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第2章 幼年編
213 25階層
しおりを挟む「お待たせー」
「ずいぶん遅かったなマリー、何かあったのか?」
「「心配したぞ!」」
「とっても心配したの」
「何もなかったんだよねマリー?」
「ええ、みんな無事よ」
「ん?キム、なんだその微妙な顔は?」
「……」
「アレク?お前、めちゃくちゃ強力な新魔法を発現するようになったんだよな?」
「だったらなんでこんなに遅いんだ?」
「えっ、えっ~と…」
「アレクのことだからてっきり俺たちが追い越されると思ってたんだけどなぁ。しかもここで3日も待つなんてなぁ~」
「……」
「「ん?どうかしたの(か)?」」
「「「どうもしないよ…ね~みんな」」」
「「「はい(ああ)」」」
「ん?アレク君?」
「どーもさーせん。実は…」
ギャハハハハ
わははははは
あははははは
ワハハハハハ
「ワハハー意外な弱点だなアレク」
「まさかゴーストがダメだったとはなぁギャハハ」
「これはまた…アレク君予想外だよハハハ」
「ぷっ。アレクは変態のくせにゴーストが怖いなんて意味がわからないの。リズは変態のほうが怖いの」
「ワハハハーリズ、お前の言ってる意味もわかんねーよ!
って……おい、アレク!お前の後ろ!」
「ヒーーー!」
咄嗟にオニールの後ろに隠れるアレク。
「あっ…」
ギャハハハハ
わははははは
あははははは
ワハハハハハ
フフフフフフ
「あー腹痛え。笑いすぎたわ」
「さてと。笑わせてもらったし、リラックスして階層主も倒してくるよ」
「「「そうだなー」」」
「タイガー、頼むわね」
「ああ」
「みなさん頑張ってください!」
「アレク、お前もゴーストに負けるなよ」
「「「そうだぞ!」」」
「あははは…さーせん」
「ああ、あとなアレク。さっきのリッチ、ゴーストになった奴を倒したとき、お前怖くなかっただろ?」
「あっ!本当だ!」
「フッ。もう大丈夫だな」
「マジ怖くない!ワハハハハ、やりー!」
「アレク。もうないの?」
リズ先輩が小さな口をあーっと開けてそう言った。
えっ?ひょっとして飴?
「え~リズ先輩!蜂蜜飴まで食べちゃったんですか!?あんなにたくさん渡したのに!」
「仕方ないの。3日もじーっと待ってたから…」
リズ先輩がジト目で俺に言う。
そりゃ3日も待たせた俺も悪いけど。
リズ先輩、飴ジャンキーだな……。
「リズ先輩、とりあえず手持ちのこの5粒ほどで我慢してください。この後の休憩室でまた作りますから」
「ん」
とたんに笑顔になるリズ先輩。
ポイポイと口に蜂蜜飴を入れた。
ボリボリ ガリガリッ ボリボリ…
「だからーリズ先輩、いっぺんに全部食べるんじゃなくて飴は1度に1粒、噛むんじゃなくて舐めるんですって!」
「ん」
あー絶対わかってねーよ、この人。
▼
25階層の扉は、これまでよりさらに豪華になってる気がする。
扉前には、転移の魔法陣もあった。
「マリー先輩、これってアレですよね?」
「そうよ。これから全員が1人ずつ階層主と闘うでしょ。で、この階層主に1人でも負けたら中のチームのみんなは強制的にここに戻されるのよ」
「へぇー、これが……」
25階層主との闘いは個人戦だと言う。
負けても振り出しみたいに戻ってくるんだから、ゲームみたいにそこから再チャレンジしたらいいじゃんって思うけど違うみたいだ。
過去ここを攻略できずに戻った先輩たちは、その後パーティーのみんな全員で撤退することになるらしい。
それは、個人戦に負けた先輩の心が折れての撤退だそうだ…。
「過去50数年、この25階層探索は失敗率もかなり高いわ」
過去の先輩たちの記録を見ててもそうみたいだよな。
「あと次に多いのが15階のヨルムンガーね」
なるほど。たまたま俺たちは運良くヨルムンガー戦は簡単にクリアできたけど、そうじゃなかったらあそこはかなり体力を使うし、怪我も負う危険性もあった。
しかもあんなデカブツに暴れられて食糧とか踏んづけられたらたまんないよな。
「ブーリ隊のみんなは経験者ばかりだから大丈夫よ」
「おおよ。まかせろアレク」
おぉーさすがオニール先輩だ。自信たっぷりだな。
「油断するオニールが1番危ないの」
「あははは。でも俺も前回勝ったからな!」
そう言ったオニール先輩。でもその後小さく呟いた声を俺の耳は拾っていた。
「と言っても、タイガーが言ったように毎回初めてになるんだよな…」
ん?毎回初めてってどういう意味なんだろう?
