アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

192 オークロード

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「待った?」

「そうでもないぞ。2点鐘分くらい(2時間)か」


ブーリ隊から遅れること2時間余り。
ボル隊も10階階層主の扉前に到着した。
この後、少しばかりの休憩を経て、ブーリ隊は階層主との闘いに挑む。







「ビリー先輩、この矢も試してみてください」

「ん?アレク君これは?」

「矢尻がキラービーの毒針なんですよ。ひょっとしたらオークロードも麻痺させられるかなって」

そう言って俺は箙(矢筒)ごと、ビリー先輩に手渡した。作ったばかりの矢が10本ほど入っている。

「ありがとう。さっそく試してみるよ」

「はい!あとですねビリー先輩、オークロードの脂を‥」






立ちながら食べられる簡単な食事を摂ってもらった後。


「じゃあ行ってくる」

タイガー先輩が言った。
ブーリ隊の面々、ファイトだぜ!先輩たちみんなカッコいいよなぁ。

「アレク、もう飴が無いの」

「はい?」

えっ?出発前だよ?
緊張感ないのかよ!
しかももう飴がないのかよ!
どんだけ飴が好きなんだよ、この人!


「あーリズ先輩、いっぺんに食べたらすぐに無くなりますからね。飴は1個舐めて無くなったら次の1個を舐めてくださいね」

そう言って、俺は手持ちの飴をすべてリズ先輩にあげた。

「わかったの」

飴を受け取りニコニコと嬉しそうに笑うリズ先輩。

でもぜったいわかってない顔だよ、この人!

持ってきた食糧はまだほとんど手をつけてないけど、飴がなくなってしまったよ。困ったなあ。




「‥‥じゃあ行ってくる」

呆れたようにタイガー先輩がもう1度言った。

「「「あははは」」」

ビリー先輩もオニール先輩もゲージ先輩も3人とも苦笑いしてるよ。
まあ、適度にリラックスってことでヨシとしよう。


「「「いってらっしゃい!がんばって!」」」




ギギギギーーーーー

扉を開けて室内へと消えるブーリ隊の5人。

想定通りなら、10階階層主はオークロードだろう。肉と合わせてビリー先輩に脂もお願いしてある。


◯オークロード
二足歩行、猪豚の魔獣オークの上位種(支配層)をオークロード又はオークキングと称する。子ども並の知能を有し、2mを超えるものもいる。
冒険者から奪った防具を身につける個体もいる。
鉄級冒険者4人以上を推奨する魔獣。
食人性があり極めて凶暴。ただ見た目に反し、食材としては美味。



【  ブーリ隊side  】


ギーーーーーーッ ガシャン


扉が勝手に閉まる。施錠したような音を響かせて。


先の5階層とほぼ同じ部屋。昨年も探索をしたブーリ隊のメンバーにはまったく同じに思える部屋だった。そこにいる階層主もまた同じ魔獣 オークロードである。

二足歩行のオークロードは身の丈2.0mほど。
長駆揃いのブーリ隊のメンバーにとって何のの違和感もない…とは言えなかった。
オークロードの容姿風貌はやはり異質であったからだ。
身長2.0m、体重300㎏程。身につける防具は、鉄製の兜に鉄製の鎧。力士のように突き出た腹が印象的である。
が、力士と同じか或いはそれ以上、筋力を兼ね備えた強靭な脂肪を有した魔獣である。
赤く血走った目。顔に収まりきらない牙も併せて凶悪なブッヒーそのものの魔獣だった。


ブオオオオオォォォォォーーーーーッ!

部屋一面に響き渡る咆哮は怒りの現れ。
オークロードにしてみれば、招かれざる客がブーリ隊の面々であろう。

ガタンッ、ガタンッ。

ズンズン ズンズン ズンズン ズンズン

2振りの巨大なハンドアックスを足下に置いたオークロード。
走るでもなく、ゆっくりとした足どりでブーリ隊めがけて近寄ってきた。
それはお前たち如きには武器すら不必要だ、ここでは俺が圧倒的強者なんだと誇示する足どりである。

「リズの重力魔法で動きを止め、僕の矢とオニールの槍で牽制しつつ両翼のタイガーとゲージで仕留めるよ!」

ビリーが即座に指針を発する。
ブーリ隊で作戦を立てる「軍師」がビリーであった。

が、ここでゲージが異を唱えた。

「オイにやらせてくれ」

「ゲージ!」

タイガーが吠える。

「オイの力がどこまで通用するか知りたいんだ」

山のように抱えた荷物を下ろし、その上にリズを乗せたゲージ。

「フッ、タイガー。ゲージにやらせてやろう」

「まかせるの」

「ははは、僕もいいよ」

オニール、リズ、ビリーも同意をする。

「オークロードと張り合いやがって…」

半ば呆れ気味にタイガーがゴーサインを出す。

「すまんな、みんな」

オークロードに向かって歩を進めるゲージ。

ズンズンズンッ

ズンズンズンッ

進み来るオークロードと鰐獣人ゲージ。向かいあう双方が、立ち合う距離となったその瞬間。

「ブヒーーーッ!」
「おおおぉぉー!」

ガッッ!

