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第2章 幼年編
200 魔法陣の共同開発 リズ鍋
しおりを挟む「リズ先輩、魔法陣ってどうやるんですか?」
休憩中の2日間。
リズ先輩から魔法陣の描き方や使い方を教えてもらった。
いくつか描いてもらって、その説明を聞いたけどどうやら魔法陣は、実際に作動をする回路図みたいなものだということもわかった。
回路図、設計図。
それが精緻に、一分の誤りもなければ作成者の意図通りに作動し、誤りがあればまったく作動しないか、予想外のことが起こる。
手をパチーンとやるあの兄弟のアニメだな。
描き込まれた情報が正しく、その上でその魔法を発現できる魔力を自身の魔力か他から賄うことができれば、魔法陣は比較的容易に発現できるという。
精霊魔法を含めて俺が使う魔法は、イメージ重視のものだ。発現すればするほどイメージはより鮮明になるため、魔法の精度もより高められていく。
対して魔法使いのリズ先輩が使う魔法の多くは、イメージとは関係ない。その多くは魔法使いの先達が使ってきた魔法陣を行使する魔法なんだと言う。
より正確な魔法陣を描けて、より大きな魔力をその魔法陣に注ぐほどその精度は高まるという。
特殊な魔法陣は、魔法使いの一族だけに伝えられているのだという。
「傀儡の魔法陣もあるの」
「へぇー」
あー、傀儡はホーク師匠も言ってたな。精霊を使役する禁忌の呪法だ。
「エルフの里のように魔法使いの里もいくつかあって、それぞれに得意の魔法や魔法陣があるの」
「そうね、エルフも私と違う里の者やダークエルフの里もあるわ」
「ダークエルフ!」
なにそれ?!
初めて聞いたわ!本当にいたんだ、ダークエルフ。
あれなんだよね、魔神とかに近い、ちょっとダークな人たち。でもってダークエルフの女の子は薄着でエッチなんだよね。
ダークエルフかー。なんか響きがかっけぇな。
「ああ、ダークエルフは肌色の濃いエルフだからダークエルフって言うだけよ。私となんにも変わらないわ」
なんだ。夢がなくなったよ。知らなきゃよかったな…。
あっ!でもエルフの里はホーク師匠も言ってたよな。聖域を張って森の奥に住むエルフの里。
これは夢があるよな。いつかは行きたいな。
「魔法陣を覚えたら、使える魔法の幅は広がるの。ただ同一の魔法だったら、魔法使いの魔法よりアレクの魔法のほうが強いの。
さらに同一の魔法ならマリーの精霊魔法のほうが威力は強いの」
リズ先輩が話す話は俺にとって知らないことばかりだった。
だいたい魔法使いって職種なの?
村はもちろんサウザニアでも見聞きしたことさえなかったもんな。
事実、エルフほどではないけどリズ先輩のような「魔法使い」という職種の人は圧倒的に数が少ないそうだ。
「リズ先輩この魔法陣、羊皮紙以外でも描けるんですよね?」
魔法陣を描いた羊皮紙のロールを見ながらふと思ったことを質問した。
「ん。地面や壁に描いても問題ないの」
そういや、仲間の秘密を喋れなくする契約の魔法陣は床に描いてあったもんな。
「魔法陣を発動する魔力は魔石からも引っ張れるんですよね」
「ん」
「魔力がぜんぜんない人でも魔石さえあれば発現できるってことですよね?」
「ん。例えば焚き火を起こす魔法陣などの生活魔法陣は問題ない」
あー魔法陣にも生活魔法陣があるんだ。
焚き火の魔法陣の羊皮紙はサウザニアで見たことあったな。村のサンデー商会にも置いてあった。
魔石を横に置いたら乾電池みたいにエネルギーを放電して羊皮紙から火が出るやつ。確か値段もけっこう高かったはずだ。
そっか。やっぱり魔力がない人でも発現できる魔法陣はあるんだ。
「でも弱い魔獣の小さな魔石では火がつくくらいしか魔法陣は発現しないの。さっきの焚き火のロールは売ってるけど、値段が高いからお金のない冒険者は買えないの」
うんうん。1回限りで燃えてなくなる魔法陣は金持ちしか買えないよな。
枯れ木を集めて、火打石を使って火をつけて焚き火をしたらタダだもんな。
「じゃあリズ先輩、その焚き火の魔法陣、火をちょっと点けるくらいなら弱い魔石でもいけるんですよね?」
