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第2章 幼年編
144 夏の新行事
しおりを挟む翌朝。
村の中央噴水前で待ち合わせをして、久々に皆んなで会った。
俺が帰ってきたとジャンとアンナがみんなにも伝えてくれていたみたいだ。
でもね、待ち合わせが噴水前だよ。
すごくない?
しかも、村が町みたいにきれいになってきてるよ!
ジャン、アンナ、ベン、アール、ジョエル、他前期幼年学校(教会学校)に通った仲間たちみんなが揃った。
「村はどんな感じ?」
みんなが同じ仲間目線で、村がどうなっているのかを話してくれる。
カウカウやブッヒーは少しずつだが順調に頭数も増えていると聞いた。アンナはコッケーの卵が食べ放題なんだと言っていた。
ん?
卵はサンデー商会経由でアレク工房がメインで仕入れている。マヨネーズの主原料だからね。
家畜の糞は順調に畠の肥料になっているらしい。
まったく臭いもしないのは、ベンの風魔法のおかげだろう。
他にも、アールとジョエルは暇さえあれば今も土魔法で村の周りの土塀を補強しているという。
デニーホッパー村がどんどん良くなっているのを聞くのはとてもうれしい。
「アレク、久しぶり!」
シャーリーにも久しぶりに会った。
「シャーリーはどう?」
「うん、問題ないわ」
サウザニアの領都学校で座学では同学年の首席、魔法の発現でも水魔法では同学年はおろかすでに学内屈指になっているんだと、自慢するでもなく淡々と語っていた。
うん、さすがシャーリーだよ。
「アレクは?」
「あのね、領都学園には6年生にマリー先輩っていうエルフの先輩がいるんだ。それがすごい美人の先輩なんだよ。マリー先輩はね‥」
「・・・」
いつのまにか俺はマリー先輩讃美論を熱く語っていたようだ。
「アンナ‥」
「シャーリー‥」
「「やっぱり共闘よ」」
「「わかったわ」」
アンナとシャーリーが共闘を約束したらしい。
「領都学校にも保健の先生がエルフだったんだけど、あんなふうにニヤけてたのよ」
「だってときどきシルカさんにもあんな顔してるじゃん。アレクは絶対年上が好きなんだよ!」
アンナの指摘にシャーリーは食堂での出来事を思い出していた。
ああ、冒険者マジカルラブの3人も年上だったなと。
「ヴィンランドは遠いから、今度は冬休みにちゃんと聞かなきゃね!」
「うん」
アンナとシャーリーがそんな話をしているとは知らず、俺はジャンにマリー先輩の偉大さを訥々と語っていた。
「俺、知らねーよ。だいたいエルフなんて会ったことないし」
と言いつつ、ジャンは以前バザーのときに村に来た狼獣人のウルが来ていないことに内心ホッとしていた。
(アレク、俺はお前だったらいいんだよ‥)
盗賊団の襲撃により焼けた村は、整備され一新した。村内には水路も流れる。
何も無い田舎と揶揄されたデニーホッパー村が今ではちょっとした町の雰囲気も漂わせている。
「みんなひとつ相談があるんだけど‥‥」
「きたね、アレク」
ベンが言った。
「「おお、待ってました!」」
アールとジョエルも言った。
「アレクがみんなを集めて『懐かしいね』だけで終わるわけないわ」
シャーリーも言った。
「まああれだ、アレクが突拍子もないことをやるのは昔からで、俺たちみんなは被害者だからな」
ジャンがへんなまとめに入った。
ワハハハ
ギャハハ
ホントー
(うーん、なんか釈然としないけど‥)
「ヴィンランドでやってることをこの村風にして、やってみたいんだけど‥‥」
おれは夏の花火を提案した。
夜に花火を上げて、村の人それぞれが亡くなった人を偲ぶ機会にしたいと。
花火は花火玉を作って上げれば、火魔法が発現できなくても大丈夫なんだけど時間もないこの夏は、サンデー商会で手配を頼むことも提案した。
そして花火を観にくる人を歓迎して、デニーホッパー村のバザーとならぶ風物詩にしたいと。
「「「賛成!!!」」」
楽しみだねー
ホントだねー
「にくにく、ニクニク♪」
アンナはずっと機嫌よく訳の分からない歌を歌っていた。
みんなの賛同も得られた。
村長のチャンおじさんにも話をして快諾を得た。
夏の花火を村の年中行事にしようと。
まずは第1回。
計画を立てて、やってみるだけだ。(といっても計画を立てていろいろやってくれるのは毎度シャーリー無しではできないけど‥)
みんなと別れたあと、サンデー商会に行った。
「シルカさん、おっすー」
「あっ、アレク君!久しぶりっスー」
俺の顔を見るなりぎゅっと抱きしめてくれたシルカさん。
(うわー懐かしいシルカさんの匂いだよ!めっちゃいい匂いだよー!たまらんなぁ)
久しぶりのシルカさんは天真爛漫で可愛いくて綺麗な山猫獣人さんのままだった。
「お店どう?」
「アレク袋もマヨネーズも絶好調っス。居酒屋も宿屋も好調っスよー」
これまでは素通りだった開拓村デニーホッパー村が西方面から領都サウザニアへの中継地点にもなったらしく、商人や冒険者の宿泊者も少しずつ増えているらしい。
「シルカさん、これサウザニアのお土産。居酒屋の新商品にもなるのかな。たぶんもうすぐミカサ商会からも届くよ」
俺は海の魔獣キーサッキー(剣先イカ)の一夜干しを手渡した。
「お土産ありがとうっス」
くんかくんか。
シルカさんが包みを嗅いだ。
「魚っスね!」
(さすが猫だ!)
「うん、干物。切ってマヨネーズをつけるとうまいよ」
「これはうれしいっスよー。さっそく夜に焼いて食べるっス!」
「でね、シルカさん‥」
こないだの海合宿から思っていた花火大会の構想を話した。
教会も、仲間たちにも話をしてあること。村長のチャンおじさんにも話したこと。
この夏の終わりにやりたいこと等。
「アレク君、バザーもすごいことになってるんっスよ。その花火大会?しっかり計画しないとたいへんなことになるっスよー!」
「うん、たぶんね。だからシルカさんもお願いね」
「お店関係は任せるっスって言いたいけど、私だけでは絶対無理だからサンデーちゃんにもミカサ商会さんにも助けてもらわなきゃいけないっス‥‥」
「うん、今回はバザーみたいに子どもたちだけじゃ絶対無理だからね。屋台のメインは最初から大人にお願いしてたいんだ」
「わかったっスよ」
シルカさんもいろいろ考え始めていた。
花火大会に向けてさっそく動き出した。
村長のチャンおじさん話し、父さんやニャンタおじさんにも話した。
村全体で夏の花火をやる方向が決まった。
納涼花火大会?
お盆はないけどお彼岸の行事?
村の新しい名物イベントが生まれようとしている。
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