「「「じゃあ行ってきます!」」」
「「「行ってらっしゃい!」」」
ギギギギギーーーーーッ
扉の先に消えるブーリ隊の先輩たち。
▼
ブーリ隊の先輩たちが扉の中に消えたあと。
「マリー先輩、さっきオニール先輩が言った『毎回初めて』ってどういう意味なんですか?」
「ええ、本当に言葉通り、『毎回初めてなの』よ」
ん?だからどういう意味?
「アレク君が知ってる通り、25階層では1人1人が階層主と闘うことは正解なのよ。そしてその階層主が、なぜか闘う隊員と同じ姿形だということも正解なのよ」
「なんとなくわかるんですが、やっぱりなんとなくわかりません。マリー先輩どういう意味ですか?」
「例えばね、タイガーはタイガーと闘うし、ゲージはゲージと闘うの?」
「はぁ?」
「リズ先輩が言ってたのは、部屋の中に入ったらリズ先輩が居たって言ってました」
「僕も聞いたのは、ゲージ先輩は自分にそっくりのゲージ先輩と闘ったって…」
「うーん、説明が難しいのよねー。私も自分にそっくりさんと闘ったことだけは覚えてるけど、なぜかあとのことは思い出せないのよねー」
なんだろう。脳を操作する何があるのかなぁ。
「まっ、とにかくブーリ隊のみんなを待つしかないわね」
「はぁ…なんかわかんないよなぁ」
「「本当…」」
――――――――――――――
25階層の部屋は階層主を中心に、円で囲むように棺が配置されていた。
ピラミッドのミイラが収まっているような豪華な棺である。
ピョーン ピョーン ピョーン…
棺の中心で跳ねている者。それがこの階の階層主、スライムだ。
金色に輝くスライムが話す言葉が、ブーリ隊の全員の脳内に直接言葉として聞こえてくる。
「ようこそ25階階層主の部屋へ。
この階層では1人1人が試練に向き合うことになります。1人1人全員が試練に打ち勝てばこの先への扉が開かれます。1人でも負ければ先に進むことはできません。強制的に退場してもらいますよ。
準備ができた者から棺の中のスライムを抱えて横になりなさい」
ギギギーーー
棺の蓋が開いた。
ピョーン ピョーン ピョーン…
棺の中にもピョンピョンと5体の小さなスライムが跳ねている。やはり金色のスライムだ。
「今年も想定通りってことだな」
「「「だな(だね)」」」
「何にも覚えてねーけどな」
「「「ああ」」」
それでも。何も疑うこともなく。タイガー、オニール、ビリー、リズ、ゲージのブーリ隊5人が棺に入り、それぞれにスライムを腕に抱いた。
「じゃあ、またあとで」
「「「ああ(ん)」」」
ブーリ隊の5人がスライムを抱えて棺の中で横になった。
ギギギーーーー
開いたのと同じように、棺が自動で閉まった。
「目を閉じなさい」
それぞれの脳内に響くスライムの声。
スーーーーッ
瞬時。
ブーリ隊の全員の意識が書き換えられた。
夢?現実?
5人の闘いが始まろうとしていた。
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