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第2章 幼年編
179 壮行会
しおりを挟む「セーラさんとアレク君はこれからしばらくお休みになります。それはみんなも知っているように‥」
いよいよダンジョンに入る前日。
壮行会が開かれる前、教室で担任の先生が話された。
1年生として10傑入りし、学園ダンジョン探索チーム入を果たしたセーラと俺。
ダンジョンに潜る許可を得た。
「はい、じゃあ2人からみんなに一言ずつ話をして」
「私はこのクラスに入れて本当に良かった。たくさんのお友だちもできました。皆さんのおかげです。学園ダンジョンでは皆さんの期待に添えるよう精一杯頑張ってきます」
パチパチパチパチ
「「「セーラがんばれー!」」」
「ヴィンランド学園生10傑として、1年1組のアレクとして恥じない探索をして参ります。応援ありがとうございました」
パチパチパチパチ
「「「アレクがんばれー!」」」
みんなからの声援がとても嬉しかった。特に仲の良い仲間たちからもたくさん声かけしてもらった。
それに対しても返事をしたんだけど‥。
おそらく緊張感もMAXだったんだと思う。俺、誰からどんな言葉をかけられて、何を話したのかさえ、覚えてないから。
「アレク、ダンジョンで時間ができたら呼んでくれ」
ハンスから手紙をもらった気がするんだけどね。どこいったかな。
とにかく学園ダンジョン探索に出る前の2日間は、何が何だかわからないうちに、あっという間に過ぎた。
いよいよ学園ダンジョンに向けて出発するんだな。
【 ハンスside 】
学園ダンジョン探索に向けてアレクとセーラがクラスに来なくなった。
残った俺たち8人は、いつものようにしてるけど、やっぱり寂しい。シナモンなんかめっきり口数も減ったし。
そんな中、良い意味で変わった仲間もいる。
モーリスだ。
武闘祭で惜敗し人目を憚らずに涙してから、すっかり人が変わった。
元々剣には秀でた才能があるものの、これまでの孤高な感じだったのだが、そこから一変した。積極的にみんなの輪の中に入るようになった。
武闘祭で負けた俺は‥正直仕方ないと思っていた。
5、6年になって勝てればいいだろうと。
そんな俺に、モーリスが勝つことへの執念を教えてくれたような気がする。
クラス分け試験でモーリスに負けて以降の俺の目標の1つは、モーリスに勝つことだ。
だからモーリスの涙を見て、ハッとした。負けて悔しがるモーリスと、負けても仕方ないと思う俺。このままでは絶対に追いつけないと思った。
それはアレクに対しても同じだ。
アレクはこれからもますます武の高みへと歩み続けるだろう。
このままでは、俺はアレクに手が届かなくなるだろう。
いずれ体術でも、俺はアレクに追い越されるだろう。
このままじゃダメだ。
もっと気合を入れないと。
でもそんな強いアレクでさえも、見るからに緊張しているのが判る。いつも余裕があるように見えるあのアレクが、緊張感でいっぱいだ。
今日なんか見たこともないくらい不自然なな明るさでみんなに接していたし。
「みんなちょっといいか?」
「「どうした?ハンス」」
「「なに?」」
俺は残った学年10傑の仲間に言ったんだ。
「アレクとセーラに手紙を書こう。ダンジョンの中でこれを見たら勇気がでるように」
「賛成!うちダーリンを勇気づける」
「私も賛成!今日見た?アレク、めっちゃ緊張してたよねー」
「見た見た、目がね、こーんなふうに開いたまんまで、引き攣ったような顔で笑ってたもん」
シナモン、アリシアが続き、キャロルが指で目を開いてアレクの真似している。
「あはは。僕もそう思ったよ」
トールも直立不動のアレクの真似をした。
「違うぞトール。こうだ」
セロがさらに直立不動から脚を震わせた。
ワハハハハハ
あははははは
「ハンス、お前の考えに賛成だ。俺たちから勇気を送ろう」
「モーリス様の言う通りです。農民のくせに緊張しまくるアレクの目を覚ましてあげましょう!」
セバスも笑って言った。
「こうしてみると、セーラのほうがしっかりしてたよな」
俺が言う言葉にシナモンが答えた。
「なんかダーリンかわいかったよ」
「「たしかにね」」
アリシアとキャロルも笑って頷いた。
▼
今日はヴィンランド学園で壮行会を開いてもらった。
司会はもちろん芸術クラブの犬獣人ハーフのステファニーちゃんだ。
相変わらず‥かわいいわん。
ステファニーちゃんの進める司会進行。
いつものように、大盛りのライブ会場みたいだ。
壇上に座る10傑の中で
静かにじっと堪える俺。
(いー痛いよー痛いっ、痛い!)
