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第2章 幼年編
230 スキー
しおりを挟む「はーはー交代お願いしまーす」
「ハーハー了解…」
目印とする木に向かって歩き続ける。
100メルを30分!
1本目印に近づいたら交代、1本近づいたら交代を繰り返すんだけど、、。
「「「ハーハーはーはー」」」
遅々として進まない。平時の道路を歩けば、平均値として1時間に4㎞なんて言うけど。その半分どころか1/4、1/5でも足りない?
1㎞1時間以下。
そりゃ体感で100メル30分だもん。亀ののろさだ。
ピョンピョンピョンピョンピョンピョン…
その上、疲れたころにやってくるのが、一角うさぎ。ぜんぜん強くはないんだけど、相手をするだけでもめんどくさくて疲れてくる。
「はーはーまた来やがった。スパーク!」
雪の上をピョンピョン跳ねながらやってくる一角うさぎやときどき雪豹。
いいよな、お前らは雪に埋もれなくって。
「ハーハーちょっと休憩しようか」
「「「ハーハー、はーい」」」
雪の中で5人が円陣を組み、互いに背中を預け合ってその場で休憩する。こうすれば360度警戒できるからね。座れば一気に疲労が増すから立ったままだよ。
「シャンク先輩、休憩用飲み物はこの箱でしたよね」
「そうだよ、この箱の中」
3階層で闘ったホーンシープの胆嚢から作ったエナジードリンク風の栄養ドリンクだ。飲みやすく美味しい味になってるよ。
マリー先輩もセーラも回復魔法を発現できるけど、今は誰もが疲労感いっぱいだからね。こんなエナジードリンクで少しでも疲労感を緩和できたらいいんだけどね。
栄養ドリンクとシリアルバー、メイプルシロップ飴を取り出してみんなに配る。
「ポリポリ、ぜんぜん進まないねー」
「ポリポリ、雪だから仕方ないよー」
「ポリポリ、シリアルバーは食欲ない時にいいなー」
「ポリポリ、さすがに私も今は肉はいいかなぁー」
「ポリポリ、また一角うさぎだよー『スパーク!』」
あ~疲れたわー。
俺もみんなも語尾が伸び伸びだよー。
そりゃ、このペースなら28階層だけで2日かかるはずだよなぁ。
それも朝から晩まで歩き続けるって言ってたもんな。
29階層と併せて4日かかるんだよな。
なんかいいアイデアはないかなあ?
スキーは無理だし、スノーバイクはもちろんないから無理だし、ソリもトナカイがいないから無理だし……。だいたい魔獣のティムなんて誰もできないし。うーん。
ん?
スキーは無理だけど歩くスキー、クロスカントリーだっけ?それならいけるんじゃないかな?
シャンク先輩に運んでもらってる荷物もソリにして腰から紐で繋げたらいけるんじゃない?
やってみるか?!
「シャンク先輩、トレントの板ってどの箱にありましたっけ?」
「この1番下の箱だよ?」
「ちょっと1枚もらいますね」
「アレク君のだから好きにしたらいいんだけど、どうかした?」
「いえ、ちょっと実験するだけですから」
そう言って俺はトレントの板を1枚手にして、コンコンと叩いた。うん、これは確かに堅いよな。まな板みたいな板をそのまま風魔法を使い、縦に半分カットした。さらに土魔法の応用で表面をツルツルになるまでよく研磨した。最後はこのツルツル面に戦闘靴のメンテナンス用に用意した固形の油脂を薄く塗り拡げて完成だ。
サイズでいうショートスキーくらいのまな板。
この実験で思った通りに雪の上を滑れたら…スキー板を作ろう。
戦闘靴の上のかんじきを外してまな板スキーを戦闘靴の上に載せる。
アラクネ糸でぐるぐるに縛って動かないようにして・・・。
仲間のみんなは興味深く俺の動きを見ている。
そーっと右、左、右、左……よし歩ける。いけるぞ。
あっ!
