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第2章 幼年編
215 オニール
しおりを挟む【 オニールside 】
ギギギギギーーーー
棺を開けて外を見渡す。
その先には、やはり自分と同じように棺から出てくるオニールが1人。
2人のオニールだけがいる世界だ。
「おいおい、またお前かよ」
「お前は俺だよ」
「どうやったら俺になれるんだよ、お前は!」
「どうもなにも。俺はお前だよ、オニール」
「ったく…意味わかんねぇよ」
「じゃあさ、去年はどうやって俺が勝ったのか、お前覚えてる?」
「ハハハ。そんなこと、言うわけないだろう」
「そうだよなー。でもまぁ、今年もお前に勝たなきゃ先に行けないんだよな」
「ああ。勝ってまだ探索を続けるか、負けて心をへし折られて地上に還るかのどちらかさ」
「負けてもう1回闘れるなら受け入れるけどな。心折られてハイさよならじゃあ受け入れられねぇわ」
「フフッ。そうか」
「くぅーなんかムカつく奴だなぁお前は!」
「俺はお前だからな」
「え~俺みんなからムカつく奴って思われてんのかよ!」
「フフッ、さあな。で、お前は俺に勝てるのかな?」
「へへっ。何でもやってみなきゃわかんねぇってな。日々努力しなさいって女神様も仰ってるからな」
身の丈ほどの長さのある長槍を手に、半身で構えるオニール。
長槍は女神教モンク僧が持つ標準装備の武具だ。
装具に華美なところが一切ない武骨な長槍。武骨ゆえにシンプルな美しさがある。
オニールの槍はかなり年季の入ったものだった。
モンク僧がふだん武装するのは棍。
人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族といった種族に問わず博愛を謳う女神教の教えは、殺生を嫌うもの。それゆえに、刀での武装は好ましからずとされ、教会本部では棍武装を推奨した。
また武装の目途は教会の要人警護に重きを置いたもの。
よって、モンク僧の鎮めるべき対象は魔獣ではなく、敵対行為をもつ対人。特には同じ女神教を信奉する派閥外の者たち。
対人戦に秀でた棍の遣い手たるモンク僧が、王都騎士団や領都騎士団に並ぶ武を誇るのは、皮肉といえば皮肉であった。
「じゃあさっそく闘るか」
ギュッ ギュッ
槍の柄を手に、前傾姿勢のまま、眼前の敵を打ちすえようとするオニール。
先ほどまでの明朗活発な雰囲気もどこへやら。一気に武人の形相となるオニール。
「いざ!」
ダンッ ダンッ!
ダンッ ダンッ!
力強い踏み込みのまま、渾身の刺突をオニールに見舞うオニール。
ザッ!
ザッ!
刺突。
狙いすまして放たれたオニールの穂先が、同じく狙いすまして放たれたオニールの穂先により、双方が突き抜けることなく力が相殺される。
尖った穂先同士の共鳴。
ガーーーーンッ!
「マジかよ!?強えな…」
「俺はお前だからな」
「ふん。何にも嬉しかねぇがな」
ガガガガガガッ!
ガガガガガガッ!
カンカンカンッ!
カンカンカンッ!
ブンッ!ブンッ!
ブンッ!ブンッ!
高速の突きも、渾身の払いも、強振の打ちも。
そのすべての攻撃が当然のようにあしらわれる。
ガッ!ガッ!ガッ!
ガッ!ガッ!ガッ!
3段突きも躱される。
と。正面のオニールからの刺突。
サッ!
「うわっ、危ねぇなぁ!」
首筋に放たれた刺突の一撃がオニールの頬をサッと掠める。
滲み出る鮮血。
急所を狙って放たれた刺突の連撃だ。
「やべぇ…入ったら死ぬぞ!」
ガッ!
ガッ!
刺突メインの攻防である。
それでも、先んじて相手を殺傷することよりも、防御に重きを置くモンク僧の真骨頂か。
オニールもまた鉄壁の防御をみせる。
カンカンッ!
カンカンッ!
ガンッ!ザンッ!
ガンッ!ザンッ!
「お前の目標は何だ?」
「何だよ、いきなり?」
カンカンッ!
カンカンッ!
組み合いながらも会話を続けるオニール。
「お前は俺なんだから、知ってるだろ。
俺はタイガーやゲージのように熱くねぇ。まして1年坊主のアレクのような有望株でもない、ただのモンク僧見習いだ」
法国生まれのオニール。母1人弟1人の母子家族である。
モンク僧だった父親は早くに亡くなっている。
そのため、父親の記憶ももはや断片ばかりの曖昧なものしかない。
母親は家族や家庭よりも教会活動に生きがいを見出す人だった。
家に居るよりも教会にいる時間の方が長いくらいに。
そんな母親から「母親らしい」愛しみを受けた記憶がないオニール。
それは時代と世界が違えば養育放棄ともいえるものであろう。
そんな事情もあり、オニールも弟も幼少期から法国の教会本部で育てられた。
モンク僧見習いとなったのも深く考えたわけではない。
死んだ父親がモンク僧だったことや、年長のモンク僧たちに家族からはもらえなかった愛情を注がれて育ったからだ。
幸い、幼い頃から槍術に非凡な才能を見出された。
ヴィヨルドの領都学園に来たのも、もちろん武術修練の一貫ではあるのだが、父親も領都学園卒だったことも背中を押された一因である。
と言っても、父親が10傑だとか1組や2組に在籍していたというわけではない。華々しい活躍をしたとは真逆。父親はごく平凡と言える学生だったらしい。
ヴィヨルド学園に向けて出発する前の夜。
母親から、父親の形見の槍をもらった。
「オニール、これを持って行きなさい」
そう言って母親は、薄らと笑った。
以来6年、母親とは会っていない。
「でもな…こんな目的意識もねぇ俺でも仲間のために、手助けくらいはしなきゃな。
目標って言ったか?強いて言えば仲間のためだな」
カンカンッ!
カンカンッ!
ガクン。
それは唐突に訪れた。体力の限界である。
膝をついたオニール。
「はーはーはー。疲れたー。お前は強いわ。なかなか倒れてくれる気配も感じねぇ。まぁそんでも俺の心は折れねぇけどな」
震える脚を奮い立たせ、ヨロヨロと再び立ち上がるオニール。
気力だけで立ち上がる。
「よっしゃー。もう一踏ん張りいこうか!」
ギュッ ギュッ
槍の柄を両手で締め直すように。
半身となって構えるオニール。
ピィィィーー
微かに、聞きなれない音がした。
「時間、速度、回数、強度…。すべて規定値を超えた。
目的意識も問題ない。
良かろう。
この先も進みたまえ」
「えっ?勝ちでいいのかよ?」
「ああオニール、お前の勝ちだ。と言ってもここを出た瞬間にお前はすべてを忘れているがな…」
「やりぃ!3点鐘4点鐘くらいか。まぁ勝てたらヨシだな」
「ああ、勝てたらヨシだ。最後にお前の渾身の刺突を決めて先へ進め」
「わかったよ。お前とはもう会うこともないけどな。俺、来年は国に帰るしな。
なんつーか、うん、女神様の恵みがお前にもあるようにな。あばよ」
ニヤリ
ニヤリ
ザンッ!
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