「ん。でも火はすぐ消えるから途中までなの」
「あー、じゃあ途中まででよいやつを魔法陣にすれば…」
「ん、わかった。アレクは鉄板に焚き火の魔法陣を描くことを考えたのね。でも焚き火で燃えてるうちに魔法陣は熱で消えていくから何度も使えないの。だから結局はムリなの」
「ええ、考え方はリズ先輩の言う通りなんですけどね」
「ん?…意味がわからないの」
「えーとですねリズ先輩。例えば鍋の裏に、焚き火の魔法陣を描きますよね?」
俺は鍋を片手に質問する。
「ん」
「焚き火ほど燃えなくていいんですよ。水が温かくなるくらいで」
「ん?」
「鍋の外に魔石を入れる箱を作ってですね、そこに魔獣の魔石を入れますよね」
「ん」
俺は金魔法で鍋の外周部に、ポケットみたいなものを発現させてリズ先輩に見せる。
それから鍋の中に水魔法で発現したお湯を入れる。
鍋から湯気が上がる。
「この状態の湯が冷めない程度の温度になるような魔法陣。鍋の底に描けますかね?1点鐘や2点鐘くらい中の水が冷めずに温かくし続けられるだけでいいんですけど?」
今までは魔力が少ないから捨ててたような弱い魔獣の魔石も、乾電池みたいに使い捨ての魔石として日々の生活に組み入れられないかって思ったんだ。
空になった魔石もいつか再充電できるならエコだし。
「そんなことでよかったら簡単にできるの!」
それからはリズ先輩と2人であーだこーだと言いながら鍋裏に魔法陣が描いて鍋の外周部には魔石入れポケットのついた鍋を作ってみた。
工作してるみたいで楽しいな。
鍋裏は熱くなったり傷ついたりして魔法陣が剥がれるから、鍋の内側、鍋底に金魔法で魔法陣を描いた。
これなら焚き火の中で煮炊きしても大丈夫だ。
魔石入れのポケットは、今も俺がニギニギしてる鉄の塊程度の魔石が収納できれば良いからね。
ちょうど実験にもいい感じなサイズだ。少し魔力を込めておこう。
「おーできたよ」
「温めるだけだから一角うさぎの魔石で1、2点鐘は保つはずなの」
さっそく実験をしてみよう。
俺は鍋に粉芋を入れ、湯を注いで溶かし、カウカウの粉乳や塩、コンソメスープの顆粒を入れて味を調える。
うん、美味しいポタージュスープができた。
さっそくこの鍋の魔石ポケット入れに鉄の塊を入れた。
これで保温できるかどうか実験だ。
「うん、温かいままなの」
「出来ましたねリズ先輩!」
体感で2時間ほど待って飲んだが、ポタージュスープはできたてと変わらない温かさだった。
「リズ先輩!」
「アレク!」
パーンッ!
イェーイ!とハイタッチをした。
この「保温魔法鍋」はアレク工房の「リズ鍋」の名前で販売した。
大ヒット。
あっという間に中原中に広まっていった。
冒険者はもちろん、1家庭に1鍋はあるくらいの大ヒット商品になったのである。
余談だが、「リズ鍋」の収益はリズ先輩にと言ったんだが、リズ先輩からは固辞された。収益は折半となったんだけど、リズ先輩分の収益は、魔法使いの里の子どもたちの教育費に使われることになったそうだ。
俺の分の収益は、そこままヴィヨルド学園に寄贈することにした。
ここからできたのが「アレク基金」。
これまでは才能があっても経済的に入学が難しかった子どもたちがヴィヨルド学園に入る契機となっていく。
ヴィヨルド領が王国内で武力以外でも強くなっていく理由の1つにもなった。
「帰ったら初心者向け魔法陣の本をあげるの」
「あざーす」
リズ先輩からは卒業まで魔法陣についてあれこれを教わった。
知らなかったんだけど、魔法使いの里でのリズ先輩の評価(2つ名)は、希代の天才だった。
リズ先輩、のちの2つ名は「飴の魔法使いリズ」だ。
魔法陣を自在に扱う天才魔法使いだ。
「召喚魔法には手を出したらダメなの。精霊や悪魔を使役すると、いずれ負の事象が自分に還ってくるの」
これはホーク師匠も言ってたな。
でも、まだ俺にはよくわかんねーや。
魔法使いの知恵も加わり。数多くの魔法陣を開発し発現していく魔法士のアレクはしばらく先の話。
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