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第2章 幼年編
206 19階層
しおりを挟むシャーーッ シャーッ シャーッ
大口を開けて威嚇してくる鰐魔獣。
「スパーク(放電)!」
バチバチバチバチッ!
ヒュッ!
ビリビリビリビリッ!
ぷかーーーーー
指先からバチバチと発現するレー◯ガンみたいな電気の弾にビリビリと感電し、白いお腹を浮かべる魔獣は、本日何十体めだろう。
「ライトニング(雷鳴)!」
バチバチバチバチッ!
ドーンッ!
ドーンッ!
ドーンッ!
ドーンッ!
ビリビリビリビリッ!
ぷかぷかぷかぷかぷかぷかーーー
面制圧に連発して発現する「ライトニング(雷鳴)」では周囲100メルほどの魔獣の息がすべて無くなった。
「呆れるくらいすごいわねー」
「マリー先輩、私眠くなるくらいです」
「うん僕も!楽すぎてアレク君に悪いみたい」
「俺も楽なんだけど、なんかなぁ…」
既にマリーの肩の上では1人の精霊が目を閉じて夢の中にいるのだが、仲間たちにはもちろん見えない。
その500メルほど後方でも。
「斥候がこんなに楽でいいのか?」
「いいじゃねぇか、楽なのは大歓迎だぜワハハハハ」
「そうなの。楽はいいの」
ボリボリ ボリボリ ボリボリ
「みんなでお散歩してる感じなんだよね、ダンジョンなのに。ハハハハ」
「ギャハハ、本当にお散歩だな」
本来なら最低でも途中で1泊は野営をしながら18階層を攻略するはずなのである。
それがどうだ。
アレクを先頭の、ボル隊の後をついて行くだけで、18階層を踏破した。
今ではそのまま回廊を抜け、19階層も踏破。おそらく20階層主の扉ももうすぐだろう。
3、4日はかかる行程をわずか3点鐘余りの時間で歩く…。
ボル隊とブーリ隊が、合同のパーティーとダンジョンから認定されないように距離をとって進む。
さりとてまったく離れることもなく。
ときどき止まるのは、先頭を行くアレクが、食味の良い魔獣や魚を捕獲してその解体をする時間のみだ。
「あっ!アレクが何か置いてくれたの。たぶん飴なの」
500メル後方を歩くブーリ隊のために。
といってもほぼリズのためなのだが。
リズの期待通り、地面にはアレク袋に入った飴が置かれていた。
「この蜂蜜飴も悪くないの」
ぼりぼり ぼりぼり ぼりぼり
口いっぱいに幾つも飴を頬張りながら、リズが嬉しそうに言った。
「リズ、このアレク袋に書いてあるアレク君の言葉が見えるかい?」
「…見えないの。何も書いてないの。ビリーは夢を見ているの…」
「えーどれどれ、『リズ先輩へ 飴は1回に1粒。噛まずになめるものです』だってよ。ワハハハハ」
「オニールは意地悪なの」
「だってな、リズは俺の大事な最後のメイプルシロップ飴まで食いやがったからなー」
「…意地悪なオニールは置いて行くの」
ズンッ!
オニールの足腰がぬかるんだ湿地帯に沈んだ。
リズの重力魔法だ。
「やめろリズ!」
「やめてくれリズ!」
「置いていくなリズ!」
「リズさまー、お許しくだせぇー!」
ワハハハ
ギャハハ
フフフフ
あははは
ザッザッザッザッ…
ボル隊、ブーリ隊の2隊が一定の間隔を空けて進む。
間隔を空けるのは、それが共闘と見做されることを防ぐために。
5人のチームが共闘、10人のパーティーと学園ダンジョンに見做されれば、その瞬間から即座に難易度が増す。
これは学園ダンジョンから判明している「法則」。
対して、利点とする法則もある。
『同じ場所で休憩や野営をすることはパーティーとは見做されない』
50数年の学園ダンジョンから判明している「法則」だ。
ボル隊から離れること500メル。
ブーリ隊に襲いかかる魔獣はほぼいなかった。
それは皆無という言葉さえ当てはまるもの。
なにしろアレクが歩いたあとにはただ1匹の魔獣さえも生きていなかった…。
雷魔法により新しい「法則」ができたのかもしれない。
俺もね、正直びっくりしているよ。この雷魔法の威力と湖沼地帯の相性の良さに。
でも疑問に思うこともあるんだ。だってダンジョンは、階層毎に似通ったステージが2つ続くんだよね。
難易度も低いのから始まって高いものへと続くはずなんだ。
今の湖沼地帯は18階層と19階層。
湖沼地帯ということは合ってる。
でも魔獣の強さ、難易度はどうなんだろう?
