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第2章 幼年編
166 信頼性の担保
しおりを挟むこうして武闘祭の1位から4位、さらには8位までの順位が決まった。
5位から8位までの順位は、対戦は無くこれまでの戦績を点数化して結果のみの決定となった。
残り9位10位。
10傑を選ぶというルール上、ある意味最も苛烈な勝負に挑むこととなるのが、この30人から成るトーナメント2回戦の敗者だ。
それはこれより2回戦の敗者7人から10傑最後の9位10位が選ばれるのだから。
選出方法は総当たり戦。
勝率が同率となった場合はさらに同率となった者同士の再勝負を経ることとなる。
この結果、9位にビリー先輩、10位にキム先輩が決まった。
こうして10傑が決まった。
【 武闘祭10傑 】
1位マリー・エランドル(エルフ族)
2位タイガー(虎獣人族)
3位アレク(人族)
4位ゲージ(鰐獣人族)
5位セーラ・ヴィクトル(人族聖魔法士)
6位聖魔法リズ・ガーデン(人族魔法使い)
7位オニール(人族モンク僧)
8位シャンク(熊獣人族)
9位ビリー・ジョーダン(人族)
10位キム・アイランド(人族)
10傑に3位のアレク、5位のセーラ・ヴィクトルと1年生から2人選出されたことは、この10数年なかったことであった。
▼
「みんなーおつかれー!今年の武闘祭はこれで終わりだよー。10傑になった仲間にもう1度大きな拍手ー!」
パチパチパチパチ
パチパチパチパチ
「10傑のみんなには深層階の新記録を期待しようね!
武闘祭は今日で終わりだよ。おつかれーわんわん!」
「わんわん!」
「‥ク、‥レク、アレク聞いてますか?」
「ん?セーラなんだっけ?」
「アレク‥タイガー先輩が呼んでますよ、ほんとにもう!」
(えっ?セーラなんか怒ってない?)
「10傑のみんなは集まってくれ」
タイガー先輩から声がかかった。
(しまった!俺またどっかに逝ってたんだな‥)
「10傑となったみんなは明日、今後についての説明会に参加してくれ。上級生棟の10傑専用ルームに9点鐘に集合だ」
「「「はい(了解)」」」
「タイガー先輩、授業は出なくていいんですか?」
セーラが聞いた。
「ああ。10傑は明日から授業を休んでも許される」
おおー。授業に出なくていいの、本当だったんだー。すげえなあ。
「じゃあアレク、明日寮まで迎えに行きますから一緒に行きましょうね」
「うん、わかった」
「いいないいな、アレクお前だけ卑怯だぞ!」
10傑に俺がなったことより、俺が授業に出なくてもよくなったことをなぜかハイルがずっと羨ましがっていた。
「「キー」」
シナモンとアリシアの2人も悔しがる様子をセーラにぶつけていた。
そんなに授業に出なくていいのが羨ましいのかな。
(正直、俺もちょっぴり嬉しいんだけどね)
ーーーーーーーーーーーーーーー
1年生のセーラと俺の2人は年長棟への出入りを許された。
もちろん10傑専用の部屋もだ。
10傑専用の部屋は、50人が1度に食事を摂ることができる寮の食堂と同じくらいの大きさだった。こざっぱりとした部屋だ。
10人全員が座れる長テーブルが部屋の中心に、その前後には5人程度が座れる円卓が2卓配されていた。
壁面の書棚には学園ダンジョン関連のたくさんの書籍もあった。
長テーブルでは、会議を進行するセーラ先輩とタイガー先輩を正面に、残る8人が4人ずつ向かいあって座るようよう、名札が置かれていた。
俺とセーラもその名札どおりに並んで座った。
「改めて、10傑のみんな、集まってくれてありがとう」
タイガー先輩が話しだした。
「今年はこの10人で臨む学園ダンジョンだ。
ダンジョンへは10人のパーティーを5人チーム2隊に分けて探索に入る。
学園ダンジョンの探索が始まって50数年。ヴィンランド学園の先輩たちがやってきた手法を今年も採用していく」
へー。そうなんだな。
「ダンジョン10傑1位が総隊長、2位が副隊長ということだけは慣例で決まっている。それを含めて今年のパーティーの方針としてみんなに納得してほしいことがある。
それは、今年のダンジョン探索は実力主義でやっていくということだ。俺たち6年生を中心に進んでいくわけじゃないことをまずは理解してほしい。もちろん6年の先輩として知り得ていることは出し惜しみせずに伝えていく。その上で、今日決まった10傑の順位を尊重して探索していきたいんだ」
ん?
どういう意味だろう。
「探索になにより求められているのはチーム、パーティーの団結力なんだ。
団結力は個々の力を最大限に発揮してこそ生まれる。
決まった順位による実力を無視して、年長組を優先するなんてことはしない。
基本はこの形でいくことを理解してほしい。
探索に入るのは、これから準備をして11月半ば。期間は最長3ヶ月間を予定。もちろん最短もあり得るがな」
「最短な!ギャハハ」
ゲージ先輩が大笑いしている。
「最短」に何か笑いのツボでもあるのかな。
実際、過去のパーティーには最短1週間という年もあったという。
「今言ったように、パーティーから5人2チーム編成だ。
階層主攻略の度に前後が入れ替わる。もちろん、撤退時は10人パーティーとなる。マリー」
タイガー先輩がマリー先輩に話の続きを促した。
「今日集まってもらったのは、これから学園ダンジョンに入る前に仲間の自己紹介と、あるお願いをすることなんだけどね‥」
マリー先輩が真剣な表情で話し出した。
「さっきのタイガーの話なんだけど‥」
ん?
なんだろう?
