アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

203 16階層

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2日間のリフレッシュ休憩が終わった。

リズ先輩から教えてもらっている魔法陣。
まだまだ発現するまでには至らない。


「アレクは来年の学園ダンジョンまでに、契約魔法はできるようにするの。そうすれば、次の学園ダンジョンもみんなが団結して先に行けるの」

「はいリズ先輩」



契約魔法。

思うところはある。
そんなものが無ければ仲間を信頼しないのかと。

でも、誰もが無条件に生命を預け合う関係を築くのは本当に難しい。
いざ危機が迫ったら人は誰もが自分の生命を大事にするものだ。
或いは、人に知られたくない自分の秘密を誰かに知られたら、感情は穏やかではなくなる。
それはエゴではない。

でも、信頼関係が、無条件で仲間に自分の生命を預け合うという信頼関係ができたら。
予測しないことが起こり得るダンジョンでその信頼関係は圧倒的に有利に働く。

だから、短期間で仲間への信頼関係を構築する契約魔法は、あっていいと俺は思う。


うん。来年の学園ダンジョンまでに契約魔法を発現できるようにならなきゃな。








次は20階層に向けてだ。ブーリ隊の先行。

「じゃあ20階層前でね」

「ああ」

「だいたい10日ってところかしら」

「そうだな」

「アレク君何か獲っておくものはあるかい?」

「魚がほしいですね。18、19階層が湖沼地帯なんですよね。俺も獲りますから適当にお願いします」

「わかったよ」

魚も保存用のクーラーボックスはどちらの隊も持ってるからね。2、3日は塩漬けしなくても冷蔵保存できるよ。まあ塩漬けして干物にすれば長持ちするけどね。俺は水魔法があるから冷凍もできるし。


ここからは1階層を2日程度で探索していく予定だ。野営もこれまで以上に危険性がある。


「「「行ってきます」」」

「「「いってらっしゃい」」」


先行のブーリ隊が出発していった後。



「アレク、ここからは魔獣の位置とそいつらからの攻撃方法を想定しながら索敵していけ」

「どういうことですかキム先輩?」

「例えばお前がゴブリンアーチャーだとする。お前だったらどこに隠れてどう迎え撃つ?どこから狙撃する?どう攻撃したら最も効果的だ?
そういったことを考えながら進むんだ」

「はい、キム先輩」

あーなるほど、なるほど。たしかにこのシュミレーション予想は意味があるなぁ。

「魔獣からの攻撃が、予測したお前の範疇にあるのかどうか。
それで相手の力量もわかるぞ」

「はい、キム先輩」

たしかなそうだよな。
俺の予想の範囲かどうかで相手の力量はまる判りだもんな。


「で、これは対人戦にも使えるぞ」

「わかりましたキム先輩」


さすがキム先輩だ。
でも対人戦はあんまり考えたくないなあ。
対人戦。
格闘の試合ならぜんぜんいいんだけど、生命を賭けた死合いはしたくないなぁ。
ぬるま湯の中で暮らしてた転生前の日本人の俺としては未だに二足歩行の魔獣との戦闘は、ほんの少しだけど気後れするもん。
平和呆け?うん、そうかも。
俺、ずっと病床でゲームするくらいしかなくって寝てばかりいたし。



