的にできなくてよかったとも思うよ。だって、銃みたいなものが世の中に普及したら怖いって思ったからね。
火薬も危ないから、俺は使わないよ。
矢をたくさん作ったあと。
セーラに手伝ってもらって耐火服と耐火盾を作ったんだ。
耐火服は、火を吐く魔獣のヘルハウンドの毛皮から。
あいつらは火を吐くだけにその毛皮の耐火性も高いんだ。
だから全員の耐火コートをセーラに作ってもらった。前回作ったから早くできたよ。
同じく、シャンク先輩とタイガー先輩が使うタンク用の盾には、ヘルハウンドの毛皮を貼って耐火盾にした。
「これならヘルハウンドの火を浴びても大丈夫ですし、火の中でも燃えたりしません」
「なるほどな。これは意外にアリだよな」
「たしかにな。今まで火を吐くヘルハウンドは単純に避けるだけだったし、火山地帯も熱いからただ逃げるだけだったもんな」
「リアカーがあるから着ないときは積んでおけばいいんだよなアレク?」
「はい、リアカーにはなんでもどんどん積んでください。ポーターの人もそんなに重くないですから」
「オイもこれなら楽だぞギャハハ」
「僕もぜんぜん重くなかったよ」
「こうしてみれば、アレク、お前が作ってくれたものはいろいろダンジョンで大活躍だな。改めてお前は……なんなんだ?」
「俺ですか?俺はヴィンサンダー領デニーホッパー村の農民の子ですよ」
「いいや違うな。そりゃあタイガー、決まってるだろ?」
「‥‥やっぱりアレか!」
「そう、アレだよ!」
「アレなの!」
「あれね!」
「ああ、あれだ!」
「アレクは‥‥」
「「「変態だ(よ)!」」」
なにが変態だよ!みんな訳のわからないことでハモるなよな!
しかもシルフィとシンディ、お前らも一緒になってハモるなよな!
泣くぞ俺は!
――――――――――――――
「もうすぐごはんですよー」
「「「はーい」」」
「「「待ってました」」」
「今日は何食わしてくれるんだ?」
「オイも楽しみだぞ」
「今日は初めて食べる料理ですよー」
身体を使う学園ダンジョン中の食事は、冒険者や兵士と同じく1日3食だ。
で、今日の昼ごはんは初のメニュー。
粉もんの代表格、「お好み焼き」だよ。
残念ながらほんとはたっぷり入れたいキャベツは、干しキャベツやタマネギーや人参などありあわせ野菜で補ったけど、お肉はたっぷり入ってるよ。
お好み焼きの隠し味。昨日揚げもんをしたときに、天かすをいっぱい作っておいたんだ。お好み焼きに天かすは必須だからね。
鉄級で両面をしっかり焼いたお好み焼き。
ソースの代わりにメイプルシロップと塩を混ぜて甘塩っぱいソースもどきを作ったんだ。見た目だけはおた◯くソースそのものだよ。
このソースだけでもそれなりに美味しいはずだけど‥‥。
ソースが無くても大丈夫。唯一この世界でも再現できるキングオブお好み焼きの最強調味料があるからね。
何かって?
もちろん、お好み焼きの最強調味料はマヨネーズの一択だよ!
俺、マヨラーじゃないけどお好み焼きにマヨネーズはたっぷりかけたい派なんだ。
そんなわけで大きな鉄板を発現した。2列並ぶようにお好み焼きを焼いたんだ。
お好み焼き屋さんみたいにね。
ジュウジュウ ジュウジュウ ジュウジュウ
うん、いい感じの焼き加減。
あとはこいつに真っ黒のおた◯くソースもどきを塗って、食べる直前に白いマヨネーズ。
マヨネーズもお好み焼き用に小さな口を作って細長い糸のようなマヨネーズが出るようにしたよ。
青のりとかつおぶしも用意してあるし。
「できましたよー。今日のお昼はお好み焼きでーす!」
さあ、見ても楽しいライブキッチンのはじまり!
