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第2章 幼年編
172 シナモン焼
しおりを挟むさあベビーカステラを作るよ!
「「「なに、なに?アレクちゃん何作るの?」」」
子どもたちも集まったきた。
シナモン、ハンス、トール、アリシア、キャロルほか、みんなが見守る中、持ってきたベビーカステラの型を準備する。
「これ元の型だから、必要だったらバザーの日までに土魔法や金魔法を発現できる子たちと鋳造するんだよ」
「わかったにゃ」
ベビーカステラ(シナモン焼き)は絶対人気が出るはずだから、たぶん金型は1台ではダメだと思う。
2、3台の金型でもフル稼働するはずだ。
でもたこ焼きほど調理に技術は要らないから女の子でも作れるはず。
「じゃあやるよ。シナモン手伝って」
「うん、ダーリン」
「まずは粉が入ったスライム袋。線があるからそこまで水を入れてくれ」
「わかったにゃ」
俺が用意してきたスライム袋の中には調合したホットケーキミックスの粉が入っている。
あとは水を加えるだけだよ。
シナモンが水差しから水を入れていく。
「あーアレクちゃん袋だー」
「ほんとだー」
(子どもたちにもスライム袋は浸透しているみたい。でもアレクちゃん袋ってなんか違和感あるわー)
「ダーリンこのへんでよい?」
「よいよ。バッチリだ!うまいなーシナモン」
「にゃーー」
シナモンがにぱあっと笑顔になった。
うん、褒めて伸ばさないとね。
「では、中の水をこぼさないように気をつけて、袋を外から揉んでみましょう」
「はい、アレク先生。こんな感じかにゃ?」
はは。俺、先生になったの?
「はい、シナモンさんいい感じです」
「にゃにゃにゃ」
シナモンが嬉しそうに袋を揉み揉みする。
「50回くらい揉むとだんだん水と粉が混ざってきますからね。数えながら揉み揉みしましょう」
「「「いーち、にー、さーん‥‥」」」
みんなが唱和していくうちにいい感じで粉と水が混ざり合った。
ホットケーキもそうなんだけど、実は混ぜすぎるよりダマが残ってたほうが美味いんだ。(とパティシエの先生が言ってたのを覚えている)
「はい、よくできました。それでは袋の中の液体を少しずつ、こぼさないようにこの金型の穴に入れてください」
「アレク先生、わかったにゃ」
シナモンが袋からホットケーキミックス液を金型に注いでいく。
金型は油でコーティングしてあるから焦げて引っ付いたりはしないよ。
金型の下は弱火で、準備万端だ。
たこ焼きと違うから、蝶番の2つ合わせの金型。
「甘い匂いがするー」
「匂いもおいしそー」
「食べたいなー」
ものの数分で甘い匂いが漂い始めた。表面もプツプツしだしたね。
「ではシナモンさん、2つの金型をこんなふうに合わせてください」
「は~いアレク先生」
パチーンと金型が合わせるような俺のジャスチャー通り、シナモンがベビーカステラの金型を2つ合わせにした。
「よくできました。あとは金型の表と裏をもう少し焼いたら完成です。最後は先生が代わります」
「はいにゃアレク先生」
「「「アレクちゃん先生まだー」」」
「「「アレクちゃん先生早く食べたい」」」
「「「食べたい!食べたい!食べたい!」」」
子どもたちの合唱も始まったぞ。
シナモンとハイタッチ。
バトンタッチだ。
ますます甘い香りが漂ってきた。
トントン トントン
数分のち、金型の持ち手をトントンと叩く。手には微かにコロコロとベビーカステラが金型から分離した感触も伝わる。
「よし、できた!」
いつしか俺たちの周りには神父様をはじめ、シスターや教会にいる人たちみんなが集まっていた。
「これがバザーで出すベビーカステラ、シナモン焼きでーす!」
パチンッパチンッ
金型を外してそのまま金型を裏に向ける。
コロコロコロコローー!
「おおーーー!」
「うわーーー!」
事前に発現しておいたテーブルの上に、中のベビーカステラがコロコロと転がり落ちた。
うん、我ながらよく出来た。
人形焼みたいなベビーカステラ。
デフォルメしたシナモンの顔を型どった猫型のベビーカステラだ。
手のひらにのる子猫をイメージ。ピョコンと出た両耳もかわいい、その名もシナモン焼きだ。
「食べてみて」
「「「いただきまーす」」」
「かわいい!」
「これシナモンなの?」
「なんかかわいいから食べるのがかわいそうになる。でも‥」
かわいいよねー。そりゃそうなんだけど、こんな甘い匂いの前では、愛でるよりも手が自然と口に運んでしまうよね。
パクッ。
「ちょっとアレク!なによこれ!」
「本当よ!アレク!」
「「こんなの初めて食べたわ!」」
アリシアとキャロルがなぜかわかんないけどキレ気味に絶叫をした。
そこからは早かった。
「うまっ!」
「おいしーいっ!」
「あまーい!」
みんながみんな、大喜びとなった。
おそらく果実以外では初めて食べる甘さだと思うよ。
ステファンとステファニーもめちゃくちゃ喜んでたと翌日トールから聞いたしね。
「ダーリン、これウチなの?」
「ああ、これはシナモン焼きだよ」
「めっちゃ美味しい!こんな甘いお菓子も初めてにゃ!」
「でもウチがウチを食べるってなんか変な感じにゃ」
あはは。たしかにそうかも。
みんながすごく褒める。こんな甘いものは初めてだと。
甘いよね。砂糖かって?
ちょっと違うんだよ。
ホットケーキミックスの甘味料。これだけが問題だったんだ。
砂糖は手に入らない。蜂蜜は手に入っても庶民が気軽に購入できる値段じゃない。
そんなとき、偶然にもひとり黒の森で修行をしていたらメイプルシロップの元になるカエデの木が生えていることを知ったんだ。
たまたま会ったノームがこの木を「甘い木」って言うからね。
ひょっとしてと思ったんだよ。
樹液を採取してみたら、案の定甘かった。煮詰めてみたら、ほぼ記憶のメイプルシロップになったからね。カエデ、メイプルシロップの木だってね。
うれしくて思わず、俺踊っちゃったよ。久しぶりのひとりマイムマイムを。
ちゃらららーちゃららーちゃららーらら、マイムマイムちゃららー。
「やめてよ!アレク、悪魔の歌は!」
シルフィさんがぽかすか俺の頭を叩いてマジギレしてます‥。
でも悪魔の歌は酷すぎじゃないか‥。
採取したこの樹液を精製。メイプルシロップにしてから水分を取って粉にしてホットケーキミックスに混ぜたっていうわけ。
黒い森(黒の森)という場所も場所だから、採取するには冒険者じゃないと無理だと思う。
だから近々、商業ギルドと冒険者ギルドとを連携した形を提案しようかと思ってる。
これはいろんな意味で革命だと思うよ。
「シナモン焼きは、シナモンが先頭に立ってやってくれよ」
「わかったダーリン!ウチ、がんばる!」
俺が学園ダンジョンに潜っている間に行われた教会バザー。
ここで爆発的な大人気になったのは予想通り、ベビーカステラのシナモン焼きだった。
のちにシナモン焼きは、ヴィンランド生まれのお菓子として中原中で親しまれる庶民のお菓子に育っていくんだが、それはもう少し先の話。
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