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第2章 幼年編
180 いざダンジョン
しおりを挟む「アレクもう寝たか?」
「起きてるよ」
「来年は俺も続くからな。がんばれよ。おやすみ」
「ありがとうなハイル」
同室。
深夜、2段ベッドの上段で寝るハイルから何度目かの激励を受けた。
あー寝れない!
俺、めっちゃ緊張している。これまでにないくらい。
なぜだろう?
「おはようアレク君。がんばれよ」
「「アレクがんばれよ」」
「「アレク期待してるぞ」」
「ありがとうございます」
寮の先輩ユーリ隊長からも激励された。
寮のみんなからも。
「アレク君おはよう。いよいよね!」
「寮長おはよー‥」
「アレク君あんた‥寝てないわね」
「あははは」
「もうっ!今日出発なのに何やってるよ!ほんと緊張し過ぎよ‥‥ゆっくり食べなさい」
レベッカ寮長が俺の背中を優しくさすった。
カタカタカタカタ‥‥
足が、手が。自然と震えだす。
湯気たつマグカップ。
零さないよう両手でしっかりと持って。
でも、中のスープが波打ってる‥。
「寮長。俺、緊張ずーっと取れないわ‥」
「みたいね‥。
アレク君いい?最初の魔獣を全力で倒しなさい。そして深く息を吸って、しっかり息を吐くこと。それで手の震えも落ち着くわ」
「わかった。やってみる」
もみこむ両掌が小刻みに震えていた‥。
寮を出たところでは、ナタリー寮長もわざわざ俺を待っていてくれた。
レベッカ寮長とナタリー寮長の2人が見送ってくれる。
「おはようアレク君‥あら、もう緊張してる?」
「あははは」
「本当よ!この子昨日も寝てないのよ。ナタリー、あんたからも言ってあげて」
レベッカ寮長とナタリー寮長の兄妹が2人並んで、俺を励ましてくれる。
「いいアレク君。あなたはまだ1年生なんだからね、気負っても仕方ないのよ。なるようにしかならないわよ」
「うん‥」
「そうよ。実力以上にもできないし、実力以下にもならないわ!だからね、自然体でやるだけよ!」
「お兄ちゃんの言う通りよ」
「うん‥」
「いい?今からお兄ちゃんと私がアレク君に力をあげるからね」
「えっ?」
「といってもお兄ちゃんも私も魔力は無いから気持ちをこめるだけだけど」
そう言ったナタリー寮長が、レベッカ寮長が俺に近寄った。
ひしっ
ぎゅー
ナタリー寮長とレベッカ寮長の2人が、俺を真ん中に抱きしめてくれる。
「「がんばれ、がんばれ、がんばれ‥」」
2人が心をこめて何度も何度も励ましてくれる。
あーなんか人の温もりって良いなぁ。
俺、ヴィヨルドに来てたった半年なのに、こんなにも俺を励ましてくれる人ができた。
思えば、こんな優しい人ばかりに俺は助けられている。
うん、だんだん落ち着いてきたよ。
「‥ありがとうレベッカ寮長。ありがとうナタリー寮長。緊張、だんだんとれてきたよ」
「「そう、よかったわ」」
「なんならもっと元気が出るように、アタシのちゅうなんてどう?」
レベッカ寮長がちゅうーっと顔を近づけてきた。
「やめてよ、お兄ちゃん!」
「いいじゃない!元気でるかもしれないじゃない!」
「あわわわ。もう大丈夫!じゃあ行ってきます」
「あら残念!」
「「いってらっしゃい!がんばれ~!」」
「いってきまーす!」
朝8点鐘。
学園ダンジョン前。
全員が集合した。
遺書は全員分を集めて、魔法官の先生が1通ずつ魔法印で封をした。
俺、遺書に何書いたんだっけ?覚えてないや。たぶん大したこと書いてないよ。
嘗て王都学園の教育官を務めていたという教育部長の先生が言った。
「みんなの遺書はこれで封印された。帰還後、水晶玉に手を乗せると開封されるから、それまでは誰も中を見れない。だから気にしなくていいからな。
万が一、不幸にして本人が帰還出来なかった場合のみ、領主立ち会いの下でこれは遺族に渡されるからな。
だからちゃんと帰ってきて、こんなもんはその場で破り捨てろよ!」
「「「わかりました!」」」
みんなは平然としたものだ。
だいぶ落ち着いてきたけど、緊張しまくってるのは俺だけだろうな。
