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第2章 幼年編
186 5階層主バトル
しおりを挟むなにこの大きな扉!
巨人族でも居るの?
そこには普通の扉の4、5倍はある大きな扉が待ち構えていた。
5階層。
この扉を開けると階層主がいる。開けたら最後、あと戻りはできない。
「開けたら、やり直しはきかないわよ。みんないい?」
ボル隊隊長マリー先輩がみんなに声をかける。
「「「はい!」」」
もちろんOKだ。やるぞ!
ギギギギギーーーーー
両開き。
観音開きの扉を開けて中に入る。入室順も探索順と同じ、キム先輩、俺、マリー先輩、セーラ、シャンク先輩の順だ。
「「広い!」」
思わずシャンク先輩と2人がハモった。
階層主がいる部屋。5階層は大きな空間だった。
窓のない全面壁仕様。高さも含めて、バスケットコート1面が入るくらいの大きさの部屋だ。
なぜか天井からの採光もよく、充分な明るさもあった。
が、俺を含めて誰もが一点にのみ注視していた。
それは最奥、ゴール位置にある椅子に座っていた。
階層主だ。
身の丈4、5mはありそうな巨人サイズの魔獣ゴリラだった。
フーッ フーッ フーッ
鼻息?荒いな。
魔獣 ゴリラ。
森の守護者だ。
◯ ゴリラ
体長3~5m超の巨人サイズのゴリラ。
通称森の番人。
その体躯に似ず俊敏である。単独の鉄級冒険者では危険。鉄級冒険者3人以上を推奨する魔獣。魔法耐性は弱い。
危機が迫ると、大音量の咆哮を放つ。
ボル隊5人全員が5階層の室内に入った。
ギーーーーーーッ ガシャン
自動扉のように、扉が勝手に閉まった。ご丁寧にもオートロックのように施錠する音まで響かせて。
扉が閉まるのを待っていた?
魔獣ゴリラが視線をこちらに向けて、ゆっくりと立ち上がった。
背高っ!
軽く4m強はあるわ!
赤い血走った目で俺たちを睨んでいる。
フーッ フーッ フーッ
前かがみから鼻を膨らませ、胸を張る魔獣ゴリラ。
ボコボコボコボコボコボコボコ‥
室内に独特な重低音が響き渡る。
両手で胸を力一杯連続で叩く魔獣ゴリラ。
相手を威嚇するドラミングだ。
「アレク君はキムと一緒に前へ。シャンク君は盾でセーラさんを守って。セーラさんは魔法壁を」
「「「はい!」」」
ウガガガーーーーーーッ!
部屋いっぱいに叫び声が響いた。
「来るぞ!」
キム先輩が身構える。
「護り給へホーリーガード(魔法壁)!」
セーラが俺たちの前に聖壁を発現させた。
武闘祭で俺が叩いてもびくともしなかったあの障壁だ。
ダンッ!
なにっ!?
15mほどを一気に跳躍した魔獣ゴリラが、飛び込むように障壁に拳を叩きつける。
ガーンッ!
えーっ?!
見えないはずの障壁なのに。ひょっとして見えてるのか。
「くっ!」
セーラが顔を歪める。
ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ!
魔獣ゴリラが力任せに見えない障壁に向けて何発も何発も拳を叩きつける。
ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ!
「くっ。こ、このままだとあ、あまり長く
持ちません!」
セーラが悲鳴をあげる。
マジか?
俺が力いっぱい叩いても平然としていたセーラなのに。
「いいわ、解除して!エアカッター!」
前に出たマリー先輩と風の精霊シンディが風魔法を放つ。
シュッ!
ダンッ!
気配を感じたのか、はたまたエアカッターが見えるのか、ダンッとすかさず後方へ跳び下がる魔獣ゴリラ。
その表皮からは鮮血が滲んでいる。
といっても僅かに切り傷を浴びたくらいの軽傷だ。
「いけるか?アレク」
「はい!キム先輩」
トーンっ、トーンっ、トーンっ!
軽く跳躍するような動きでゴリラの右手に移動するキム先輩。
タタタタタタタタッ!