「新しく10傑になった仲間の3人には今の話に繋がるお願いもあるのよ。タイガー」
こう言ったマリー先輩は、再び話をタイガー先輩にふった。
「今の俺の話とマリーの話は、俺たち10傑の一昨年のパーティーの反省点でもあるんだ。それはな‥」
タイガー先輩が語りだした。
「一昨年の学園ダンジョン。当時4年生で10傑になったのは1位マリー、2位俺、5位リズ、6位ゲージと下級生が4人10傑に入った。
慣例通りなら1位2位が隊長、副隊長だ。ところがこの年、当時の6年生の先輩たちは下級生が隊長となることを良しとしなかった。それでもダンジョンだから一致団結して頑張るものなんだがな、結果はその先輩たちの俺たち下級生への猜疑心から疑心暗鬼が始まり、結果ダンジョン探索中に先輩たちの心が折れて1週間になったんだ」
えっ?なにその結末!
「その反省もあった去年は、1年先輩の意見もあり、慣例とおり実力主義を採った。
結果、この10年ほどでは最も深い深層階まで行けることができた」
へぇーそうなんだ。
「で、タイガーの話に繋がるんだけどね、みんなにはある契約魔法を了承してほしいのよ」
契約魔法?
なんだそれ?
「シャンク君、契約魔法は何を契約してもらうと思う?」
マリー先輩がこんな質問をした。
シャンク先輩はトールと同じ熊獣人だ。
身長も横幅も大きさは、ゲージ先輩と並ぶ横綱級だ。
「うーんと、僕にはわからないんですけど、探索中に領や王国に秘密にしなきゃいけない遺物がドロップするからですか?」
シャンク先輩もトールと同じで「僕」って言うんだな。
「いいえ、違うわ」
マリー先輩が首を横に振った。
「セーラさんは?」
「領や王国、もしや教会にも秘密にすべき事物がダンジョンで見つかるからですか?」
「それも違うわ」
マリー先輩が首を横に振った。
「アレク君は何を契約魔法で契約すると思う?」
「さっきのタイガー先輩の話に繋がる、実力以上の力が出るドロップ品や疑心暗鬼に繋がるような、誰もが欲しがる希少品がドロップするからですか?」
みんなが平等にならないこと、イコール猜疑心に繋がるんじゃないかな。
「それも違うわ」
マリー先輩が続ける。
「ダンジョン内では予想外のことが次から次へと起こるわ。
格闘が通じない魔獣や、魔法がまったく効かない魔獣もね。
仲間が無様に這いつくばることも普通にあるわ。人には知られたくない恥ずかしい姿を晒したり、一緒にいる仲間を呪うくらいに憎んでしまったりとね‥」
あーそれ聞いたことがあるよ、俺。
エッチなことをしたくなるサキュバスや精神攻撃をしてくる魔獣や夢の中に閉じ込める魔獣なんかだよね。
「そんな仲間には見せたくない姿を晒してしまったらどう?
とっても恥ずかしいよね。
同じように長く過ごす閉鎖空間では仲間を羨んだり、仲間の知らない悪い癖を知ったりすることもあるわ」
あっ!
俺がステファンやステファニーを見たときの赤ちゃん言葉やお腹の匂いを嗅ぐ癖だ。
あと女子寮のナタリー寮長やマリー先輩みたいな綺麗なお姉さんの匂いを嗅ぎたくなるのも人には知られたくないよな。
でも綺麗なお姉さんを?見るくらいは犯罪じゃないし‥。
「そんな人には知られたくないことのあれこれ。もし知られても、仲間が黙っていてくれたら安心じゃない?
人には知られたくない秘密や主義主張を、たとえ賛成してくれなくても、反対しても黙って心に納めてくれたらどう?
それってダンジョン内の仲間の信頼関係に繋がらないかな。
生命を預け、生命を預けられる仲間の団結に繋がるんじゃないかな。少なくとも小さなことから猜疑心は生まれないし、変なことから心が折れるようなことは防げられるわ」
なるほど。
俺の場合は、あれだよな‥。
「だからこの学園ダンジョンに入る前に契約魔法を結んでほしいの。一昨年、夏に転校してきた魔法使いのリズがね、この契約魔法を使えるのよ」
そう言ったマリー先輩がリズ先輩に目線を送った。
ふんすと胸を張るリズ先輩。
えっ!やっぱりこの人先輩だったんだ!
どう見てもスザンヌかスザンヌよりも幼く見えるよ。
人族なんだけど、リスやねずみなんかのかわいい齧歯類の小動物みたい。
どこから見ても幼女だよ、このリズ先輩。
「一昨年、転校してすぐに10傑になったリズがこの契約魔法を提案してくれたんだけど、当時の先輩からは不採用となったの。あとはさっき言った通りの結果ね。
でも去年の先輩は、この契約魔法も採用し、実力優先主義を貫いてくれたわ。結果、この10年ほどでは1番の記録になった。
なにより去年潜った仲間、ここにいるタイガー、ゲージ、リズ、オニール、ビリー、キム、私は、家族並の、いいえ家族以上の信頼関係で結ばれているわ‥。だから、ダンジョン探索前に、今年初めて10傑になったあなたたち3人にもこの契約魔法を了解してほしいの。もちろん強制じゃないわ。
契約魔法を受けてくれるかどうか、探索前には決めてね。」
こんな話でマリー先輩が締めくくった。
契約魔法か。
すごい魔法もあるんだな。
たしかにそんな魔法があれば、仲間の間に隠し事はなくなるだろうな。
うん、俺は賛成だよ。
「じゃあ自己紹介をしていくわね」
こう言ったマリー先輩から自己紹介が始まった。
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