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第2章 幼年編
242 進軍の提案
しおりを挟む「それでね、みんなに提案なんだけど‥‥」
こくん
こくん
マリー先輩がキム先輩に頷いてから、こう話を切りだした。
「進化したゴブリンソルジャー。学園ダンジョンの記録では過去6度の遭遇があるわ」
「そうなのかビリー?」
「その通りだね」
ビリー先輩は学業でも優秀である(6年首席)。
王都にも何かの論文を送って表彰されたって聞いたよな。
シスターナターシャも先輩の名前を知ってたもんな。
「ゴブリンソルジャーに遭遇したパーティー(チーム)は過去6回あるね。そのどれもが追ってきたゴブリンソルジャーにやられて撤退してるよ」
「じゃあさ、その先輩たちはどうなった?」
「すべて共通してるよ。何人かが部位欠損で撤退したって記録があるね。幸い、死人は出てないかな」
「それ幸いって言えるのか!」
「ギャハハそうだな」
俺は学園ダンジョンに潜る前を思い出した。
そういや、誓約書にサインしたよな。
『不幸にして部位欠損や怪我をしても自己責任』だったよな。
「部位欠損ってビリー先輩‥‥?」
セーラが青ざめた表情を見せた。
「ああその言葉通りだよ。えーっと確か片腕、片脚と片眼失明だったかな」
「「「・・・」」」
マジかよ。
チームに回復治癒魔法士がいなかったり、魔力欠乏や治癒に時間がかかったりしたら……。
しかも複数人がやられたら。
エリクサーは1個だけ。
だから元通りには治らなかったんだ……。
「おもしろい共通点があってね、その6回のパーティーはみんな前評判がかなり良かったことなんだよ」
「え?」
「ボル隊、ブーリ隊両チームのバランスがよくて、歴代の探索パーティーの中でも期待されてたってこと」
「それって‥‥」
「そう。ボル隊、ブーリ隊のチームそれぞれに聖魔法士がいるパーティー。しかも体術も剣術も弓術もバランスが良い、今年の僕たちのことさ」
「6年連続の私も断言できるわ。今年のパーティーはこの6年で1番だって」
「でも‥喜べないんだよな」
「そうなの‥‥」
「どういう仕組みかわからないけど、おそらくダンジョンから私たちは7回めのパーティーとして『認定』されたわ」
「ヒュー、名誉なこった」
「ギャハハ」
「でもよ、まさかマリーここで諦めるって言わないよな?」
「もちろんよ」
「ただね、私たちボル隊は立て続けにアレク君がやられたわ。もちろんアレク君のせいじゃない。
でもね、もしこの先同じようなことがあったとする。しかもこれまでと違って同時に2人とかがね。そのときセーラさんとリズの魔力が足りなくなってたら‥‥」
ここでオニール先輩がハッキリと言った。
「過去6回と同じ。良くて部位欠損の仲間を連れて撤退だね」
「「「・・・」」」
「でマリー、提案って言うのは?」
「それはね‥‥」
マリー先輩とキム先輩が考えてた進軍の提案。
これが理に適った提案だったんだ。
ボル隊とブーリ隊が距離を置いて一緒に進むんだ。ダンジョンに「認定」されないよう共闘しない体で。
50数年の学園ダンジョンから導き出されたルール(法則)は、5人のチームが共闘し10人のパーティーと「認定」されれば、その瞬間から即座に難易度が跳ね上がるってこと。
この法則を逆手に取るんだ。
「19階層を思い出して」
「ああ、アレクが雷魔法をぶっ放して俺たちを追い越したやつだろ」
「フフ、そうね」
「あのあとは俺たちも後をついて楽に行けたもんな」
「そう」
「マリー、同じことをやるんだね」
「ええそうよビリー。先にボル隊が500メルほど先行するわ。途中手こずってたらブーリ隊は見える位置のまま待機よ。逆にブーリ隊が手こずってたらボル隊が待機。助けの要請がこない限りはお互いの隊が見える位置を保ったまま先へ進むの」
「ビリーどう思う?」
「それは名案だね。あくまでもダンジョンに『共闘』と認められない限りにはなるけど、上手くいけば先行のボル隊は後ろからの魔獣を気にしなくていいはずだし、後攻のブーリ隊も前からの魔獣を気にしなくてよくなるよ」
「なるほどなぁー」
「それとね、もう1つ利点があるの」
「おおーなんだ?」
「『同じ場所で休憩や野営をすることはパーティーとは見做されない』法則よ」
「それって‥‥?」
「ただね、野営中に襲われたら『共闘』と見なされる可能性があるから陣地も500メル離れるけどね」
「おおー、それじゃ野営の男子寮もこっちに作ってくれるのかアレク?」
「はい。レベッカ寮長の像もセットで――」
「あーレベッカさんは要らねえ!」
あはははは
ワハハハハ
フフフフフ
わはははは
「これが上手くいけばゴブリンソルジャーの危険性もかなり減るはずよ。みんなどう?」
「「「賛成!」」」
「いいね」
「上手くいけば来年からも使えるぞ」
「じゃあ3日後からさっそくこの方法で探索するわね」
「「「了解(です)」」」
こうして31階層から新しいスタイルで前に進むことが決まった。
仮に学園ダンジョンから「共闘」と認定されれば撤退も仕方ないけど、これも次年度以降の資料になるからってマリー先輩たちは考えたらしいんだ。
ホント名案だよな。なんで今まで気づかなかったんだって言うくらいだよ。
▼
「リアカーはすごく良いよな」
「「「うんうん」」」
「アレク君、リアカーは素晴らしいアドバンテージになるね」
「「「うんうん」」」
ダンジョン探索を長く続ける上で、何より大事なのは兵站であることは言うまでもない。
リアカーがあれば従来のポーターの背に担ぐ量の3倍は楽に運べるんだから。
食糧の心配もほぼなくなる。
俺からすれば、なんで50数年もリアカーがなかったんだろうって思うけどね。
そんなリアカーは翌年以降の学園ダンジョンの定番アイテムとなった。
もちろんアレク工房製品の1つとしても中原中の物流業で使われるようにもなった。
リアカーにたくさん保持できるから矢も遠慮なく使えるようになったよ。
中長距離砲の弓矢がこれまで以上に使えるのは大きいね。
リズ先輩やセーラの魔力を温存する意味でもこの弓矢が果たす役割はすごく大きいんだと思う。
この3日間にさらにたくさん矢を作らなきゃな。試したい弓矢の新兵器もあるし。
「オニール先輩、矢なんですけど‥‥」
新兵器の矢も考案したんだ。
それはね、矢尻をネジのような螺旋状にしたものなんだ。
セーラが聖魔法を込めた聖水を螺旋部分に浸してから矢を射るんだ。
これ、聖魔法の効果が高いアンデット対策に使えるよね。
元手はただの水だし。
でもこれで聖魔法の力がないビリー先輩、マリー先輩、俺が射る矢も聖魔法の効果があるはずなんだ。
「あともう1つあるんですけど、これはリズ先輩の協力のあとで‥‥」
これは食事のお楽しみだ。
――――――――――――――
「メシにしようぜ」
「「ああ腹へったよ」」
「「「お母さん、腹へったー」」
誰がお母さんやねん!
でもオーク肉もたくさんあるし、リアカー作戦のおかげで食事もまだまだ大丈夫。
「じゃあちょっと待っててください」
――――――――――――――
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