アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

178 防具の重要性

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「ミューレさん、もう少ししたら俺学園ダンジョンだから、2、3ヶ月来れなくなるからね」

ヴァルミューレさんの工房にもしばらく来れない旨を伝えた。

刀鍛冶ヴァルカンさんの妹ヴァルミューレさんは、「ヴィヨルド領刀鍛冶の至宝」という2つ名を持つ。
鍛冶屋街に住むドワーフだ。
ヴァルカンさん同様に俺の大好きな人だ。

「えっ?」

「あのね、俺学園の10傑で3位になったんだ。だからしばらく学園ダンジョンなんだ」

「すごいわ!」

「うん」

「アレク君がんばったね」


よしよしと頭を撫でられた。横幅もあって俺より少し背の低いドワーフ族のミューレさんに。

あれっ?なんかにふいに涙腺が崩壊しそうになったよ。なぜだろうね。

「アレク、よくやったギャッギャ」

ミューレさんの工房にいるトカゲからも褒められた。

「ありがとな」

ギャッギャと笑うトカゲと笑い合った。

「アレク君、防具はどうするの?」

「えっ?防具はとくに考えてないよ」

「やっぱり‥」

ミューレさんが少々顔を顰めた。


「ダンジョン装備って案外みんな防具を疎かにするんだよね。タンク役が大きな盾を持ち歩くくらいで」

「うん?ミューレさん、それって?」

「そのまんまの意味よ。ダンジョンに入る前、目に見える山ほど積んだ食糧は、見るからに安心できるでしょ」

「うん」


ポーターが山ほど荷物を背負って隊列の後に続く。

うん、この映像のシーンはやってみたいダンジョンあるあるだ。

「でも大事なのは食糧よりも、薬の確保や回復系魔法の発現なの。そしてね、何より大事なのは怪我をしないことなのよ。
だってお腹は食べなくても2、3日は死なないでしょ」

「たしかにそうだね」

おもしろい目線だよな、ミューレさんの考えは。

「でも毒は、その日どころか数刻で死ぬわ」

「うん、そうだね」

「救援も来ない。薬師や医師もいない。そんなダンジョンではできるだけ怪我は避けたいのよ。もちろん毒や呪いなんかもってのほかだし」

「たしかにそうだよね」

「だからね防具を軽くみちゃだめなの。重要なのよ。しかも装備して邪魔になる重さじゃだめだし」

「ミューレさん。俺そこまで考えてもなかったよ」


ミューレさんの言う通りだ。

たしかに一般的なイメージでは、盾役は大きな盾を背負っているけど、他のメンバーは防具をほぼ用意してないよな。しかも少しでも食料を携えていかなきゃいけないだろうから山のような荷物を背負うポーターなんか、まんまダンジョンあるあるの絵図だよな。