今の俺の無双状態は18階層も19階層も変わらない。
ていうことは?
監視してる人が居ない?
そもそも監視してる人って誰?
まさかダンジョン自体が意思を持ってる?
何か俺たちがまだ知らない「法則」があるんだよな。
少なくともリアルタイムで難易度は上がっていないし。
なんだろう?
うん、考えても仕方ないな。
「扉が見えたぞ」
19階層の終わりが近づいた。
20階層主の扉が見える。
扉前でボル隊、ブーリ隊が揃った。
「「おつかれ!」」
「「「おつかれ!(お疲れ様です)」」」
「アレク、なんだよお前の無双っぷりは!」
「あははは、俺もびっくりしてますよ」
「アレクのおかげで3日4日短縮できたな」
「オイもご先祖様と闘わなくてよかったぞギャハハ」
「えっ?鰐魔獣、ゲージ先輩のご先祖様なんですか?」
「ギャハハ冗談だよ!」
「ん。でもアレクのおかげで本当に楽をしたの」
「「「ああ、その通りだ」」」
「あはは。よかったです」
「マリー先輩、タイガー先輩、えーと先輩たちに相談があるんですけど?」
「何?」
「この回の階層主ってゲージ先輩のご先祖様ですよね?」
「「ええ(ああ)」」
「マリー!タイガー!オメーら!」
「フフフフ。冗談よ」
「ハハハ。例年通りならな」
「あの、本当ならブーリ隊の先輩たちの順番なんですけど、このままボル隊の俺がやろうと思うんですけど…」
「ん?」
「みんなどう?」
「俺はアレクに任せていいと思う。階層主がゲージのご先祖様のままなら、1点鐘どころか一瞬で終わるぞ」
「キム、オメー!」
「ハハハ。キムの言う通りかもな」
「仮に階層主が違っ
たとしてもまだ大丈夫な階層だ」
「そうね。この先はリズにしてもセーラさんにしても魔力勝負になってくるからね」
「じゃあみんな、アレク君に任せてもらっていい?」
「「「ああ(はい)」」」
「アレク、すまんな」
「いえタイガー先輩。大丈夫です」
「アレク、頼んだの」
「はい、頼まれましたリズ先輩」
「アレク、ゲージのご先祖様な、後脚の肉がうまいからな」
「わかりましたオニール先輩。後脚の肉ももらってきます」
「アレク、オイのご先祖様じゃないからな。でも肉はうまいぞ!ギャハハ」
「ゲージ先輩のご先祖様の肉もらってきますね」
「だから違うって言っただろギャハハ」
「アレク君、くれぐれも無理するなよ」
「ビリー先輩、俺楽しいし、ぜんぜん無理してませんよ」
「タイガー、一応3点鐘くらい待ってから開けてね」
「フッ。ここまで3日は楽させてもらってるからな。ゆっくりやってきてくれ」
「タイガー、うまくいけば本当にすぐだからな」
「ああ、たぶんキムの予想通りだろうけどな」
「じゃあ行ってくるわ」
「「「行ってきます!」」」
「「「いってらっしゃい!」」」
相変わらず階層主の扉は大きかった。
同じような造りなんだけど、意匠も施された扉だ。だんだん豪華になってる?
「行くぞアレク」
「はい」
観音開きの扉。
左を俺が、右をキム先輩が手に持ち扉を開く。
ギギギギギーーーーー
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