アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

222 連携の大切さ

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26階層は雑木林や旧跡、廃屋などを巡る旧街道だった。
旧街道を進む度に景色は変わるのだが、深く印象に残ったのは、その世界の季節感だ。

ときには紅葉や黄葉が綺麗だった。風は少し肌寒く、全体に晩秋が織りなす世界観だった。


ザクザクザクザクザク…

枯葉の上をザクザクと踏みしめながら歩く。


常時非常モードで索敵しているのは俺、キム先輩、マリー先輩、シャンク先輩。
だから索敵漏れはない。
セーラは…索敵は無理みたいだ。


廃屋を過ぎてしばらく。大小さまざまな樫のような落葉樹が続いた。

おっ!
栗だ。イガグリに挟まる栗を発見した。
これはいただかなきゃな。胡桃もあるぞ。アーモンドやカシューナッツもあるじゃん。

こうした栗や胡桃の木の実類は世界が変わっても同じ風体だ。栗は足で挟んで、イガイガを避けて、大きめのトングで拾う。穴のあるのは虫喰いだから採らないよ。胡桃は後で胡桃割りマシーンを作らなきゃな。

カシューナッツやアーモンドは後で煎らなきゃな。
ぜったい美味いぞ。

胡桃はやっぱ専用のくるみ割り人形だよな。
くるみ割り人形だから……やっぱレベッカ寮長?
レベッカ寮長のフィギュアで作るかな。
ポージングで「むーんっ!」とかやったら割れるやつ。

或いはゲージ先輩フィギュアで尻尾で巻いて割るやつとか。

あーなんさ面白いアイデアがどんどん浮かんでくるよ。これは楽しいなぁ。どうしよう。


 「マリー先輩…」

 「いいのよセーラさん。少しほっといてあげましょ。これでいいのよね?キム」

 「ああ、それがいちばん正解だと思う」

 「アレク君ってなんか変わってるよね、セーラさん」

 「シャンク先輩、しーっ!」
 

晩秋のダンジョンで木の実拾いに夢中になる俺だった。





みんなにも協力してもらい、1点鐘ほどでたっぷりの木の実を拾った。栗、胡桃、アーモンド、カシューナッツ、椎の実などだ。
木の実は保存食にもいいぞ。

 「セーラ、次の休憩室は楽しみにしてろよ。めっちゃ美味しい木の実のお菓子を作るからな」

 「木の実のお菓子。楽しみです!アレクがよく作ってた木の実が入ったシリアルバーじゃないの?」

 「あのね、シリアルバーがこのくらいの大きさだったら、今度作るのはこのくらい美味しくなるよ!」

俺は指で作った輪っかの大きさから、両手で大きく輪を広げた大きさを表現した。

 「そんなに美味しさが違うのアレク?」

 「ああ、めちゃくちゃ美味しいからね」

 「そんなに美味しいお菓子作りなら、私」

 「はい、ストーップ!」

 「・・・」

 「うんうん、セーラありがとうな。気持ちだけで十分だからなセーラ」

即座に拒否した。

 「チクショー!」

セーラが小さく呟いていた……。





 「!ん?これは?」

 「よく気づいたわねアレク」

 「ホント。だんだん良くなってるわアレク」

シルフィとシンディの風の精霊2人が言う。


 「わかるかアレク?」

 「はいキム先輩。あの120メル先の木です」

 「そうだ。トレントだ」

よく見れば、120メルほどの先の木が不自然に揺れている。近づいてる?


◯トレント
山や森に生息する魔物。
木々に擬態して獲物を待ち、捕獲する。
擬態を解けば醜悪な容姿の魔物となる。
再生能力が高く、木の枝を切るくらいではすぐに再生する。
幹を真ん中あたりから切断するか、火魔法、雷魔法が効果的。
但し、魔法の発現による森林火災には充分な注意が必要。
移動速度は遅く、捕まりさえしなければ問題はない。
死んだあとは堅い木材となるため、炭と遜色のない優良な燃料になる。
硬く真っ直ぐな材質のため、家屋の柱、弓矢にも使用可能。
魔石なし。食用不可。


