215 / 722
第2章 幼年編
216 リズ
しおりを挟む【 リズside 】
ギギギギギーーーー
狭く真っ黒な空間で目が覚めた少女。
まずは目の前の重い扉を開けた。
「こ、ここは?」
そう、ここは25階階層主の部屋だ。
「…そうなの」
瞬時に。自分自身、今の自分が置かれている立場、状況を理解する少女。
その上で、自然と口に出る言葉。
「また会ったの」
『ん』
そこには、やはり自分と同じように棺から出て来た女の子がいた。
漆黒のローブを纏い、
背丈よりも長い杖を手に持つ姿こそ、紛うことなき魔法使いである。
が、顔を含めたその容姿全体は実年齢とかけ離れてアンバランス。
領都学園最上級生である6年生(15歳)にはまるで見えない女の子。
1年生のアレクからすれば初級学校4年生の妹スザンヌと変わらない見た目…。
亜麻色のショートカットボブ。
緑色。つぶらな瞳ながら意志の強さを表す美少女。
美少女には違いないのだが、言葉で言えば美幼女といったところか(アレク談)
「あなたは誰なの?」
『あなたはリズで私もリズなの』
あゝ、そうだった。
たしかに去年もここで私と同じ見た目の女の子と、こんな会話を交わしてから闘ったのだ。
「またわたしなの」
『またわたしなの』
「闘(や)るの」
『闘るの』
簡潔な言葉。
発せられる僅かな会話の中にこめられた想いや考え。これは当人にしかわかり得ないだろう。
15メルほど距離をおいて、2人のリズが杖を構える。
「ファイアボール!」
『ファイアボール!』
杖の先から発現したのはバスケットボールほどの火の球。
真っ赤に燃えたぎるのは確かな魔力の顕れ。
ゴゴォォォオオオーー!
瞬時に現れ、対面するリズめがけて真っ直ぐに飛んでいくファイアボール。
ゴゴォォォオオオーー!
それはもちろんファイアボールを放ったリズにも向かってくる。
フッ! フッ!
シュッ シュッ
着弾寸前。杖先でふっと掃けば瞬時に消え去るファイアボール。
シンクロする2つの事象。
「グラビティ!」
「フライ!」
スーッ
相手を含め、広範囲に地中へ沈める重力魔法を放つ。
同時に。スーッと空中に自身を浮かべ安全を
確保。
『グラビティ!』
『フライ!』
スーッ
ズズーーーンッ!
ズズーーーンッ!
両リズが放った重力魔法により広範囲に地盤が下がった部屋の床。
魔法範囲外の床が凡そ2メルほど上部にあることからその威力が判る。
「ふふ。やるの」
『ふふ。やるの』
「ファイアバレット!」
『ファイアバレット!』
オリジナルの火魔法Level3を発現するリズ。
杖先よりフルオートの小銃のような高密度のファイアボールが放たれる。
ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ!
15メル対面に位置するリズもまた杖先からファイアバレットを発現した。
ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ ダンッ!
瞬時に魔法障壁を発現する両リズ。
「ホーリーガード(聖壁)!」
『ホーリーガード(聖壁)!』
セーラが発現する聖魔法を発現するリズ。
女神教教会に属する者のみが発現できるとされる聖魔法を事も無げに。
ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!
ガラス窓に当たる細かな石礫のように。
見えない障壁が振動のみを激しく拾う。
「じゃあこれはどうなの」
「メテオ!」
『メテオ!』
室内であるにも関わらず、頭上の壁面から高密度の爆炎が、まるで隕石のように降り注ぐ。
火魔法を発現できる者でも極めて僅かな者にしか発現できない火魔法Level4だ。
ゴゴゴゴゴゴオオオーーーッ!
ゴゴゴゴゴゴオオオーーーッ!