つるっとそのまま滑って転けた。
「ワハハハ。成功だー!」
雪の上に大の字になった俺は1人大笑いしながらも実験の成功を喜んだんだ。
「ア、アレク君大丈夫?」
「大丈夫かアレク?」
マリー先輩とキム先輩のこの「大丈夫」は、俺の頭が大丈夫か?って意味なんだろうな。
「はい、ぜんぜん大丈夫です!」
「アレク、それスキィだよね?」
マリー先輩の精霊シンディが俺に尋ねた。
「わかるー?」
俺はシンディに応えてるんだけど、もちろん他の仲間に精霊は見えてないから、俺1人で喋ってるように見えてるんだと思う。
「おおー、シンディわかるー?」
「昔私が憑いてた北方人の村はスキィ履いて冬は歩いてたんだよ」
「じゃあさ、じゃあさ、そりはどう?」
「ええ、荷物はソリィで運んでたわ」
「ヨッシャー!」
この地でも先人がスキーやそりを使ってたと思うとうれしくなるなぁ。
ヨシ、早速スキーとそりを作ろう。
これで時間も大幅に短縮できる。
何より疲労度もぜんぜん違うようになる。
「マリー先輩、今日はこのままここで野営できますか?」
「?」
「今から俺、新兵器を作ります。それが出来たら、明日の朝出発で昼には28階層も終われると思います」
「えー!?また何かあるのね!」
「はい!しかも明日は回廊の後も半日で階層主の部屋の前に着きます!」
「何かわからないけど、そのスキィ?ソリィ?その2つがあれば速くなるってことなのよね?」
「はい!」
「わかったわ。もうね、アレク君のやることにいちいち驚いても仕方ないからね。とにかく任せるわね。いいよねキム?」
「フッ。アレクのやることだからな?」
「えっ?俺そんなに変なことやってましたっけ?」
「変も何も、雷魔法を発現するわ、聖魔法を発現するわって…そんな人、長生きのエルフでも聞いたことないわ」
「え~!?やっぱりマリー先輩って年寄りだったんですかー?」
「「「ぷっ……ワハハハ」」」
「なによ!その言い方!」
「あっ、しまった…」
「私、歳はキムと同じ15歳だからね!エルフだから長生きするけど今は年寄りじゃないわ!失礼しちゃうわ、本当に!」
おー、一気に捲し立てられたよ、マリー先輩に。でも長らくの疑問が解消されたなぁ。マリー先輩って本当の6年生だったんだ。
「さーせん……」
「もう!まぁいいわ。じゃあかなり早いけど、今日はこのままここで野営ってことでいいのよね?」
「はい!」
「私たちがやることはある?」
「はい。スキーができたら、油を塗ってもらうことを手伝ってください」
「何かわかんないけど、わかったわ」
「みんなもいい?」
「「「はい(ああ)」」」
▼
目の前には、ちょうどいい感じに真っ直ぐな大木が3本生えてるから、1本切って使わせてもらおう。
木を切って乾燥しながら、スキーとそりを作っていくぞ。
食堂の中で作っていこう。
「いでよ野営食堂!」
ズズズズズーーーーーーッ!
毎度おなじみの男子寮食堂を発現させる。
うん、何度もやってるうちに完成度も高くなってきたよな。
まだお昼前なんだけどね。時間もたっぷりあるから、作業の時間もたっぷりある。
俺の大好きな工房作業だよ。
食堂内でスキー板を5人分、ソリを1台作る。ソリはサンタクロースが乗ってトナカイが曳くイメージのやつ。
風魔法でスキー板、そりの切り出し、乾燥をする。
土魔法と金魔法で成形、戦闘靴からの脱着装置作り。
あとはストックを作って。
そりもシャンク先輩が曳きやすいように腰からベルトつけて曳く感じにした。
あとはみんなに使い方の説明をして、明日を待つだけ。
クロスカントリー、歩くだけのスキーだから誰でもすぐに歩けるはず。
何より雪を踏みしめながら…のかんじきとは雲泥の差になるはずだ。
「夜警はいつも通り。でも寒すぎて夜やってくる魔獣はほぼいないからね」
そりゃこんだけ寒いもんなぁ。魔獣も出てこないだろうなぁ。
事実、この夜の夜警は眠くなるくらいずっと暇だった。
▼
「じゃあスキー履いて行きますよ」
荷物はそりに載せて出発だ。
――――――――――――――
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