アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

176 三方よし

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【  カミール・ミョクマルside  】

「ロジャー殿久しいな」

「カミール殿もな」

商業ギルドの馬車にて冒険者ギルドでロジャー顧問を迎え、領主邸へ向かう。

「それにしても我らがこうして再び共にすることがあろうとはな」

「冒険者ギルドと商業ギルドの不仲を思えば仕方あるまい」

「ああ。農民の子に感謝せねばなるまい」

「ははは。ほんにのお」

「メイプルシロップ。我らが領に生み出す富は莫大なものとなろうな」

「そうさの。それゆえ2代に渡る英邁な主君で良かったと心より思うな」

「でなきゃアレクから話があった時点でお主は断っておっただろうに」

「はは。たしかにな」


私とロジャー顧問とは、王国戦乱の最中に出会った。武力を行使する者の若手の代表格と兵站を担う者の若手の代表格として、共にヘンドリック様をお支えしていた。

戦後は前領主ヘンドリック・フォン・ヴィヨルド様に付き従ってヴィヨルド領に来るまでに。


「2人が揃うのは何年ぶりかの。して用件は?」

「ヘンドリック様、我がヴィンランドの商業ギルドで若手の1番の商いの担い手がおります」

「ん?」

「その者は他領からやって来た者なのですが、わずか半年あまりで我が領の名を大いに上げる商いの実績をあげております」

「ヘンドリック様、冒険者ギルドに所属しております9歳の子どもがこの度鉄級となりましたわ。これは僭越ながら私やタイラーよりも早いスピードです。その者、今年学園に入学しまして、先の武闘祭で3位となりました」

「カミール。アレク袋、マヨネーズ、キーサッキーを生み出した子どもよな」

「はい、よくご存知で、ヘンドリック様」

「ロジャー、先のクラス分け考査では天才ともてはやされ天狗になっておったわが孫が手も足も出なかった子どもよな」

「おっしゃる通りです。ヘンドリック様」

「で、その子どもが同一であるとな」

「「はい」」

「この者、隣のヴィンサンダー領の農家の子、アレクと申しますが、我が友ミカサも大層入れ上げておりましてな」

「ほほお。大商会ミカサ商会長の庇護か」

ロジャー顧問も続く。

「ヴィンサンダーではモンデールとシスターナターシャの教えを受け、剣を授けたディル殿は最後の弟子と申しておったとか」

「ほお、不断に不倒、知恵の教え子なるか。ハハハ、しかもタイラーの弟弟子よの。
さらには‥ワシの宝といえる主ら2人も庇護しておると?」

「「はい」」

「ヴィンサンダーのアレクか。名前までワシの古き友に似ておるな。で?」

「こちらでございます」

私は前領主ヘンドリック様にメイプルシロップの瓶をお渡しして、説明をした。

黒い森で採れるメイプルシロップは、砂糖と同等の甘味として一気に我が領に富を生むであろうと。そして管理を怠らなければ、それは次世代にまで続くだろうと。

ヘンドリック様が関心を持たれたところで、これまでにない商いの形をご提案申し上げた。

このメイプルシロップの採取を冒険者ギルドで担い、魔獣からの護衛警護を騎士団で担い、製造を商業ギルドで担い、販売を領都の商人で担う、ヴィンランドの官民が一体で取り組むことを。


ロジャー顧問も私に続き、こうヘンドリック様にお願い申し上げた。


「ヘンドリック様、9歳の子どもの夢のような案にのってやってくれませんか?」と。

「この案もその子が‥」


しばしの沈黙が続いたあとだ。


「ワハハー、カミール、ロジャーよ!
こんな愉快なことがあるか!」

ヘンドリック様の大きな笑い声が響いた。

「誰か、誰かある!」

「はい、お館様」

執事にヘンドリック様が命じた。

「至急ヘンリーを呼べ」








「カミール、このままではその子の取り分がないではないか!」

「そうなりますな」

「メイプルシロップと言ったな。その名で商業ギルドで登録をせい。たとえわずかであろうと、1つあたりに何がしか利益が入るようにな」

「わかりました」


メイプルシロップの採取には冒険者ギルドが、その警護には領都騎士団があたるようになった。
精製及び販売元には商業ギルドがあたる。
ほぼアレク君の希望通りに事が進むよう決まった。


それぞれの信頼性の担保として文官立会のもと、メイプルシロップの日々の採取量を明らかにした。それより精製量も明らかとなり、ひいては何処かの段階での搾取や間違いなども起きない。

これもまたアレク君考えだ。彼の才はミカサと愛娘サンデーちゃんから感化されたものであろうな。

アレク君は剣と同じくらい、商いにも良い師匠に恵まれたよ。


ーーーーーーーーーーーー


メイプルシロップを採取する際に使用するようになった水桶、樽。この容量及び規格もアレク君の考案だ。
これもまたアレク袋の規格同様、その後、年月を経て中原中の同一規格となっていく。




メイプルシロップはヴィンランド領の特産品となった。

高額ではあるが、平民でも手が届かなくはない価格で商会に並ぶようにもなった。
もちろんメイプルシロップ、商品の仕様はマヨネーズ型の容器である。

メイプルシロップが生み出す富は、結果として領都ヴィンランドのみならずヴィヨルド領全体が潤うことになった。これにより王国におけるヴィヨルド領の権限も増した。
巡り巡って、先々のヴィンサンダー領に恵みをもたらすこととなった。
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