ガーーンッ!ガーーンッ!ガーーンッ!ガーーンッ…
リズを護る障壁に激しくあたる衝撃音。
障壁全体が大きく揺れる。
ここまで、双方のリズ
は無傷。
『なぜ闘(や)るの?』
対面に位置するリズが問うてきた。
「ダンジョンの先を進むためなの。だから何もしなければ何もしないの。闘る必要もないの」
学園ダンジョンを探索するのに、武力行使は必ずしも必要としない。だが必要があればそれを躊躇うことはしない、とリズが応えた。
『誰のために闘るの?』
「仲間のためなの」
『仲間は大事?』
「とっても大事」
『里の仲間より?』
「同じくらい大事」
王国の南東部。
中原有数の高さで聳えるアトラック山脈中腹の高原地帯に。
魔法使いの隠れ里と呼ばれる魔法使いばかりが住む自治領ガーデニアがある。
アトラック山脈の山麓は、黒い森と同じく強力な魔獣の生息地とされる。
自治領は危険な魔獣が跋扈する中の僅かばかりの「安全地帯」。
そのため、外部から訪れる人は少ない。
魔法使いの隠れ里と呼ばれる自治領ガーデニア。その主な収益源は魔法使いの派遣業。
魔法使いは生活に密着した魔法を発現する者として、王国のみならず中原中で必要とされる専門職であった。
外部との交流も少ない故の血の濃さが生む優秀さ。さらには幼少期より魔法に特化した教育を受けてきた優秀さ。
そんな里の魔法使いが王国中に派遣されている。
魔法使いの隠れ里で50年に1度の天才と呼ばれた少女がリズ・ガーデン。
両親もまた天才と呼ばれる自治領屈指の魔法使いである。
両親のヴィヨルド領領主招聘に伴い、里を出たリズ。
そのまま学校も領都学園に転校となった。
聖魔法、重力魔法、火魔法のトリプルを発現できるリズが転校の妨げとなるものは何もなかった。
「すげぇなぁ、あの4年の転校生。トリプルでしかもいきなりの10傑かよ」
「チビなのにな」
「喋らないのにな」
「無愛想なのにな」
「ふんなの」
口下手で人付き合いの苦手なリズ。
才能こそ50年に1人の天才と持てはやされたが、里の学校に友だちはいなかった。
溢れる才能ゆえに、ただ他人行儀に賞賛されるか、妬まれるかのどちらかだった。
この学園でもそうだろうと思っていたが…。
リズが領都学園で出会った仲間たちは違った。
エルフのマリーは自分よりもさらに高い魔法の才能があった。
タイガー、ゲージ、オニールは魔法は使えなかったが、武術、体術は驚くほどの才能があった。
キムは自分と同じように社交性は皆無だったが、索敵活動や隠密行動には目を見張るものがあった。
ビリーは魔法使いの自分でさえ驚く知識の豊かさと、エルフ並に正確な弓矢の才能があった。
そんな才能に溢れる仲間の誰もが、リズをまるで特別視しなかった。
「リズ、ちびっ子のオメーはもっと食え!ギャハハ」
「そうだぞ、食わないと大人になれねぇーぞ。ゲージみたいにデカくなったら困るがなワハハ」
オニールとタイガーの2人は平然とリズを揶揄うが、決して不快ではなかった。
「「「リズ!」」」
「「「リズ!」」」
「「「リズ!」」」
6年1組、10傑の仲間。
転校してきてよかったと心から思える大切な仲間だ。
「里の仲間と学園の仲間に優劣はないの」
『ぶー。いつかどちらかを選ぶときは来るの』
「それでも今は違うの」
『ぶー。大人になって悩む前に決めるべきなの』
「それでも、それは今じゃないの」
『じゃあこんな風に誰かが傷ついたら…』
そう言ったリズは、リズが放ったファイアボールに片手を直撃させた。
ゴキッ!
鈍い音がして、片手の手首から先が反対側に曲がった。
「ヒール」
すかさず回復魔法でその傷を治療するリズ。
『ぶぶー。甘いの。古い文献で『敵に塩を送る』って言うけど、闘いの最中に、敵を信じ過ぎて活かすのはダメなの。返り討ちに遭うのがオチなの』
「それでも私は私が信じた道を行くの」
かれこれ闘い始めて3点鐘は過ぎただろうか。
フライ(浮遊)をし続け、重力魔法を操作するのもそろそろキツくなってきた。
「くっ…」
悔しくて歯を噛むリズ。魔力も尽きてきたようだ。
対して、ヒールを浴びたリズは元気いっぱいのようだ。
『リズは魔力が枯渇してまで敵を助けるのは間違いなの』
「明確な敵でないと信じた自分が悪いだけなの。それでも後悔はないの」
『ふん。そろそろ終わりにするの。心を折らせてもらうの』
「くっ…」
再度悔しさにぎゅっと口を噛みしめるリズ。
ガリッ!
そのとき、口中の飴が割れた。
「…」
スーッと床に降り立つリズ。
もう一方のリズが、意地悪く呟いた。
『ついに諦めたの』
対してリズが答える。
「諦めてないの。ようやくわかったの」
『なにが?』
「ん。これは夢なの」
『ピンポーン。どうしてわかったの?』
「この飴なの」
そう言ったリズが、あ~っと口を開いた。
口の中には、割れた飴が覗き見える。
「アレクは1粒ずつなめろと言うけど、それは間違い。飴はたくさん口に入れて噛むのが正解」
『それで?』
「口の中の飴が3点鐘も残ってるはずないの。飴は1点鐘も残らず無くなってるはずなの」
ニッコリと微笑んだリズが正解を導き出した。
「だからこれは夢なの」
『ん。正解なの』
「……」
『……』
2人のリズが互いを見つめ合った。
そして……。
「飴も無くなったからもういくの」
『先へ進むの?』
「ん。サヨナラなの」
カタッ。
もう1人のリズが杖を置く。そして本物のリズに向けてエールを送った。
『がんばれ、がんばれリーズ!フレーフレーリーズ!』
「ありがとうなの」
『最後に私をいちばんの魔法で倒して行くの』
「ヒール(治癒)」
『ふん。馬鹿なの…』
どこまでも我が道をいく、心優しい魔法使いのリズだった。
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜
大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。
広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。
ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。
彼の名はレッド=カーマイン。
最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。
※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる