アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

238 30階層主

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 「なんでそんなに早く着いたんだよ、不公平だろ!」

 「ああスキィのことね」

 「それだけじゃねえよ。なんだよこの野営食堂?まんま男子寮じゃねぇか!しかも入口に……くそっ!」

 「えっ?オニール先輩?」

地団駄を踏んで悔しがるオニール先輩。

 「フッ。レベッカさんもいるしな」

えっ?タイガー先輩、なんで半笑い?

 「オニールの天敵なの」

 リズ先輩も半笑い?

 「ククッ…」

 ビリー先輩笑うの堪えてる?

 「ギャハハハあんまり言ったらオニールが傷つくぞリズ」

ゲージ先輩、半笑いから爆笑?

 「ふふ」

 「フッ」

あっ、マリー先輩もキム先輩もだ。

 ワハハハハ
 わはははは
 ギャハハハ
 あはははは

いつしつか6年の先輩たちみんながお腹を抱えて大爆笑している。

対してビリー先輩は顔を真っ赤にして怒っている。

なんで?


 「お前ら笑うなー!」

 「ビリー先輩、オニール先輩はなんであんなに怒ってるんですか?ヒソヒソ」

 「ああそれはね、6年生は前に体術の実技授業でレベッカ教官に教えてもらってたんだよヒソヒソ」

 「へぇー」

 「そのときにね、オニールはレベッカ教官に気に入られたみたいでね……プッ」

あーなんかわかってきたぞ……。

 「何度も何度も落とされてるんだよクククッ」

 「あーなるほどクククッ」


寮の同室ハイルの顔が浮かんだ。
海合宿では溺れたハイルをマウストゥーマウスで救助したレベッカさんは「ごちそうさま」って言ってたもんな。
オニール先輩もおそらく……。



 「うるさい、うるさい!それでもだ、アレク卑怯だぞ!」

 「卑怯と言われても…」

 「アレク、オニールの言うことは気にすんな。でもあのリアカーはとってもいいぞギャハハ」

 「ああアレク、あれは素晴らしいな。俺たちの誰もがポーターの交代ができる」

 「クソー!それは認めるけどな」


リアカーは男子の先輩たちみんなから大絶賛だった。

 「これなら僕も引っ張れるね」

 「ああ、オイもすぐに戦闘に参加できるぞ」

 「リズもゲージのゴツゴツした背中より乗り心地が良くなるぞワハハ」

 「それはそうなの」

 「オイの背中も今度のリアカーも寝ずに歩けばいいんだぞリズ」

 「寝てないの。寝てるフリしてるだけなの」

 「ハハハ、フリね。でもこのリアカーならリズも寝やすくないかい?」

 「うん。あっ!違うの、違うの!寝てないの!」

 「本当かー?だってリズはいつもゲージの背中で寝てるよな」

 「違うの。あれは目を瞑っているだけなの」

 「そうなのかリズ。たまにオイの肩が濡れてるのはリズのヨダレ――」

 「ワハ――」

 「グラビティ!」

 「「やめろ!わぁ~~~~~…」」

ズーンッ!
ズーンッ!


3階建の野営食堂から一気に地上に落とされるゲージとオニールだった……。


 「なんで俺も落とされるんだよ!不公平だろ!」

 「ふんなの」






オニールの『不公平』発言も無理はない。


雪山では。
従来の探索隊と同様に、新雪の中を一列に踏み固めながら2階層を合計4日間かけて踏破してきたブーリ隊なのだから。

対して。
スキーを履いてそれぞれ2層を楽しみながら半日で進んだボル隊。
ポーターが運ぶ山のような荷物もそりに載せて楽々運んだ。


それは野営のテントと野営食堂(男子寮)にも言えた。

例年通りにこの冬山の野営は、寒さと襲い来る魔獣のためほとんど寝られなかったのだから。


従来土魔法を発現できる者がいても、男子寮をそのまま作るアレクの発現力は破格のものであった。

結果、今年のボル隊とブーリ隊の進軍速度と疲労感は格段の差となった。


アレクが考案したリアカー。この年以降、学園ダンジョンのポーターの役割自体を変えることにもなった。









 「シャンク、アレク、セーラ。お前たちは気負わずいけ」

 「過去の記録もだんだん少なくなってくるからなあ。なんだったらこの階の階層主も出たとこ勝負で問題ねぇぞ」


30階の階層主からは正に分岐点らしい。

 「30階は50年ちょっとの中で攻略できたのは20回足らずなの。だから記録も少ないのも仕方ないの」

 「アレク君心配しなくていいよ。なにせ去年のオニールでも勝てたんだからね」

 「そうなのアレク。オニールでも勝てたから大丈夫なの」

 「なんだよ!なんでお前らの俺への評価はいつもガタガタなんだよ!」

 「ガハハ。まあオニールだからな」

 「オニールだからな」

 「「「うんうん」」」

 「クソー!」



 「まぁあれだアレク、早く勝ってうまいメシを作ってくれ!オイも待ってるぞ」

 「そこは俺も同意する」

 「ん。アレク、飴もたくさん欲しいの」

 「「「頼むぞ!」」」

 「ハイ!」





 「「「行ってきます」」」

 「「「いってらっしゃい」」」


 



思えばこのとき……俺は慢心していたのかもしれない。自身の身体のメンテナンスについて余りにも軽く考えていた……。




ギギギギギーーーーーッ

だんだん豪華になってきた扉を開けて室内に入る。

30階 階層主の部屋だ。







 「おぉーかっけぇー!」

思わず声が出た。
ゲーム世界、ダークヒーローの登場だよ!

すげぇ~本物だよ!


 「…ク、…レク、ちょっとアレク聞いてる?」

 「あ、ああ、ごめんシルフィ。なんだっけ?」

 「もう!また訳のわかんないこと考えてたんでしょ!」

 「またって……わけのわかんないって……男のロマンじゃん、こいつ……」

 「ホントにもう!ちゃんとしなさいよね!」


心底呆れているシルフィの様子に傷ついた俺だった。


でもこいつ……やっぱカッコよくない?




30階 階層主。

漆黒の馬に騎乗した同じく漆黒の騎士。

デュラハン。

騎士には首がなかった。



――――――――――――――



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