楽しく見てもらいながら最後の調理工程に移るよ。
きつね色。見た目も美味しそうに焼きあがったお好み焼き。これを手にしたハケで全面黒いキャンバスに塗り変える。
「あーなんかいい匂いがしてきたねー」
「でしょ~。このお好み焼きはちょっぴり焦げたところもまた美味しいですからね」
真っ黒ツヤツヤになったお好み焼きの表面。このままでも美味しいけど、やっぱマヨネーズが登場しなきゃ。
「あっ、マヨネーズ!」
「はい、みんな大好きマヨネーズです」
「おぉ~、なんかわくわくしてきたなぁ」
ここからは急ピッチで仕上げに入るよ!
テカテカ光る黒いキャンバスに浮かびあがる白い幾何学模様。
お好み焼き10個に小さく波打つマヨネーズをどんどんぐるぐると回しかける。
すると黒字に浮かぶ白いマヨネーズは魚のウロコのようにさらに波打って見えるんだ。
「うわぁー」
「すごいの」
でしょ。マヨネーズのビジュアルの良さも花まるのお好み焼き。
最後に青のりとかつおぶしもどき。
青のりは夏合宿で採ってきた海藻を乾燥して青のりに仕上げたんだ。
かつおぶしもどきはまさにもどき。コッケーのササミを燻製してからかつおぶしのようにペラペラに薄くスライスしたもの。お好み焼きの熱でゆらゆらと踊ってるところもかつおぶしっぽいよね。
ササミかつおぶしは、味もびっくりまじめに美味しいんだよ。
この青海苔とかつおぶしもどきもいい仕事をしてくれる。
ちょっぴり歯にくっつくけどね。
さあライブキッチンもラストスパート。
仕上げに入るよ。
お好み焼きの盤面。
ウネウネ波打つ白いマヨネーズの波が5、6本。
その中心を円の端から端まで竹串で垂直横断。
すううぅぅぅーーっ
すううぅぅぅーーっ
すううぅぅぅーーっ
ヨシ!お店屋さんみたいにナイスなビジュアルのお好み焼きが完成した!
最後に青海苔とかつおぶしをちらす。
ゆらゆらゆらゆら~
完璧じゃん!
すごいぞ俺!
「完成でーーーす!」
「おぉ~!」
「なんかスゲェー」
そう、なんかすげぇんです。
「今日のお昼ごはんはお好み焼きです。手元のコテで切り取りながら食べてくださいね。熱いから火傷しないでくださいよ」
フォークでお好み焼きはなんか味気ないから、もんじゃみたいなコテにしたんだ。
「「「いただきまーす」」」
ハフハフ
フーフー
アチッ アチッ
みんな熱いから悪戦苦闘しながらお好み焼きを口に入れている。
「アチッ、アチッ」
「ハフハフうまいうまい」
「これめちゃくちゃうまいじゃん!」
「これは美味しいね」
「うまいうまい」
「小麦粉がこんなふうに変わるとはな。実にうまい」
「私、これ好きかも」
「追いマヨ欲しい人は言ってくださいねー」
「追いマヨ?」
「はい。追加のマヨネーズ」
なんで自由にマヨネーズがかけられないかって?
それはね、マヨネーズごと渡すと限度なく食べる人が多いからね。俺が管理する貴重品扱いにしたんだよ。
だって口開けて直飲みする人もいるんだもん!とくにセーラとか‥‥。
「追いマヨほしい。お好み焼きにマヨネーズは神なの」
「アレク、追いマヨ私も。マヨネーズをもっともっともーっとかけて」
「はいはいどうぞ」
「僕ももっとほしい」
「アレク俺も」
「アレクオイも」
「アレク君私も」
何のことはない。みんな追いマヨネーズになってしまったよ。
汁だくマヨネーズだよこれじゃあ。
「アレク君これも古文書なの?」
「は、はい。あははー」
「これも帰ってお店に出したら大ヒットするんだろうなぁ」
「どうですかねぇ、あははは」
大好評だったお好み焼きパーティー。今度はたこ焼きパーティーもしようかな。
「「「ご馳走さま!おいしかった」」」
お好み焼きパーティーは大成功だった。
――――――――――――――
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