うん、さすがに侍のような甲冑は無理としても、ダンジョンでは防具も装備しなきゃいけないなぁ。

あっ!俺の好きだったニンジャのアニメも額当てだけはしてたもんな。あれも頭部を守るには額当てでもないよりはマシなはず。

「まあアレク君は1年から潜れるんだから年々いい装備に改良していくといいよわ」

「うん、ミューレさんありがとう。いいこと教えてもらったよ」


ミューレさんのアドバイスのおかげで、俺は年々自分の必要とする武具防具が判るようになった。もちろん仲間の武具防具も。

6年の学園ダンジョンには、ミューレさん監修の下、全員の武具防具を俺自ら叩くことになる。

「アレク君、学園ダンジョンはこれから毎年行けるんだからね、何がいるのかをよく考えときなよ。毎年改良していけば翌年にはさらに良くなるから」

「うん!」



ーーーーーーーーーーーー



「アレク君こないだはご馳走さま。パンケーキ美味しかったわ」

「うん、いいよ」

「あのメイプルシロップ、私も早くほしいわ」

「だよねー」

やっぱり女子は年齢に関係なく甘いものが好きだよなあ。

「アレク君、なんか言った?」

「いえ、なんにもいってません!」

「ギルド長がお呼びよ。ちょうど今は顧問もいるし」

「えー、おっさん2人揃って。暑苦しいわー」

「フフフ、そう言わないの」

ヒロコさんはヴィンランド冒険者ギルドの担当受付嬢だ。ヒロコさんもサウザニアギルドのマリナさんと同じく、向かうの世界なら間違いなくモテモテの美女だ。

だけど15歳から成人とするこっちの世界では‥‥

でも商業ギルドのミランダさんといい、なんで俺にはベテランばかりで猫耳受付嬢がつかないんだろう?



「おお来たかアレク」

ギルド長室にはタイランドギルド長とロジャー顧問の2人がいた。

「こないだのメイプルシロップの件な、お前の希望通り、騎士団、冒険者ギルド、商業ギルドの提携でやることになったからな」

「ありがとうございます!」

「まあ今回はロジャーに感謝しとけよ。ロジャーとカミールさんが前領主のところまで行ったんだからな」

「うん、ロジャー顧問ありがとうございました」

「気にすんな。お前のおかげで新しい甘いもんも知ったし‥」

「知ったし?」

「‥まあ、そんなとこだ。気にすんな」

「ん?」

俺知ってるもんねー。ミランダさんと森の熊亭でパンケーキ食ってたの。シッシッシ。



「アレク、学園ダンジョンだがな、魔石はもちろんな、階層主を倒した水晶の記録をちゃんと取ってこいよ。今回学校と水晶の記録を連携できるように話しといてやるからな。
お前は1年から毎年潜れるから、6年までにはなんとか銀級までなんとかいけるだろうよ」

へー、そんなことできるんだ。さすが不思議なとこだけハイテクだわ。


「あざーす」

「まあしっかりやって来いということだ」

「はーい」

「それとな、学園ダンジョンに行く前、来週の休養日空けとけよ」

「えっ?」

「メイプルシロップの採取の方法を現地にいる人間に教えてやれ。
お前が学園ダンジョンに行ってる間に、領と両ギルドの新事業とし始まるからな。
黒い森の西端、コバック村だ。ふつうの奴らなら3日かかるが半日もあれば着くだろ?」


「着くけど、学園ダンジョン前の最後のお休みがなくなるじゃん!」

「ばか!お前がやりたいって言ったから始まる事業なんだから、責任持って教えてこいよ」

「はいはい」

「はいは1回でいいんだよ!ワハハ」

「じゃあ行ってよし」

「失礼しましたー」




「聞いたかタイラー」

口角を上げながらロジャー顧問が言った。

「ああ、黒い森の西端に半日もあれば着くってな。ワハハ」

「突貫にしても半日発現し続けられる魔力量だろ。おそらく半日つーか数刻で着くんだろうは、アイツは」

「ああ、俺たちのガキの頃より数段先に行ってるな」

「フッ。本当に楽しみなクソガキだ」

「ああ」

ワハハハハハ
ワハハハハハ







言われた通り、メイプルシロップの採取の仕方等を現地の冒険者に教えてきた。

採取用の小ぶりな瓶と輸送用の大きな樽も置いてきた。もちろん誰でもこの容器を作れるように、商業ギルドにも同じものの設計図、メイプルシロップの精製法と販売法も説明してきた。
小家族用のメイプルシロップにマヨネーズの容器も転用できるってことも。


後に、メイプルシロップがアレク工房の商標となり、製品も黒い森至近のコバック村にアレク工房の名でメイプルシロップ製造工房で製品するようにカミールギルド長が手配されたとミカサ商会長から聞いた。

俺は本当に恵まれていると思う。


ーーーーーーーーーーーー


同部屋のハイルからも激励の言葉をもらった。
レベッカ寮長からも。女子寮長のナタリーさんからも。

「セーラさんとアレク君はこれからしばらくお休みになります。それはみんなも知っているように‥」

授業前、クラス担任の先生から話があった。
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