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第2章 幼年編
168 自己紹介 ②
しおりを挟む長机の反対側の先輩の自己紹介が終わった。
次はこちら側の4人の番だ。
「キム・アイランド。海洋諸国連合からの留学生だ。
魔法は闇魔法のみ。だが魔獣にはあまり効果はないな。
斥候、暗殺を代々請け負う家系だから、そっち系は俺に任せてくれ。
毒物も一通り理解している。ただ話すことは得意ではない。だから俺が喋らなくても気にするな」
おー闇魔法も初めて聞くよ!
キム先輩のモブっぽい顔だちは目立たないから斥候や暗殺には良いんだろうな。
でもやっぱり元の俺と一緒で黒髪の変化の少ない普通の顔は親近感があるよ。
「5年1組のシャンクです。僕は熊獣人です」
大きさだけならゲージ先輩に匹敵する。
大きな身体を縮めるようにして自己紹介したシャンク先輩。なんかトールみたいだな。
「僕は魔法は使えません。闘いはふつうにできます。
盾役、ポーターも任せてください。料理はけっこう好きです。
あと‥蜂蜜を持っていく予定です」
タイガー先輩がすかさず言った。
「シャンク、お前蜂蜜酔いするのか?」
「はい。でも僕なんにも覚えてないんです」
「今まで隠してたのか!ぜんぜん知らなかったぞ」
「ギャハハ。パーティーにバーサーカーがいたか!こりゃ心強いな」
えっ、何それ?バーサーカー?バーサーカーってあれでしょ。敵も味方も関係なしに全力で襲ってくるって奴でしょ。コワッ!
でも蜂蜜酔いの熊さんってなんか冗談みたいだよな。
「1年1組のセーラ・ヴィクトルです。最初にマリー先輩が契約魔法のお話をされていましたので‥」
覚悟を決めた様子のセーラが胸の前に手を組んで話し始めた。
「いずれ判るでしょうから。
ただ、出来るだけ内密にしていただけるとうれしいです。
マリー先輩、オニール先輩、ビリー先輩がお気づきのように本名はセーラ・ヴィクトリアです」
「やっぱり!」
立ち上がったオニール先輩が膝をついた。
「いえ、オニール先輩。私はヴィクトリア姓ではありますが、妾腹です。お構いなくお願いします。
法皇たる父は長く体調が悪く、次期法皇を巡る争いから法国内では身の危険もあり、幼い頃より名を変えて王国の教会におります。
発現できるのは聖魔法のみですが、まだ蘇りのリブウェルはほぼ使えません。
力も無く、わずかに聖魔法しか使えません。
先輩のみなさんの足を引っ張らないように頑張ります。
あとお料理は‥‥教会では禁止されていますので‥‥」
最後はゴニョゴニョと言い終わったセーラ。
「セーラ‥」
「リズ先輩‥」
セーラはリズ先輩とひっしと抱き合っていた。
ん?なぜだ?
いよいよきた。俺の番だ。
「1年1組のアレクです。隣のヴィンサンダー領から来ました。
使えるのは風と土と金と入学時には言いましたが、実は火と水も使えます。それとマリー先輩と同じ精霊魔法も使えます。
「ヒュー」
「フッ」
オニール先輩とキム先輩が目を見張った。
「アレク君‥それはいつから?」
ビリー先輩が確かめるようにゆっくりと聞いてきたので俺は正直に答えた。
「5大魔法は前期学校中にすべて発現できるようになりました。精霊魔法は3年前の後期学校から発現できるようになりました」
ギャハハハハ
バンバンバン!
ゲージ先輩が笑いながら立ち上がり、俺の背中を叩いた。
「ギャハハ。アレク、オメーはおもしろいな!」
「エルフ以外で精霊魔法を発現できる人族はおそらく中原中でほぼおるまい」
オニール先輩が言った。
「ダブルやトリプルどころか全てなのかい。これも下手すりゃあ中原に1人もいないだろうね」
ビリー先輩も言う。
「その上、弓はビリーにも匹敵し、剣術や体術もやるのか」
タイガー先輩。
「アレク、オメーはなんでもありだな!ギャハハ」
「あっ、食事は俺に任せてください」
「アレク君はアレク袋やツクネ、粉芋も作るアレク工房もやってるんだよねー」
マリー先輩がククッと笑った。
「ああツクネは俺も好きだぞ」
「僕も」
タイガー先輩とシャンク先輩が言った。
「仕方ないの。お料理はアレクに任せるの」
「はい、私もアレクに任せます」
リズ先輩とセーラの言葉の語尾がなぜか重なった。
「「「よかったー」」」
マリー先輩、ゲージ先輩たち6年の先輩たちが何度も良かった良かったと胸を撫で下ろしていた。
俺は5大魔法のすべてを発現できること、精霊魔法も使えることを仲間となる先輩たちとセーラに伝えた。
契約魔法の前だけど、この仲間ならばと信じたからだ。
でも。
でも、俺の出自については、話せなかった。
契約魔法を結んで、ダンジョンに入って、然るべき時が来たら話せるかもしれない。
でも、今はまだ話せない。
それ以上に‥‥‥この心に抱えるどす黒い炎については絶対に話せない。
俺は卑怯だ。
でも‥今は誰にも話せない。
今日からダンジョンに潜るまでのしばらくは準備期間となった。
思った以上にゆっくりできそうだ。
しばらくはセーラが男子寮に迎えに来てくれて一緒に専用ルームに行き、帰るのも一緒という流れだ。
「アレク‥」
「セーラ‥」
何を言おうか、お互い話し辛い。
それでもなんとなく、遠慮をしなくていいんだと思えるようになったのは俺だけじゃない‥はず。
「セーラ、一緒にがんばろうな」
「ええ」
「俺たち止まってる暇なんかないもんな」
「そうですよね!」
「あのさ、また暇なとき聖魔法について教えてくれないか」
「もちろんです。アレクなら聖魔法も使えるようになったりして‥」
「さすがにすぐは無理だよ」
「すぐじゃなかったら発現できると?」
「ああ、時間をかけて努力したらいつかはきっと発現できると思うよ。だってどの魔法もそうやって覚えてきたからね」
「‥アレクはすごいね」
「そうかな?」
「じゃあ代わりに私にお料理を教えてくださいね」
「いいよ。あっ、そうだ!それそれ。『教会でお料理禁止』ってどう言う意味だよ?」
「‥‥じゃあまた明日ねアレク」
「おーい?」
寮の前から小走りに去っていくセーラを茫然と見送る俺だった。
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