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第2章 幼年編
155 理由
しおりを挟む夏休み明け。
武闘祭前の1か月はいつもの修練にレベッカ寮長(師匠)からの体術指導を受けたりして過ごした。
武闘祭の前。
いつものジョギング中にマリー先輩に会った。会ったというか、マリー先輩が俺を待っていたようだ。(‥と思いたいんだよ‥)
「アレク君、いよいよ武闘祭だね。調子はどう?」
「はい、俺はいつもと変わりません。精一杯闘って、またマリー先輩と闘りたいです!」
「フフフ。私もよ」
「武闘祭でも精霊魔法はシルフィちゃんの風と土だけでいくの?」
「はい、あとは使いません」
「アレクにはアタシの風だけで充分よ!」
ふんすと胸を張ってシルフィが応えた。
「まぁたしかにそうかもねー」
マリー先輩に憑く風の精霊シンディもそう応じる。
シンディはシルフィと似た雰囲気の風の精霊だ。
「フフフ。精霊魔法を使えることを周りに言ってないのには何か理由があるんだろうけど‥なぜかな?
ええ、今は聞かないわ。だけど、いつか私にも教えてよね」
ウインクをしてマリー先輩が言った。
「あはは‥はいマリー先輩」
(あー美人のウインクはすごい威力だよ!)
「あとね‥」
マリー先輩から改めて聞いたのは、ホーク師匠はマリー先輩のお母さんの双子の弟さん(これは以前にも聞いた)ということと、その双子のお兄さんがヴィンランド学園の在学時に学園ダンジョンで消息を絶ったということだ。学園ダンジョンのトラップを踏んだ仲間を助けてそのまま転移し、今も行方がわからない人がいることは幾度か聞いたが、その人がホーク師匠のお兄さんなんだという。春休み中、ホーク師匠が俺に言った話とまさに一致をする。
「でもねアレク君、叔父さん、ああデューク叔父さんって言うんだけどね、デューク叔父さんの10傑、その年のチームは学園史上でも類を見ない強さのチームだったの。だから今もそのトラップが発動した階層にまでたどり着けていないわ。もちろん私が学園10傑になったこの5年間も、ぜんぜん届かなかったし‥」
ひと息いれたマリー先輩が再び語り始めた。
「今年は私がダンジョンにチャレンジできる最後の歳なの。精霊魔法を使えるのがアレク君と私の2人、これもこの6年で初めてだし、聖魔法を使える子もセーラさんともう1人、2人揃ったのも初めてなの。だから今年こそはって思ってるのよ。
アレク君‥‥勝手なんだけど必ず10傑まで上がってきてね」
「はい」
「アレクなら当然よ。立ち塞がる奴なんてギッタンギタンなんだから!」
シルフィが再びふんすと胸を張った。
「ギッタンギタン‥」
俺と目が合った精霊のシンディは、なんとも言えない顔をしてシルフィを見ていた‥。
マリー先輩からは過去のダンジョンの話を興味深く聞いた。
マリー先輩曰く、毎年どころか毎回ルートも魔獣も変わるらしい。
そんな話を聞いたら、やっぱりすぐにでも潜りたくなるよ。
もうひとつ疑問に思っていることがあってね。
マリー先輩って歳幾つなんだろう?
師匠のお兄さんがダンジョンで行方不明になったのって何年前なんだろう?
エルフは長寿だとは聞くけど、うーんわかんないなあ。
マリー先輩に聞いたら嫌われそうだしなあ。
それとマリー先輩は歳下が嫌いかなあ。
やっぱり来年の春に師匠に聞こう。
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