アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

219 25階層休憩室

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 「「「お帰りー」」」

 「「「ただいまー」」」





ブーリ隊のみんなが25階層主との闘いに赴いてから、6点鐘ほどしてから。俺はそーっと扉を開けた。

(やった!誰もいないから勝ったんだ!)


誰もいない部屋の奥には休憩室へと繋がる扉があった。
5人の先輩たち全員の勝利だ。

 「「「よかったねー」」」

ぜったい大丈夫だと、もちろん信じてたけど、やっぱりホッとしたんだ。





 「タイガー先輩、本当に何も覚えてないんですか?」

 「ああシャンク。何にも覚えてないんだよ。だけどな…」

 「オニール先輩はどうなんですか?」

 「ああセーラ、俺もさっぱり覚えてねぇんだよ。けどな…」

 「ビリー先輩はどうなんですか?」

 「ああアレク君、僕もさっぱりさ。それでもね…」

 「ゲージもそうだよな?」

 「ガハハ、キム。去年と同じだ。オイもまったく覚えてないんだ」

 「リズもそうだよね」

 「ん。去年のマリーといっしょなの」




個人が闘った階層主バトル。
みんな自分にそっくりの人と闘ったって言う。
だけど、ざっくりどころかみんな少しもその内容って言うか体験を覚えてないんだ。
しかも誰も、少しも怪我をしてないし。


俺ね、みんなには言わないけど、これはきっとみんな脳内で闘ったVRみたいなもんじゃないかって思ってる。
だから勝ったり負けたりは脳内のことだって。
もちろんぜったい口にはしないけどね。


 「そんなことよりさ、アレク、俺腹減ったわ」

 「オイもだ」

 「アレク俺も」

 「たしかにお腹は空いたわね」

 「ん。アレク、飴も無くなったの」

 「あはは。マリー先輩?」

 「アレク君お願いできる?」

 「はい!」

 「この階もゆっくり休憩するわよ。ここからはいつ終わるかわからないから、休憩室では万全の状態して臨みたいからね」

 「アレク君僕も手伝うね」

 「シャンク先輩あざーす」

 「アレク、私」

 「はーい、セーラさんはこっちで見てようか」

 「はい…」



 タイガー先輩は鉄爪を研いだりしている。ゲージ先輩も尻尾に付けるなんか鉄の装備の点検をしてる。
オニール先輩は槍を研いでる。
ビリー先輩は矢をたくさん作っている。なんだかんだとゲージ先輩が担ぐ荷物の消耗品は減ってるから、ビリー先輩の予備の矢もたくさん補充できるし。
リズ先輩も予備の魔法陣を点検してるし。
みんなやることはあるんだよな。









夜ごはん。
今日のメインはサンドワームだ。
サンドワームはクセのない柔らかな肉質で魔獣肉の中でも人気も上位なんだ。
ただ生息地が砂漠地帯とかに限られるから、なかなか流通しにくんだよね。
せっかくの機会だから大きな塊の筒ごとクーラーボックスで保存しといたんだ。

今日のメインは唐揚げ。
一口大にして、塩で下味をつけて。
小麦粉プラス芋から作った片栗粉を足した粉を水で溶いたものをたっぷり付けて。
片栗粉が入ってるから、衣もカリカリして食感もいい感じになるはずだよ。
あとはガンガン揚げまくる。何せ俺たち育ち盛りで10人もいるからね。

時間もあるから、パンも焼いた。
移動中に食べる糧食用の堅パンと、今日明日食べるコッペパン。
サイズはフランスパンくらい大きいよ。
焼き上がってから真ん中に切れ込みを入れたんだ。
唐揚げとか魚フライを自由にサンドしてもらおうってね。

