アレク・プランタン

かえるまる

文字の大きさ
上 下
162 / 722
第2章 幼年編

163 セーラ・ヴィクトル

しおりを挟む

ラッキーナンバーを当てた俺が、準々決勝の10傑を争う相手はセーラだった。
いつもと同じ、魔法着の下には女神教シスターたちが着る修道服に魔石のはまった杖を持ったセーラが姿勢良くすっと立っている。

「セーラ」

「アレク」

「遠慮なくいくよ」

「ええもちろん」

なんかね、大切な仲間との闘いはワクワクするような、闘いたくないような、複雑な気持ちだよ。
そうは言っても全力で闘るよ、俺は。

武闘祭、セーラの武器は魔法壁のひとつだけ。
これを破れれば俺の勝ち、破れずに範囲外に出れば俺の負け。極めてシンプルな闘いになる。
いつものように、テニスコート1面ほどの対戦会場の真ん中あたりに介する2人とステファニーちゃん。

「1年1組セーラさん用意はいい?」

「はい」

「1年1組アレク君用意はいい?」

「わんわん」

「キモっ!」

(あっ!やっぱり「キモっ!」って言った!しかも速攻で‥)



お互い握手をするセーラと俺。

「じゃあいくよ、はじめ!」

開始と同時に詠唱をするセーラ。

「護り給へホーリーガード(魔法壁)!」

ブーーーーーンッ!

目にはハッキリ見えないが正面の空気が微かに歪んで見える。まるで夏のアスファルト面のようだ。そんな魔法壁がゆっくり迫ってくることは微かに動く訓練場の土でわかる。だんだんとコートを覆い出す魔法壁だ。

まずは土魔法から石礫を発現。これを投擲して試す。

カーンッ!

見えない空中ではね返される石礫。
じゃあ次は硬度を増した岩石を槍衾のように進行上の地面に発現してみる。

ガガガガガガガガッグシャッ!

姿勢を保てなくなった槍衾の岩石はグシャグシャと崩れ落ちた。

(一緒セーラが顔を顰めた気もした)

今度は魔法壁の内側にいるセーラを狙って、内から土塀を発現しようとするが、発現しない。

「エアカッター(風刃)」

ガガガガガッ!

エアカッター(風刃)もだめだ。
うーんどうしよう?

この魔法壁ってどこまで高く広がっているんだろう?
ひょっとして魔法壁を乗り越えられるのかな?
試すか。

ゴゴゴゴーー!

5階建くらいの高さまで発現した土塀に乗ってその上から再度魔法壁を抜けようかと叩いてみる。

コンコン、ガンガン!

叩いても蹴ってもびくともしない。

うーん。
どうしよう?

何気にセーラを見ると、薄らと汗をかいているのが見えた。




あっ、そうか!

魔法壁。これもやっぱり魔力の発現力だもんな。
だったら真っ向からの魔力勝負でいくか。
土塀を元に戻してコートに立つ俺。

「金剛!」

両脚にしっかりと力を入れて、相撲の鉄砲のように、見えない鉄砲柱(魔法壁)に向けて張り手を繰り返す。

バンバンバンッ!

張り手には魔力も風魔法も纏わせて前へ前へ
見えない魔法壁に両手を添えて、張り手を繰り出す。

バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!

全力で押す。押す。押し続ける。
捻りも何もなく、ただ愚直に押し続ける。
背にはシルフィの風、足元には土の精霊ノームの力を借りて。

バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!

とにかくただひたすら、一生懸命に張り手を続けるが‥‥それでもジリジリと後退していく。

透明な壁の向こうでもセーラが一心不乱に杖を両手に祈るように魔力を発現している。

何くそ!

だんだん後退していく俺。気持ちだけは負けないぞ!

「どっせーい」

バンバンバンッ!

「どっせーい」

バンバンバンッ!

思わずレベッカ寮長のようにかけ声が出る。

滝のように汗が出るがセーラのこめかみあたりからも滴る汗がはっきりと見えるし、眉間の皺も刻まれているのも判る。

セーラも必死。

俺も必死。

まだまだ。
ホーク師匠に初めて教わったとき、師匠が言った。
人の魔力には限りがあると。だから魔力を高めろ、日々魔石に魔力を込め続けろと。それでも魔力が尽きるときがある。だから精霊の力を借りるんだと。

「どっせーい」

バンバンバンッ!

「どっせーい」

バンバンバンッ!

「どっせーい」

バンバンバンッ!

‥‥‥止まった。

パリーンッ!

同時に、何も見えない空気中でガラスが割れるような音がした。

ガクンっ!

それと同時に膝をつくセーラがいた。
慌ててセーラの下に行く俺。

「はぁはぁはぁ、私の負けです‥‥」

「おつかれセーラ」

セーラの手を取り、起き上がるのを手伝った。


魔法壁の強さは聖魔法を発現するセーラの、圧倒的な強さの体現だ。

「セーラ、必ず10傑に入れよ。待ってるぞ」

「はいアレク。待っててくださいね」

汗びっしょりにニコッと笑うセーラ。
その姿に俺はなぜか心が動かされた。



最終予選、ラッキーカード(ラッキーナンバー)からの主人公らしからぬ?勝ちを経て。
俺はついに10傑へと辿り着いた。






武闘祭を見守る学園長サミュエルと副学長が話す。

「サミュエル学園長、ヴィンサンダー領のアレク君、やりますなあ。1年生の10傑はマリーさん以来5年ぶりですかな」

「ですな副学園長。聖魔法士のセーラさんもおそらくは」

「10傑となるべく武闘祭の規約は作られておりますからなぁ」

「アレク君の10傑はまさに実力ですな」
「サミュエル学園長が時おり言われるイノナカノ何とかですな」

「ははは。ですな、ですな」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

ダンジョン世界で俺は無双出来ない。いや、無双しない

鐘成
ファンタジー
世界中にランダムで出現するダンジョン 都心のど真ん中で発生したり空き家が変質してダンジョン化したりする。 今までにない鉱石や金属が存在していて、1番低いランクのダンジョンでさえ平均的なサラリーマンの給料以上 レベルを上げればより危険なダンジョンに挑める。 危険な高ランクダンジョンに挑めばそれ相応の見返りが約束されている。 そんな中両親がいない荒鐘真(あらかねしん)は自身初のレベルあげをする事を決意する。 妹の大学まで通えるお金、妹の夢の為に命懸けでダンジョンに挑むが……

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

処理中です...