アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

224 27階層夜襲前

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季節は晩秋から初冬になった。
寒風吹きすさび、細かな雪まで顔にあたるようになった。

風景は変わらない。
旧街道に沿って進む道中は、廃屋、城址、雑木林などなど。

26階層に続くこの27階層を過ぎれば28階層、29階層は現れる魔獣の数はかなり少ないという。
その代わり、半端ない寒さ、冷たさなんだという。

おそらくここでは寒中行軍こそがこの探索の目的なんだろう。

親族が東北にいる俺としては、東北人の気概的なものとして自身の耐寒能力を半分以上本気で信じている。
ちょっとやそっとの寒さくらいは、へっちゃらさという気概である。

 「うわっ、寒くて凍えそうだよ」

 「ブルブル凍えるよー」

 (けっ、このくらいで、凍えねぇわ。街の人間は弱いよなぁ)

という具合なんだ。



「!」

どこだ?上か?!

 「アレク、わかるか?」

 「はい、前方よりガーゴイル2来ます」

 「よし、正解だ。どうする?」

 「俺の弓で落とします。仕留めきれないときは、キム先輩お願いします」

 「わかった」


◯ガーゴイル
小型のゴブリン程度の体躯。
翼を広げた体長180~200㎝程度になる。飛翔する魔物。
蝙蝠のような羽のため、旋回性能に長けている。
単体から数体では防御できるが、同時に他の魔獣と共に出現すると厄介。ほぼ無音で接近するため、索敵能力の低い冒険者には危険。
食用不可。


ギャーー ギャーー ギャーー ギャーー…


近づいて来るにしたがって、ギャーギャー鳴き始めた。
鳴き声はけたたましいけど、羽音はほぼ聞こえない。
不規則軌道の飛翔。うん、これは蝙蝠だよな。顔もそんなブッヒーチックな顔してるし。

 距離が50メルを切った。矢を構える。
こいつらは目と耳がいいため、早く射かけても避けられるんだ。
だから十分に近づけてから一気に射る。

 「まずはアレク、自分の力だけでやってみなよ」

 「ああ、わかった」

俺もね、ちょっとは成長したはずだよ。
よーく狙って。

 シュッ!

放たれた矢の軌道がわかるのかな。
ヒョイと避けるガーゴイル。
ありゃ。
やっちゃったよ……。

 「どうアレク?」

 「シルフィ先生、さーせん」

 「もー仕方ないわね」

目に見えてニマニマするシルフィ。
 事実としてやっぱりシルフィありきだよなぁ俺は。まだまだ努力しなきゃな。


 「じゃあいくよ」

 「いいよ」

 シュッ!
 シュッ!

うん、放った瞬間にわかる。連射しても俺の矢の力だけならぜったい当たらないわ。
 でも、やっぱり俺にはシルフィがいる。シルフィの補正がある。
 追尾するホーミングミサイルのように軌道から避けるガーゴイルを追って軌道を修正した矢がガーゴイルを直撃した。

 ザンッ!
 グギャーッ

 ザンッ!
 グギャーッ

落下するガーゴイルの下には早々とキム先輩が待機。

 ザクッ
 ザクッ

確実にとどめを指した。

 「さすがです。シルフィ先生…」

 「あったりめーよ」

江戸っ子かよ!シルフィは。
 






その後も幾度かのガーゴイルの襲来を撃退しつつ先を進んだ。


 「夕方も近いわね。そろそろ野営にしましょう」

 「では…」

 「野営食堂出ておいでー」

ズズズズズーーーーーーッ!

 「なにそれー。聞いた?やっぱりアレクってセンスないわよねシルフィ」

 「そうよシンディ。壊滅的にセンスがないのよ」

うん、聞こえない、聞こえない……。

野営陣地の男子寮(『野営食堂』と命名したけどあんまり評判は良くない)は作るたびに精度が上がった。今ではご覧のとおり、サクサクと完成する。

 土台自体を嵩上げし、その上に円形6本の柱を高く造設。
ついには3階建の高さに構築した男子寮食堂だ。
 もちろん円柱にはねずみ返しをつけて登れないようにしてあるよ。
玄関にはもちろん、悪霊退散の厄除けにポージングのレベッカ寮長がご鎮座だ。

本丸(男子寮)の廻りは内堀と外堀の2重の堀。
漢字の象形文字の「回」みたいだね。

外堀の先は馬房柵と槍衾で囲ってある。
ガーゴイルも現れたことから男子寮の屋根には剣山のように先が尖った円錐形にした。
これならガーゴイルも着地できないよ。

 キム先輩たちは、昨年この階層でひっきりなしの夜襲で寝られなかったという。
 だからけっこう真剣に対策を施したんだ。

 尚且つ、念には念を入れて久々に忌避剤も使おう。

 「シャンク先輩、魔獣除けバケツに使った蟻酸の瓶ありますか?」

 「うん、あの箱に入ってるよ」

 「じゃあ少しもらいますね」

 「はは。少しと言わず全部でもいいよー」

 熊獣人のシャンク先輩。俺たち人族の20倍臭覚も鋭いっていうから、今も蟻酸の瓶が臭いみたいだ。
以前、ジャイアントアントで作った『魔獣除けバケツ』の臭さに半泣きになってたシャンク先輩のために、確実な密閉瓶にしたのになぁ。

外堀の廻り。
8方位。男子寮を囲むように2メルほどの柱を建てて、そこに少量の「魔獣除けバケツ」を設置した。
その横には、一晩燃え続けられるように作った行燈も用意した。
(行燈の油は唐揚げの使用済のリサイクルだよ)


 「相変わらず凄いので野営できるわね……。でもこの階層はいつも以上にしっかり夜警をするわよ」

マリー先輩が言う。

 「アレク君がこんなすごいのを作ったのに…今夜は気をつけるんですよねマリー先輩?」

 「そうよシャンク君」



 「ではみなさん、上がってください。梯子を取りますね」

 
さすがにやりすぎと思えるほどの野営陣地を作ったんだけどね。


この夜。

嫌な予想はあたる。予想通りに夜襲を受けた。


――――――――――――――


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