さすがにもう緑野菜はないから、野菜はタマネギーや人参のマリネ(甘酢漬)で。マリネは毎回のお約束みたいになってきた。

肉系主体のお惣菜に口がさっぱりとするマリネは合うんだよね。

ビネガーの甘味にはもちろんメイプルシロップからだよ。
メイプルシロップはもはやなくてはならない必需品だね。

あとはポテトサラダも毎回定番。
そのままコッペパンにサンドしても美味しいよね。

そろそろ残りを考えて使用量を制限しなきゃいけない食材もでてきた。
そう節約するいちばんの食材はマヨネーズなんだ。
マヨネーズは調味料として卓上で自由に使ってもらってたんだけど、マヨラーの人たちを甘く考えてたのかな。
マヨネーズを使う量の半端ないことといったら!驚きしかないよ。
今日からは自由に使える卓上分は無し。
だって休憩室の夕食は、卓上に置いたマヨネーズがまるまる2本は無くなるんだもん。
 
 「えーアレク君マヨネーズ無いのー」

 「アレク、マヨネーズが少ないの」

 「アレクもっとマヨネーズがほしいです」

 「だめです。しばらくは節約します」

マヨラー女子3人の不満も大きかったけど、無くなる前に節約しなくちゃね。

 「オイももっとマヨネーズを食いたいぞ」

 「そうだぞアレク。マヨネーズが少ねぇぞ」

 「ゲージ先輩やオニール先輩がめちゃくちゃかけ過ぎるんですよ!」

 「「えーそうかなぁー」」

 「そうなんです!だいたいマヨネーズを直飲みするから無くなるんです!」

 「ははは。そりゃ料理番のアレク君も怒るよね」

 「ああ、オニールとゲージともう1人…が悪いな」

 「はい…キム先輩の言う通りです!」

 「「いやだってマヨネーズは飲みものだろ?」」

 「私もそう思います!」

 「お前もだよセーラ!なんで一緒になって口開けてマヨネーズ直飲みしてんだよ!」

 「だって…」

 「だってじゃねーよ!」

 「てへ」

セーラの見た目に騙されたわ!



 休憩室中にいい匂いがたちこめる。

 「「「腹へった、腹へった、腹へった」」」

 「お待たせしました」

 「「「待ってました!」」」


今日のメニュー

骨付きサンドワームのグリル
唐揚げ(タルタルソース、甘酢)
スペアリブ
ツクネ
骨付き肉のスープ(温かリズ鍋仕様)

フィッシュ&チップス
湖魚のアクアパッツァ風
塩焼き
ソテー
魚のアラのスープ(温かリズ鍋仕様)

タマネギーと人参のマリネ
ポテトサラダ
コッペパン



25階層夜ごはんはサンドワームと魚メニューだ。

サンドワームの骨つき肉のグリルは香草付きのオリジナルアレク塩で。シンプルに肉の美味しさがでてくるステーキだ。
ヨルムンガーと同じような長物肉だけど、クセのある蛇よりはクセもなくて俺も美味いなーって思うよ。
サンドワームは軟骨みたいな骨だけでカチカチに硬い骨じゃないし(見た目は大きなミミズだけどね)。

俺が作る料理の定番ツクネもサンドワーム肉から作ったツクネ(ハンバーグ)だ。
これも肉自体が旨いし、コリコリした軟骨の食感も小気味よく抜群に旨いな。

骨まわりの肉はサンドワームのスペアリブにした。メイプルシロップを漬け焼きしてるから、肉の色ツヤもよく見るからに美味しそう。手や口をベタベタにして軟骨みたいな骨ごと食べてほしい。

あと魚料理も用意した。ダンジョンめしでたまに食べられる魚は嬉しいんだよな。

湖沼地帯で捕獲した魚はスズキみたいな白身魚だった。
塩焼きにオイルソテー。
それとこの魚を下ろしてフライにした。一緒に芋も揚げて盛りつけたから、まさにフィッシュ&チップスだね。

あとはスライム袋を活用したアクアパッツァっぽいものを。タマネギーや人参、芋を下敷きに魚を入れて香草をブレンドしたオリジナルの塩と植物オイルを少量。魚と野菜の水分だけで蒸し焼きにしたんだ。これは海洋諸国出身のキム先輩が喜ぶといいな。