ゲージとオークロードの双方が指と指を組む「手四つ」の形となった。
力比べだ。

「ブヒーーーッ!」
「おおおぉぉー!」

共鳴する雄叫びの中で始まる力比べ。
魔獣屈指の腕力を持つオークロードに互角とさえ思える腕力で対抗する鰐獣人のゲージ。

「ブヒーーーーーッ!」
「おおおぉー!」

「ブヒーーーーーーッ!」
「おおぉー!」


「さすがのゲージも押されるか」

オニールが不安げに呟く。

「「ゲージ…」」

タイガー、ビリーの呟き。


「ブヒーーーーーーーーーッ!」
「おぉー!」

「くっ…」

ガクン!

ガクンと膝をつくゲージ。
玉のような汗を垂らしつつ、未だ闘志籠る瞳の輝きは衰えない。
が、それでも。
時間とともに彼我の差は歴然としてきたかのように見えた。

「ブヒヒヒーーーーーーーッ!」
「くっ…」

「ブヒヒ」

このまま一気呵成に組み伏そうとするオークロードの口角が上がった。
ぐわっとオークロードの牙が盛り上がる。
勝った、止めだとばかり、組み伏すゲージの頚部に噛みつこうとしたその刹那。


「ゲージ!負けないで!ゲージーーーーー!」


大声とはほぼ無縁のリズが大声をあげた。
ゲージを応援しよう、ゲージを力づけようと、ゲージにとって1番の応援団長リズの声援が部屋中に響き渡った。


「ゲーージーーーー!」


グ ググググ  ググググググッ!

「ブッ、ブヒッ?」

ゲージの朽ちかけた足腰が既の所で止まった。

ググ グググーーーーーーーーーーーッ!

ゲージの足下から隆起する力の体現。
それは手にも現れた。

グググググーーーーーーッ!

「手四つ」に組み伏せられていた指も手首も腕も、オークロードの手と対等の位置に戻り、更にそれは追込みに変わった。

「ぅぉぉおおおおおーーーーーーーーー!」
「ブ、ブブブヒーッ」

形勢は逆転。
一気にゲージがオークロードを組み伏せる。

「おおおおおーーーーーー!」
「ブヒーーッ…」

ガタンッ。ガクガクガク…

オークロードが手をつき、顔を地に伏せて勝負あったかにみえた瞬間。

「ブブブーッ!」

突然、地に伏せたオークロードが口にした石礫や土をゲージの顔めがけて吹きつけた。

「うわっ!」

ダッ!

ゲージが手を離した瞬間。脱兎の如く、元の位置に逃げ戻るオークロード。
2振りあるハンドアックスを手に、その1振りをゲージに投げつけた瞬間。

「ホーリーガード(聖壁)!」

ガーンッ!

リズが咄嗟に展開した聖壁が、ゲージ目がけて飛んできたハンドアックスを空中で食い止める。


「やっぱり魔獣は男らしくないね」

そんな言葉とともに番えた弓矢を放つビリー。

シュッ!

ブギャーッ!

オークロードの片目を
ビリーが射抜く。
その矢はもちろん、アレクが用意した矢尻がキラービーの毒針のものである。

「本当卑怯なの。グラビティ!」

さらにはリズが重力魔法をオークロードに放つ。
何度となくゲージが食らっている急激に加重を増すものだ。

ズーーンッ !

「ブッ、ブッ、ブヒーッ」

地中にめり込むように脚が沈むオークロード。
矢尻の麻痺毒が効いたせいもあるのか、途端に動きが鈍くなるオークロード。

ダッ!
シュルシュルッ!

だっとオークロードに近づき、シュルシュルとその首元に尻尾を巻きつけるゲージ。


腕力と比べて人の脚力はその3倍とか言う。
鰐獣人の尻尾のそれは優に手の力の5倍はあった。
力比べの「手四つ」、ゲージの握力を遥かに凌ぐ尻尾の締力がオークロードを襲った。

ブヒッブヒッブブブブブブブブブ…
ブヒッブヒッブヒッ

白目を剥き、涎を垂れ流して意識を捨てるオークロード。


ゴキッ!

ゲージの尻尾がオークロードの頸骨を折った。









「オーク肉は俺好きなんだよ。さっそくアレクに頼もう」

オークロードの解体をするオニールが嬉しそうに言った。

「そうだオニール。お腹の脂も採っておいてくれるかい?」

「ん?ビリー、脂はあんまり旨くないぞ」

「ああ、いいんだよ。アレク君が採っておいてくれって言ってたから」

「アレクが?」

「ああ。アレク君のことだから何か旨いものを作ってくれるよ」

「そりゃ楽しみだな」

「「「わははは」」」




ズルズルズルズル…

解体の終わったオークロードがダンジョンへと吸収されていく。

ポン!

オークロードと入れ替わるように、椅子の上に宝箱が現れた。

「おお!なんか出たぞ」

オニールが嬉しそうに言った。

「どうせ折れた剣くらいなの」

ゲージの背中という定位置に戻ったリズが興味も示さずにぼそっと言った。

「わかんないぞ。マジックバックが出るかもしらないぞ」

オニールもアレクと同じ、現実よりもロマンを求める男だった…。



宝箱を槍の先で開けるオニール。
これは稀に中から魔獣が飛び出してくることへの警戒からだ。

ガチャガチャ

そーっと簡素な木箱の中を覗いたオニールが、ガックリと肩を落とした。

オニールを鼻で笑うリズ。

「ふん。言ったとおりなの」

「クソー!」

中には使い物にならないくらい刃こぼれしたナイフが入っていた。
宝箱にナイフを戻すオニール。

ズルズル…

宝箱もダンジョンに吸収されていく。



ズズズズズーーーーーーッ!

セーフティエリア(休憩室)が出現した。

「行くぞ」

タイガーが声をかけた。
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