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第2章 幼年編
194 索敵の精度
しおりを挟む「アレク、今日は風を意識してみろ。回廊はもちろん、木のある山や野原、部屋の密度でも風は違うからな」
「はいキム先輩」
「風向きも考えろよ」
「風向き?」
「ああ。風上と風下じゃあ索敵もぜんぜん違うぞ」
「へーそうなんだ」
「・・・」
キム先輩が呆れたような顔をした。
だけど俺はその違いがわからなかった。
風向き?風上から匂いがするってことかなぁ。
匂いか…。
夏の海合宿。お風呂上がりのナタリー寮長はとってもいい匂いがしたよなぁ~。えへへ。
「マリー先輩、またアレクが鼻を膨らませて変態みたいな顔してます。ヒソヒソ」
「セーラさん。しーっ。アレク君だもん。仕方ないわ…」
俺の知らないところで、俺イコール変態の構図が出来上がっていたようだ…。
索敵に関してキム先輩が毎日課題を出してくれる。俺はその日その日の課題を意識して取り組んでいくだけだ。
たしかに索敵能力は少しずつ上がっているような気がしている。
今日は風を意識した索敵。
風は俺にとっては大事な要素なんだよな。なんてったって風の精霊シルフィが俺に憑いててくれるんだから。
「なあシルフィ、風が吹いてないところってあるの?」
「ないわ。どんなところも風は吹いてるのよ。昨日いた部屋だって風は吹いてるし、今いる回廊だって風が吹いてるのよ。アレク、わかる?」
「ぜんぜん、わかりません!」
「ふふ。アレクはダメダメちゃんだね!」
ダメダメちゃんって…。
あー、やっぱりかあ。
シルフィからすれば俺はダメダメちゃんなんだなあ…。
次の11階層へ向けて回廊を進む。
回廊は相変わらず、薄暗い。なぜか回廊の上部には等間隔で灯りがついているけど。
誰が点けたのかな?
うん、気にしないぞ!
「アレク、キムって子の言うとおり風を意識しなさいよ」
「わかった」
シルフィがキム先輩の言うことを意識してやれって言う。
ちなみに今は風吹いてないんじゃないの?無風に感じるんだけど…。
「シルフィ、今、風って吹いてる?」
「当たり前じゃん!」
「えーっ!?俺ぜんぜん感じないんですけど…」
「だからアレクはダメダメちゃんなのよ!」
「はい…」
呆れながらシルフィが教えてくれる。
「いい?アレクが鼻から吐いたわずかな息も風となるのよ。そのわずかな息が100メル(100m)先にはちゃんとした風になってるの。だから逆に100メル先のゴブリンの呼吸でさえ、簡単に判るわ。風向きがよければさらに遠くのものもわかるわ」
すげぇなシルフィは!
「身体中に薄ーく魔力を通すのよ。ふっと吹いたら飛ぶくらいにね。その魔力に風が当たるのよ。そのうち判るわ」
(魔力を薄く?吹いたら飛ぶくらい?あーぜんぜんわかんねぇ)
「わかったよ!シルフィ!」
はい…まったくわかりません。
「本当はわかんないんでしょ!ダメダメちゃんな子よねー、アレクは!」
えーっ!なんで勢いだけで言ったのがわかるんだよ!
それから、そんなにダメダメ連呼しないでくれよ!
ダメな子は褒めて伸ばすって言うだろ!くそー!
「アレク来るわよ」
ん?シルフィが探知した10秒くらいして、ようやく俺も索敵できた。うーん、10秒差かよ…。
サクサクッ…サクサクッ…サクサクッ…
二足歩行の魔獣の音だ。1体?2体?
うーんと‥2体だ!
ピタッ。
その場で停止。背中に回した片手のハンドサインで後方の仲間にも合図を送る。
人差し指で2、次いで親指をクルクル。
(2体のオーク接近中)
◯オーク
二足歩行、猪豚の魔獣。子ども並の知能を有す。1.8m程。長駆の人族並。
鉄級冒険者2人以上を推奨する魔獣。
食人性があり極めて凶暴。見た目に反し、食材としては美味。
サクサクッ…ザクザクッ…ザクザクッ…ザクザクッ…ザザザザザザザザザ…
仄かな明るさと暗闇の境目。直進80mほど先から二足歩行で歩いてくる魔獣、オークが2体。
今夜もオーク肉だな。
何にしよう?油も採れるから油を使った料理かな。
80mから70mに接近した辺りで。
オークも視認で俺たちに気づいたようだ。
「「ブヒーーッブヒーーッブヒーーッブヒーーッ!」」
ドドドドドドドド……
咄嗟に駆け出したオーク。
最初の頃は怖かったんだよね。だって二足歩行の豚だよ。
でも今はまったく怖くない。
ダンッ!
背の刀に手をやり、俺も突貫でオークに接近する。
「「ブヒーーッ!」」
ザンッ!
ブヒッ
ザンッ!
ブヒッ
的確に急所を狙ってオークを屠る。
止まることなくザンッと斬った。
抜群の斬れ味なんだよなぁ、俺の愛刀は。
その後も回廊で出会う魔獣を倒す。
今度はゴブリンとオークの混成だ。
ギャッギャッ
ザンッ!
ギヤッ
ザンッ!
ギャッ
遅れをとるような魔獣はまだまだいない。
オークを中心に回廊ではゴブリン、ワーウルフ、ミニアラクネなどが襲ってきた。
▼
「アレクこれは?」
「えーっと……ゴブリン3とオークが1?」
「ブー!ハズレ。ゴブリン2とワーウルフ1、オークが1よ」
「これは?」
「えーっと……ミニアラクネが3?」
「遅いよ。もっと早く答えなさいね。しかもブー!ハズレ。ミニアラクネ2とゴブリンアーチャー1よ」
「あはは。惜しいなぁ」
「バカバカ!」
ポカスカとシルフィが俺の頭を叩く。
DVかよ、シルフィ!
「惜しいじゃないの!間違えちゃダメなのよ。ハズレばっかやってたらそのうち死ぬわよ!」
「!」
「はい…シルフィ先生ごめんなさい…」
今のところ魔獣と闘うことは問題ないんだけど、索敵はまだまだだ。
風を感じて魔力を薄く伸ばすと索敵できる
って言うんだけど…。
『風を感じる・魔力を薄く伸ばす・索敵する』
1つ1つのことは理解できるんだけど、これがうまい具合に調和して1つにならないんだよなぁ。
打率は上がってきたんだけどね、シルフィが言うレベルにはぜんぜん到達してない。
今の俺じゃ太刀打ちできない魔獣なんか世の中には山ほどいるんだよな。
そんな強い魔獣を見落として、今の俺みたく10秒も出遅れたら‥‥。
悲惨な結果にしかならないよな。
その後もシルフィ先生からの指導は続いた。
正解率はまだ4割くらい?
おっ!回廊の先が明るくなった。回廊も終わりみたい。
11階層。
山地というか、村の家の裏にある林に近いかな。
落葉樹中心。密ではなくまばらな木々。
日本的な雑木林が広がっていた。
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