スープはサンドワームと魚のアラの2種類。
魚のアラのスープは塩だけでももちろんおいしいよ。でも俺的にはやっぱり味噌がほしい。
ダンジョンから帰ったら、いよいよ味噌を自作しようと思ってる。
味噌、醤油、コメ。
ほしくてほしくてたまらないものトップ3だ。

で、今日のメインがサンドワームの唐揚げ。食べやすいサイズにした唐揚げだよ。
衣は小麦粉に片栗粉をブレンドしてるからザクザクッとしてる歯応えになる。
だから噛むごとに美味しさが増すはず。
そのままがもちろん美味しいんだけど、味変用にタルタルソースと甘酢を用意した。
コッペパンに挟むのも美味しいしね。

サンドワームは肉質がさっぱりとしてて脂っぽくないから保存用の干し肉もたくさん作った。
ビーフジャーキーみたいなサンドワームジャーキー。
噛めば噛むほど美味しいし、今後の野営もまだまだに長く続くらしいからね。
パンと干し肉と粉芋の冒険者らしい食事も、少しは美味しくなるといいんだけどね。


 「「「いただきまーす」」」

 「お待たせしました。今日はサンドワームのから揚げがメインです。料理の肉は全部サンドワームです。あと今日は魚もありますからね。ガッツリ食べてください」

 「「「待ってました!」」」

 「おーさすがサンドワームだよな。旨い肉だな」

 「ああ。肉自体が旨いんだよな。焼いて塩ふっただけでも旨いよ」

 「タイガー、塩もアレク君が普通の塩に味をつけてるからさらに美味いんだよ」

 「なるほどな。それでさらに旨いんだな」

 「唐揚げめっちゃうめー」

 「オイもこれ、大好きだぞギャハハ」

 「衣?カリッカリなところがますますうまいな」

 「味変用のタルタルソースもいいなぁ」

 「うんうんこれは最高だね」

 「タルタルソース、やっぱりこれはいいねマヨネーズのさっぱりした味みたいだね」

 「甘酢もさっぱりするな」

 「ああ、パンに挟んでも旨いな」

パーティーの仲間たち9人はアレクの調理する異世界風の料理法やその美味しさにすっかりハマってしまっていた。
それは上流階級の食する味わいに慣れ親しんでいるマリーやビリーの舌さえも虜にするくらいに。

 「アレク君のおかげでダンジョン内の変わり映えのしない食事もずいぶん様変わりしたよ」

 「本当だよな。俺なんか休憩室で旨いもん食べられるから頑張るみたいなもんだぜ」

 「ああ、オイもそうだぞギャハハ」


 「アレク…アレク袋に入ったこの魚料理も旨いな。魚のダシがよく出ている。国の料理にも似てるよ。長く帰ってない国を…思いだす。ありがとうな」

 「いえ、キム先輩…」

 「キム、お前と一緒で俺も6年、国に帰ってないんだよな」

 「ああオニール、これだけ離れてるとさすがに懐かしいよ。あれだけ嫌だった国なんだがな…」

 「俺も法国に帰ったら、もうこんなふうに仲間と楽しめることはないんだろうがな」

 「私も一緒なの」

 「俺も帰ったら…もうこんなふうに仲間と笑いあうこともないんだろうな…」

 「もう私たち…6年なの」

 「そうだよな…」
 
 「だからこそ。もう少しいけるところまでがんばろうぜ」

 「「「ああ(ええ/ん)」」」

 「「「・・・」」」
 
先輩たち、なんかしんみりしちゃったよ。


 「!」

 そんな中、両手でマヨネーズを持って口を開けてる奴がいた。

 「こらセーラ!さっきマヨネーズの直飲みはダメって言ったろ!」

 「てへ」

 「てへじゃねーよ!ホントに」

 「アレク、お母さんみたい…」

 「お母さんはマヨネーズを直飲みする子に育てたつもりはありません!」

ワハハハハ
ギャハハハ
あはははは
ふふふふふ
あはははは


25階層休憩室の楽しい食事は長く続いた。

こんな時間がいつまでも続いたらいいのに。
そうみんなも思ったはずだ。
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