学園ダンジョンは、通常のダンジョンと同じく、入口には領兵の守衛が常駐している。これは学園ダンジョンといえど、ヴィヨルド領の管轄ダンジョンだからだ。
入口は幅1メル(1m)。
人1人が通れるくらいに狭く、堅固な壁で周囲が覆われている。
魔獣が大量に湧き出てくることを防ぐためとあるが、学園ダンジョンの開山以来、魔獣が湧き出たことは1度もないという。
(学園ではダンジョンを探索することや潜ることをなぜか『開山』や『入山』、『登る』と表記している)
学園ダンジョン入口前には、「入山申込書」と水晶が置かれていた。
学園生はこの入山申込書に氏名を記載、併せて水晶玉のチェックを経て、いざ探索となる流れだ。
滞りなく、10人全員がチェックを終えた。
自然、10人が集まり円陣を組んだ。
誰もがお互いの顔をゆっくりと見て握手をしていく。
マリー先輩、タイガー先輩、ゲージ先輩、リズ先輩、ビリー先輩、キム先輩、オニール先輩、シャンク先輩、セーラ、俺。
「アレク君お願いね」
「はいっ!」
差し出す俺の右手を両手で包んで、笑顔のマリー先輩が言った。
マリー先輩の美しさは今日も際立っている。
気高いとか凛々しいっていう言葉がぴったりはまる。
「頼むぞ」
「はいっ!」
タイガー先輩は虎をそのまま人に現した、精悍そのものとした顔だ。
ガシッと握手する手の力強さに安心感を覚える。
その力強い握手同様、力強い目線で俺に頷いた。
「アレク、オメーもっと気楽にいけ。ギャハハ」
「は、はいゲージ先輩!」
握手をするゲージ先輩は、いつものように「ギャハハ」と笑った。
俺、ゲージ先輩はビリー先輩と並んで特に好きなんだよね。
ゲージ先輩の豪放磊落、底抜けの明るさに俺はダンジョンでも救われるだろうな。
「アレク、もっと肩の力を抜くの」
「あはは、リズ先輩」
握手するリズ先輩の手は身体同様、小さくてか細い、もみじのような手だった。
でも年下にしか見えないリズ先輩が俺に注ぐ目は慈しみ深い大人の女性のそれだった。思わずドキッとしたよ。
「アレク君の活躍、期待してるよ」
「はい、ビリー先輩!」
後輩の俺にもあくまでも自然に対応してくれるビリー先輩。俺、弟や妹しか兄弟はいないけど、ビリー先輩やゲージ先輩のような兄貴がいたらよかったな。
これからビリー先輩と一緒に学園ダンジョンに潜れるのが楽しみで仕方ないよ。
「アレク、無駄に力が入ってるぞ」
「アハハ、すいませんキム先輩」
キム先輩は長身揃いのパーティーの中では俺と変わらない。しかも見た目は俺と同じ存在感のないモブ代表なのに、仲間に加わるとなぜか安心感を与えてくれる。
今回の探索ではキム先輩の技術や魔法をあれこれいっぱい教えてもらおうと思う。
「アレク、先行ってうまい飯作っててくれよ」
「はい!オニール先輩」
握手するオニール先輩の手のひらはごつごつの豆だらけだ。弛まぬ修行が見てとれる手だ。
今回のオニール先輩は槍を携えている。
棍同様にすごい連撃なんだよな。心強いよ。
先行ってうまい飯作って待ってなきゃな。
「アレク君、僕にもおいしいご飯を食べさせてね」
「はい!シャンク先輩」
熊獣人のシャンク先輩。大柄揃いのパーティーでも、特別立派な体格はゲージ先輩と並ぶ。
そうなんだけど、従兄弟のトールと同じでなんかかわいいんだよな。
オヤツ用のメイプルシロップ、喜んでくれるかな。
「私もアレクを護れるようにがんばりますね」
「おおセーラ。頼むな!」
美少女のセーラにクラス分け試験のときは、ドキドキしたんだよな。今はクラスも一緒、気の置けない大切な仲間になった。
ダンジョン探索では欠かせない聖魔法の発現者セーラ。
俺こそ絶対守るからな。
2人あらためて、真っ直ぐにお互いの目を見て頷いた。
「じゃあブーリ隊のみんな、5階で会いましょう」
「「ああ」」
俺たち先行のボル隊から遅れること数時間後に、ブーリ隊が出発する。
「行こう」
総隊長マリー先輩が宣言した。
「「「はい!」」」
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