魔獣ゴリラの左手に駆けて移動する俺。
そして正面にマリー先輩。
3人で魔獣ゴリラを囲った体となる。
フーッ フーッ フーッ
不満げに前、右、横と忙しなく3人を見る魔獣ゴリラ。
「敵を見て矢を矧ぐ」なんて言葉があるけど、俺たちみんな準備をしてきたからね。やられるつもりなんてもちろんないよ。
「アレク君、火が効くわよ」
「はい。マリー先輩わかってます!」
「フレア」
半径1mほど。手には極大の火球を発現させる俺。
「フレア」
俺を見て、同じような火球を発現するマリー先輩。
火球を発現させたままじりじり、じりじりと魔獣ゴリラににじり寄る。
フーッフーッフーッ
前、右と極大火球を見た魔獣ゴリラがキム先輩を睨みつけた。
キム先輩に向けて攻撃しつつ退避することを選んだみたいだ。
「フレア!」 シュッ!
「フレア!」 シュッ!
マリー先輩と俺がフレアの火球を放ったと同時。
ウガウガーーーーーー!
キム先輩に跳びかかり、拳を叩き込む魔獣ゴリラ。
接近するゴリラとキム先輩がまさにぶつかる直前。
スルッ!
自身をパリィ(受け流し)、手にした苦無のような暗器を魔獣ゴリラの耳へと刺突するキム先輩。
ザクッ!
ドーンッ!
ドーンッ!
刺突する音と、壁面に激突する火球2発の炸裂音がほぼ重なった。
あっ、これゴリちゃん即死じゃない?
「すまん、浅かった」
こう言いながらゴリラから離脱するキム先輩。
たしかに。
少し浅かったみたいだ。
ウガガガーーーッ!
耳からも目からも血を流すゴリラが憤怒の形相で俺たちを見る。
想定以上に魔獣ゴリラの頭が大きかったみたいだ。
片手で耳を押さえつつ、そのまま大きく息を吸い込む動作をみせるゴリラ。
「気をつけて!みんなくるよ!」
マリー先輩の声がしたと同時。
「ウガガガガガガガガガガガガガガーーーーーーツ!」
肌にさえ感覚が伝わるくらいの大音量でゴリラが吠えた。
飛行機のジェットエンジン音を真横で聞くと140dbとか言う。鼓膜が破れるレベルの音量だ。
ダンジョン内で音が聴こえなくなると致命傷になる。
さらにこれが戦闘中であれば、回復魔法でさえ使える余裕はない。
しかもその場の戦闘が終わっても、何もしなければ鼓膜の再生に1、2ヶ月かかるだろう。
何より大音量に茫然自失となるのは必然。
まさに致命傷となり得る魔獣ゴリラの咆哮だ。
が、心配ご無用。
これももちろん、しっかり対策してきた。
5階層に入る前に。
全員耳栓をした。さらには魔獣ゴリラの咆哮中はこちらも口を開けて内圧の均等を図っている。
5階層、これまでの会話はすべてお互いの口の動きからの推測だ。
対階層主戦は、今回の
ファーストアタックだけじゃない。第2第3の攻略法はもちろん考えてあるし、既にその布石も打ってある。
ゴゴゴゴオオオォォォ!
ゴゴゴゴオオオォォォ!
再び火球を発現させたマリー先輩と俺に囲まれた魔獣ゴリラが左右を探すように警戒する。
「ウガ?ウガ?ウガ?ウガ?」
何処だ?
もう1人足りないと。
ゴゴゴゴゴゴオオオオオォォォォ!
さらに一回り大きく火球を発現させた俺に、魔獣ゴリラの視線が固まったその瞬間。
とんっ。
真上の壁から慣性に従って魔獣ゴリラの肩にすっと降りたキム先輩。
ザクッ!
長さいっぱい。
ゴリちゃんの頭頂部に苦無のような暗器が突き刺さった。
ガゴガゴガゴガゴ‥‥‥
赤く血走った眼が、白眼となる魔獣ゴリラ。
ズドーーーーンッ!
身の丈4m強の巨体が崩れ落ちた。
キム先輩ってやっぱすげぇよなぁ。
天井だよ!気配も無く天井に立ってもんな。カッコいいよなぁ。
まんま忍者だよ!
俺も出来ないかなぁ。
ズルズルズルズルズルズル‥‥
魔石を取ったあと。あっという間に魔獣ゴリラの身体はダンジョンに吸収されていった。
5階層クリア!
ギギギギーーーーーー
魔獣ゴリラが座っていた椅子の後ろに扉が現れた。
「いくよー」
マリー先輩が言った。
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