見るからにただの木。
胡桃の大木に混じる一本の木が、トレントが擬態した木だ。

 「シルフィ魔法は?」

 「火はダメよ。後で火がついたら火事になるわ」

 「雷は?」

 「後で木材や矢として使うなら勧めないわ」

 「じゃあやっぱり?」

 「そうよ。エアカッターでギッタンギタンよー!」

シュッシュッとシルフィがボクサーのように両拳を何度も何度も突いた。


そこは腕で払う図のほうがカッコいいんじゃない?って思ったけど、言うのはやめたんだ。
だって要らないことを言ったらまた頭をポカポカ叩かれるか、カエルネタかお化けネタで弄られるからね…。
言葉でも俺、ぜったいシルフィに勝てないし。
トホホだよ……。

 「みんなそのまま木の実を採っててください。俺知らんぷりしてトレントのところに行って切ってきますから。木が倒れる方向だけは注意してくださいね」

 「「「了解(です)!」」」



 「こっちかなー?」

 「大きな実はないかなー?」

どこの園児の学芸会かよって言うくらいの大根役者ぶりを発揮しながらトレントに近づいていく俺。
トレントからはさすがにシルフィが見つかるから、シルフィは俺の髪の毛の中に隠れてるよ。

 「アレク、そこを左に回って」

 「うん」

 「そうそう。もう10メル前に行って。そこから真っ直ぐ前でエアカッターいこうか」

 「どこかなー美味しい木の実はー?」

シルフィの指示通り。トレントの前でエアカッターを放っても邪魔な木々が無い場所に俺は立った。


大木(トレント)の前には、俺と風の精霊シルフィ。
すると。

 スッ。

俺の前にふわふわと立ち上がるシルフィ。
両手を腰にあててから!、、、半身立ちし、まるでピストルを撃つように顔を仰け反らせてトレントを指差した。

 「バレてんだよ、お前……バーンッ!」

なんだよシルフィ!
J◯J◯立ちかよ!

あっ、でもちょっぴりカッコいいかも……。
ぜったいドヤ顔してるんだろうなシルフィ…。

 「いくよシルフィ」

 「いいよアレク」

 「「エアカッター(風刃)!」」

見えない不可視の斧が1本。俺とシルフィが発現した(シンクロした)1本の斧だ。

俺の魔力もかなり上がった。
強力な斧が水平に振り下ろされた。

シュッーー!

人には不可視だけど、たぶん魔物のトレントには見えてるんだと思う。

 「!」

それはそれは絶望感いっぱいに。青い顔をしたトレントが擬態を解いて逃げる間も無く…。

ザンンッッ!!

大木が足下から2つに切り離された。

ギャャャーーー!

シューーーーッ
どぉぉぉぉぉぉんっ。

トレントの大木が切り落とされたのだった。



 「ちょっと待っててくださいねー」

 「「「いいよー」」」

 堅いトレントを切断して、真っ直ぐなまな板状にして確保。
 これで矢の柄も大量に確保できた。
 あとトレントはその堅さから炭と同様に長く燃え続けるから、このあとの野営の暖房用にも使えるからね。 

 「お待たせしました」

 「じゃあ行こう」

 「「「了解(です)」」」

木の実も大量にゲットだぜ!





トレントを倒したあとも何度か魔獣を退けながら先を進む。


 「!」

 「わかるなアレク」

 「はい、トロールです」

 「当たりだ。階層主以外では今まででいちばん強いぞ」

 「はい」


◯トロール
深い森林や坑道に潜む。
身長2.5メルほど。二足歩行の魔物。
醜悪な容貌は人種にひどい嫌悪感を抱かせる。
手には棍棒を持ち、オークを上回る力はオーガにも匹敵する圧倒的な破壊力を有する。
再生能力も高いので、鉄級冒険者5人以上で囲みながら闘うことを推奨。食用不可。