「アレク、お前は最初の階層に比べたら、格段に索敵能力も上がっているはずだ。自信を持っていけよ」

「はい!」







「じゃあ私たちも出るよ」

「「「はい」」」


16階層へと至る回廊を進む。

「じゃあアレク、頼むぞ。何かあれば戻るからな」

「はい、キム先輩」

トーンっ  トーンっ  トーンっ

音もなくキム先輩が走り去った。相変わらずすごいよな、キム先輩は。今の俺なら、まるで斥候の役には立たないよ。




【  ブーリ隊side  】


回廊を抜けた先。
16階層は、崩れた城址、廃城だった。
起伏ある草原エリアには、崩れ落ちた石造りの城壁や建屋が残っている。

「変わんねーよな、ここは。でてくる奴もあの食えないコッケーかねー」

「オニール、油断しちゃだめだよ。そろそろ魔獣も強くなるからね」

ビリーがやんわりと諭す。

「そうなの。オニールとゲージの2人は油断ばかりなの」

「なんで、俺とゲージは『ばかり』なんだよ!」

「ギャハハ。オニール、オメーは油断し過ぎなんだって」

「ゲージもなの」

ゲージの背中におぶさりながら、ゲージの頭をポカリと叩くリズ。

ハハハハ
違いない
わははは
ギャハハ

緊張感でいっぱいになることなく。さりとて油断することなく。
適度なリラックスが、大事だと理解しているブーリ隊である。




「上から来るぞ」

斥候のタイガーが警告を発する。

ガァ– ガァ– ガァ– ガァ–…

前方の空から3体の魔獣が飛んで来る。空に浮かぶ豆粒のようなモノが少しずつ形を成して迫ってきた。

「ほーら、おいでなすった。食えないコッケーさんが」

オニールが槍を振りながら口にする。

空を飛んでくる魔獣。
それはミニコカトリスだ。羽根が短いために飛行速度はとても遅いが、危険度も一気に上がる空の魔獣である。


◯ミニコカトリス
体長2.5メル(2.5m)、体重10キロ(10㎏)ほど。蛇の頭にコッケーの身体を付けたような魔獣。羽根が短いため、飛行速度は遅い。
全身の血に触れれば石化の危険があるため、血を浴びないことが何より肝要である。
石化を防ぐには、雌のコカトリスの胎盤から抽出した羊水か、精製した軟化薬を塗布する必要がある。
どちらも効果効能の日持ちは10日ほど。
雌の個体は10体に1体と極端に少ない。
また鳴き声が他の魔獣を呼び寄せるため、速やかに倒す必要がある。食用厳禁。



「僕が射落とす。生きているやつはオニールが止めを」

「了ー解」

「タイガーは鉄爪装着。僕の背後を頼むよ」

「了解!」

「ゲージはリズと障壁の中で待機」

「「わかった(の)」」

「軟化薬がないからみんな絶対に血を浴びないように!」

「「「了解!」」」



ガチャガチャ  ガチャガチャ

タイガーは腰の小物入れから鉄爪を出す。 振り抜いた爪がミニコカトリスの血を浴びないためだ。
そしてそのままビリーの後方の警護につく。

オニールはビリーが撃ち落としたミニコカトリスが絶命していない場合に止を。止を刺さなければ他の魔獣を呼び寄せることになるからである。

「ビリー、オニール。2人ともがんばるの」

「ビリー、オニール、2人とも頼むぞギャハハ」

「「ああ」」

「タイガー、ビリーを守ってくれよギャハハ」

「ああ、もちろんだ」

鉄爪を装着したタイガーがニヤリと笑う。


リズが障壁を発現する。

「ホーリーガード(聖壁)!」

これでゲージとリズの危険性はなくなった。


ガァ– ガァ– ガアー ガアー ガアー ガアー

バサッ バサッ バサッ バサッ バサッ

ゆっくりと空よりブーリ隊に迫るミニコカトリス。

ミニとは言っても、体長2.5メルの鳥である。
単に射落とすだけなら易しいが、ミニコカトリスが厄介なのは鳴き声にある。鳴き声が魔獣を呼び寄せるのだ。

ガアー ガアー ガアー
バサッ バサッ バサッ

ミニコカトリスの小さく真っ赤な目の皺まではっきりと見える位置にきたそのとき。

シュッ!
シュッ!

シュッ!

連射、そして単射。
ビリーが番えた矢が放たれた。

最初の連射。ビリーが連射した矢は寸分違わずミニコカトリスの急所を貫く。

グエエェェーッ!
クエエェェーッ!

断末魔の叫び声を上げながら、落下するミニコカトリス2体。
もう1射は、急所には僅かに届かなかったようだ。

グエエッ!グエエッ!
グエエェェーッ!

鳴き声を残した1体のコカトリスが墜ちる。
独特の叫び声を上げ続けるミニコカトリス。
このまま鳴き続けると、その地に魔獣を呼び寄せることになる。

ダッ!

即座にオニールの槍がミニコカトリスの急所を貫く。

ザンッ!

グエェッ!

刺突。
首を刎ねないのは血飛沫が跳ぶのを避けるためだ。
コカトリスを一撃に屠る。



ビュッ ビュッ

槍先の血をはらうオニール。

「やっぱりコイツらは嫌なんだよな、俺。間違えて血を触ってしまいそうで」

オニールが心底嫌そうに言う。

「だからオニールは油断し過ぎなの。1度石になって反省したほうがいいの」

「1度って。1度石になったら死ぬわ!」

「試したらいいの」

「試さねーわ!」

「でも俺、あんまりツキがねぇから、そのうちホントに触りそうで嫌だわ」

「そうでもないよオニール。最初からツイてるよ僕たち」

そう言いながら、1体のコカトリスの腹を割くビリー。

その1体のコカトリスは頭にトサカのない個体だった。

「おおラッキー。最初から雌がいたんだ」


血を浴びないよう慎重に手袋をしながら胎盤を採取するビリー。
卵生のコカトリスの雌は年間を通してほぼ胎盤を有している。
その胎盤から抽出した羊水又は軟化薬が、コカトリスの石化から身を守る。

「ヨシ。これで10日ほどは石化も怖くないよ」

「コッケーみたいな形だからコカトリスも食えりゃいいのにな」

不満げにオニールが言う。

「食べてみればいいの。フライ(浮揚)!」

ワハハ
試食しろオニールギャハハ
フフフ石になるの
わはは良いね、最初の実験だね

オニールの前にふわふわと浮かび上がるコカトリスの臓器。

「ぜったい食わねーよ!」

ブンッ

宙を浮く臓物を槍先で放り投げるオニールだった。



「よし、行くか」

「「「おおっ!」」」



先を進むブーリ隊である。
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