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第2章 幼年編
146 村の花火大会(前)
しおりを挟むついに迎えた花火大会当日。
「アレク‥」
「父さん‥」
2人してあんぐりと外の光景を見ていた。
夜間は閉じているデニーホッパー村の東西の門にもズラりと並ぶ人人人の行列が見えたからだ。
まだ朝だよ?
花火は夜なんだよ?
村民は増えたとはいえ、まだ150戸もないんだよ?
村民もまだ500人もいないはずだよ?
なのに、何この人?
予想はしていたが、その予想よりはるかに上回る人がデニーホッパー村を訪れようとしていた。
▼
「アレク君久しぶりだね。今日は呼んでくれてありがとう!」
「宿泊まで世話になって」
ポンコーさんたちのんのん村の人たちの笑顔がうれしい。
「お風呂もサイコーだったわよぉ」
シスターサリーのとろんとした笑顔も最高だよ!
なぜかシャーリーとアンナがジト目で俺を睨んでいたけど。
昨日到着したのんのん村の人たちには新しく出来た宿泊施設に泊まってもらった。
温泉はのんのん村の人たちにも大好評だ。
隣のニールセン村の人たちにも花火大会の後に泊まってもらう予定だ。
のんのん村の人もニールセン村の人も、盗賊団に襲われたこの村を物的にも人的にも、援助を差し伸べてくれた。
俺も村の人も受けたこの恩は忘れないよ。
父さんたち自警団も母さんたち婦人会はもちろん、俺たち子ども会も今日は大忙しになる。
でも花火だけはみんなで楽しむけどね。
花火大会。
今日は年に1度の鎮魂の日として新たに村で決めた日だ。
既に亡くなって女神様の元へと旅立った家族の鎮魂、安寧を祈る日だ。
教会も多くの人でごったがえしていた。
朝から祭祀が何度も何度も続いていた。師匠も今日ばかりは本職のディル神父様だ。
ディル神父様、シスターナターシャ、ニールセン村のマモル神父様、のんのん村のシスターサリーが加わった祭祀は、いつも以上に厳かで心打たれる祭祀だった。
合間に俺も今は亡き父上、母上の安寧を祈った。
教会裏手を流れる用水路。
手のひらハガキサイズの葉っぱを流す人々がいる。
想いを託すように祈っている人も多々。
流れに乗ってゆっくりと流れ去る葉っぱは、村の先にある林にたくさん生えている肉厚な葉っぱだ。この葉っぱは筆圧だけで簡単な言葉が書ける。
亡くなった人の名前と短い言葉を書いて流すと女神様の元にいる家族に届くだろう、という手紙の葉っぱだ。
これは学園の図書館で見つけた古い祭祀を真似たもの。
(もちろんシスターナターシャに事前の相談はしたよ)
教会の祭祀に参加してもメインの花火まで村には居られない人もいるだろうと発案したんだけど、予想以上に好評みたいだ。
俺も略称の父上、母上の名前を書いた葉っぱを流した。
俺は元気だよと。
噴水のある公園と教会を中心に、東西南北に一直線に伸びる道路沿いにはサンデー商会やミカサ商会をはじめとした王国内の商会の幾つもの屋台が並ぶ。もちろん婦人会の屋台や子ども会の屋台も並んでいるよ。
どの屋台も大賑わいだ。
でも、何せ花火は夜だからね。早く来てもねぇ。
食べて飲んで風呂に入って、そのくらいしかやることがないんだもん。
でも娯楽がほとんどないこの世界では、これだけでも喜ばれているみたいなんだよね。
噴水前のステージでは、吟遊詩人さんが何人も来ていたよ。
婦人会や子ども会主催の屋台グルメでは毎度おなじみのチューラットやアルマジローの串焼き(ツクネ)、魔獣デビルフッターのデビル焼き(たこ焼き)、ポテトチップス、芋餅、シリアルバーが相変わらず大人気だった。
「「「アレクの兄貴お久しぶりっス!」」」
たこ焼き屋台を切り盛りしていたのは妹スザンヌの同級生の悪ガキたちだった。
(その兄貴はやめなさい、本当の◯◯屋のお兄さんみたいだから)
ぶぅーっ
ギャハハ
あははは
「「狂犬アレク伝説復活ねー」」
ほら、またこいつらが腹抱えて笑うんだから‥。
サンデー商会から仕入れてもらった漁村のキーサッキー(剣先イカ)一夜干を炙ったマヨネーズがけも大好評だった。
何せ1尾の頭だけでもグローブサイズだから1尾で軽く10人分くらいは取れるからね。
「アレク君、メンチもすごいわよ!」
ジャンのお母さんやアールのお母さん、婦人会のおばさんたちが屋台で揚げまくっていたのはキーサッキー(剣先イカ)のイカメンチだ。
油で揚げたイカメンチは俺が食べてもおいしい、あの味に近かった。
そんな婦人会の屋台にもイカメンチを求める長い行列ができていた。
王国全体では食用油はまだまだ高級品のため、揚げ物料理はまったくと言っていいほど存在しない。だけどわがデニーホッパー村で食用油はそれほど高級品では無くなりつつあるのだ。
木の実の植物油脂に魔獣やブッヒーの動物油脂と食用油は家庭でもひろがりつつあるのだ。
心配していた変な輩やも現れなかったし、酔って暴れる人もいなかった。
うん、いい感じで進行しているよ。
陽も陰ってきた。
花火の時間が近づいていた。
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