 「よし。今後のこともある。ここはマリーと俺の連携を見てろよ」

 「えっ?見てるだけですか?」

 「ああ」
 
 「マリーは矢で支援。俺が前衛だ。セーラはシャンクと障壁へ待機。いくぞ」

 「「「はい」」」


ズンズン ズンズン ズンズン ズンズン…

響くような足音をたてて、トロールが接近してきた。

 「いいかアレク、後ろは一切気にしなくていい。セーラたちは障壁だからな」

 「はい」

 「気をつけるのはマリーが射かける動線に入らないことだ」

 「わかりました!」

ウガァァァァァーーー

腹の底から響くような咆哮を上げながらやってくるトロール。

ズンズン ズンズン ズンズン ズンズン…

ゆっくりと歩いてくるのは、強者たる自信の顕れなのか。

ブンブン ブンブン ブンブン ブンブン

片手に持つ棍棒をブンブンと軽々振り回すトロール。

ウガァァァァァーーー

トロールとキムの間合いが5メルほどになったそのとき。

 「いくよ」

シュッ!
ザクッ

マリーの矢がトロールの右肩に刺さる。

ギャーーッ!

トロールが右肩に刺さる矢に意識が向くのにあわせて。
音もなくスッとトロールの後方に動いたキムがトロールの右足首の腱をクナイで刺し貫く。

ザクッ!
ギャーーッ!
ガクッ

苦痛の悲鳴を上げるトロールは右足を抱えるように膝をつく。
棍棒はまるでその身体を支える杖のようだ。

シュッ!
ザクッ!
ギャーーッ!
ゴロン

マリーが放った矢は風の精霊シンディの補正もあり、身体を支える棍棒を持つ右手親指を貫く。
握力を喪失した手からゴロンと落ちる棍棒。
阿吽の呼吸で、マリーとキムの連携攻撃が続く。

 「ここまでの流れはわかるなアレク」

 「はい」

うん、見事な連携だよな。
まずはマリー先輩の矢が右肩を射る。
そのことで、トロールの目線が右肩に移動する。
次いでキム先輩が後方よりトロールの右足首を急襲。
脚を支える足首の腱を切ることにより、トロールの膝をつかせる。
その際、トロールが右手で持つ棍棒はトロールを支える杖となる。
その杖たる棍棒を握り持つ右手親指を射抜かれる。
そのことにより、親指の握力が喪失。
そのまま棍棒を落としてしまう。
うん、流れるような連携と、考え抜かれた攻撃手順。それを裏打ちする2人の先輩の技量の高さだ。


 「いいかアレク、学園ダンジョンの探索前に、パーティー全員、チーム全員がよく勉強して、よく練習するんだ。そして共通認識を持つことだ。
どうすればどうなる、
この攻撃にはどんな意図がある。そんなことをだ。
やるべきことが分かっていれば2人以上の連携も容易くできるんだ。
そしてあとはどう動くのかの実践あるのみだ」

 「はい!キム先輩、マリー先輩」


この話のあと、トロールはマリー先輩とキム先輩の連携で問題なく倒された。



冒険者ギルドでトロールは、鉄級冒険者5人以上を推奨する魔物だ。
それを学園6年生の2人の先輩は何なく倒したんだ。

タイガー先輩やゲージ先輩、オニール先輩のバリバリ体育会系の先輩たちなら、さすがに強いよなぁって感心すると思うよ。

でもね、マリー先輩は弓だよ。しかもこのトロールにマリー先輩は、精霊魔法の圧倒的な武力で相手を圧倒していないんだ。
キム先輩は技術はすごいけど、攻撃力の主軸たる武力は必ずしも強くはない。


『パーティー全員、チーム全員がよく勉強して、よく練習するんだ。そして共通認識を持つことだ』

俺はこの日のキム先輩の言葉が忘れられなかった。

戦闘中なのに、マリー先輩とキム先輩が羨ましいと思った。
だって、お互いがどう動くのかを阿吽の呼吸でわかるんだよ。
そんな仲間なんだから、1年めより2年め、3年めと、お互いの信頼関係や戦術、戦闘技量はどんどん高まっていくんだろうな。
実践してくれた2人の連携攻撃とその裏にある共通認識の高さに頷くしかなかったんだ。


翌年。2年めの学園ダンジョンから俺は、この日のキム先輩の言葉と、キム先輩とマリー先輩の阿吽の呼吸の中で繰り広げられる闘いと、自分たちの乖離に愕然とするしかなかった。

そして、この愛すべき先輩たちから学んだ言葉や教訓のあれこれが俺の口から次の代の先輩たちに届くことはなかった……。
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