「アレクの大好きなステファニー先輩だよ?今日は騒がなくていいの?」
「大丈夫。さすがに今日は騒がないよ。でもね、俺またどっかに逝かないようにね、足を力いっぱいつねってるの。痛いー痛いー」
「先輩‥」
セーラのなんとも言えない呼びかけ。
隣にいるモンク僧見習いのオニール先輩。
「悪魔に魅入られたかアレク‥」
こう言って目を閉じたと言う。
「アレク‥バカかオメー‥」
ゲージ先輩は天を仰いだと言う。
「やっぱり変態なの」
リズ先輩は一言だけ口にしたと言う。
後にセーラは友人たちにこう語っている‥。
「思いっきり足をつねりながらアレクは嬉しそうだった」と。
▼
紹介するねー
◎ ボル隊(先攻)
キム・アイランド(斥候)
アレク(前衛遊撃)
マリー・エランドル(魔法士)
セーラ・ヴィクトル(聖魔法士)
シャンク(ポーター、盾、後衛)
◎ ブーリ隊(後攻)
タイガー(斥候)
オニール(前衛遊撃)
リズ・ガーデン(聖魔法士)
ビリー・ジョーダン(弓士)
ゲージ(後衛、盾)
中原広しといえど、学園内にダンジョンを擁しているのはここヴィヨルド領のみだ。
学園ダンジョンと謳われるだけに難易度は低めとも言われているが、王国随一ともいわれる武を尊ぶヴィヨルド領の学校ダンジョンが、「初級ダンジョン」並に攻略し易く弱い魔獣ばかりがいるわけはない。
学園ダンジョン自体は通常の他のダンジョンと変わらない危険性を有しているのだ。
ただ何が他のダンジョンと違うのかといえば、それはもう学園の生徒特典に尽きるダンジョンなのである。何せダンジョンに潜っているだけでも単位が保証されるという夢のような話なのである。
冒険者になるのが夢でもあった俺には、このことだけでも嬉しい。さらにはなんとこのダンジョンにはお宝もザックザクなんだという。
都市伝説みたくマジックバックがあるとも聞いた。しかもゲットしたら自分の物にできるんだって!
「ないない。マジックバックなんて10年20年は出てないわよ。それは適当な伝説よ」
「マジか‥」
ガッカリした。
マリー先輩は無いって言ってたけどそれじゃあ夢が無い。だから俺はどっかにマジックバックがあるんだと思おう。
▼
メンバーが一同に介して、壮行会が行われた。
学園ダンジョンの探索メンバーは先の武闘祭で10傑となった10人が5人ずつの2チーム編成である。
1年生は俺とセーラの2人だ。
チーム編成は聖魔法を発現できるセーラとリズ先輩の2人がそれぞれのチームに分かれ、あとのメンバーはそれぞれが均等となるように割り振られている。
2チーム編成なのだが、実質は共同チームである。それぞれのチームがお互いを助け合って進むことを目標としているからだ。
よってどちらかの1チームが先へ進めない事態に陥ったら、その場でもう1チームが救助に入り、パーティーを再編し、併せて撤退行動となる。
ではなぜ10人編成でチームを組まないのか。
ダンジョンには未だ不明な点が多くある。
なぜか5人程度で潜る場合と10人程度で潜る場合では、発生する魔獣数も階層主の難易度度も明らかに違うことが判明しているからだ。
それを含めて、学園ダンジョンへのアタックが開始以来50数年、さまざまな失敗とさまざまな成功から生み出されたチーム人員数とチーム編成が現在の形なのである。
現在までの到達階層は50階層である。
(何回まで続くのかは未だ不明)
ーーーーーーーーーーーー
壮行会の後。
学園長室へ表敬訪問をした。
部屋には学園長、副学長、教育部長を始めとする先生方がいた。
学園ダンジョン探索に参加する10人全員を前に、学園長から訓示があった。
「今年のダンジョン探索チームに選ばれた君たち。月並みな言葉だが、頑張ってくれ給え。1800人の学園生の期待、50年10,000数千人のOBOGの期待を胸にな」
「「「ヴィヨルドに栄光を!」」」
続いて副学長からの話。
「既に総隊長のマリーさんには隊を警告音で繋ぐ遺物と部位欠損にも効果のあるエリクサーを1個貸与してある。これらを使う事態になったら即時撤退だよ。何よりも生命を第1に。健闘を期待する」
「「「ヴィヨルドに栄光を!」」」
最後に学園長からもう一言、話がされた。
「幸いこの30年ほど、死者はでていない。だが残念ながら部位欠損となる生徒は普通にあると思ってくれ。この30年に行方不明者は3人。飛ばされた者の1人は私の友人だ。未だに行方不明のままだ。
1番大事なことは、生きて帰ってくること。これを最優先に探索してくれ」
隻眼の校長が言った。
行方不明、部位欠損。
そんな刺激的なワードが当たり前に語られる。
ごくん。
学園ダンジョン探索が一気に現実味を帯びてきた。
過去は王都学園の教育武官を勤めていたという教育部長の先生が最後に言った。
「本年度学園ダンジョン探索パーティーは、明朝8点鐘に出発する。各人遺書を書いてくるように。以上。散開!」
「遺書か‥」
眠れなかった。
眠れないまま、朝がきた。
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