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第2章 幼年編
133 ミューレ
しおりを挟むヴィンランドに来てから遅くなってしまったが、ヴァルカンさんの妹さんの工房に行った。
領都ヴィンランドの工房街の中ほどにその工房はあった。
剣と盾のマークの周りを花が飾るマーク。
マーク(ロゴ)からしてぜんぜん違う。
ヴァルカン工房のそれは質実剛健というか、無駄を省いたヴァルカンさんらしいマークだ。それとは一線を画す妹さんのヴァルカン工房。
お店外観もこざっぱりとして綺麗だ。
中もうん、ぜんぜん綺麗だよ。
「すいませーん。ヴァルカンさんいますかー?俺ヴィンサンダー領から来ましたアレクって言いまーす」
「はーい、ちょっと待っててねー」
ヴィンサンダー領のヴァルカン工房は薄暗い雰囲気だったが、ここはなんとも明るく開放感のある工房だった。
陽の光を浴びて(日光浴?)寝ているサラマンダーもいた。
「ん?ヒューマンで俺が分かるのかい?珍しいな。ギャッギヤッ」
「あはは‥」
サラマンダーもまたよく喋る朗らかなトカゲだった。
「待たせたね」
ヴァルカンさんの妹さんは見た目こそドワーフ然とした「樽型」だったが、お兄さんのヴァルカンさんにはない底抜けの明るさがあった。
「こんにちは。俺アレクと言います。ヴィンサンダー領から来て、ヴィヨルド領都学園に入りました。サウザニアではヴァルカンさんにお世話になってました。」
「まあ丁寧にありがとうね。妹のヴァルミューレよ。ミューレと呼んでちょうだい。あの筆不精な兄から手紙が来たわと思ったらアレク君のことが書いてあったわ。しかもね、『アレクという子が来るから面倒みてやれ』ってたったこれだけよ。兄らしいでしょ」
フフフ
あはは
あー本当にヴァルカンさんらしいや。
「これどうぞ」
途中で買ったお酒をミューレさんに手渡す。
「まっ、生命の水ね!アレク君ありがとう」
ミューレさんの顔がパーッと明るくなった。
ヴァルカン同様に、妹のミューレさんも酒好きのドワーフだった。
でもヴァルカンより人当たりがいいぞ。
「ミューレさん、お店、明るくてとってもきれいですね」
「これが普通よ。だってお客さまも汚いよりきれいなほうが居心地も良いでしょ」
ニッコリと微笑むミューレさん。
「ああアレク君、お兄ちゃんのとこは別ね。あそこはブッヒー小屋と変わらないわ」
ぶー!ゴホッゴホッ
思わず頂いたお茶を吹きこぼす俺。
「でも本当にびっくりしました。だってサラマンダーでさえ明るいのには驚きです」
「いやアレク、俺たちだって本当はきれい好きなんだぞ」
そう言ってギャッギヤッと笑うサラマンダー。
「アレク君はサラマンダーが見えるのね」
「はい」
「あら、そういえば肩にはシルフも憑いてるわね」
ニコッと笑ったシルフィがミューレさんに話しかける。
「そうよ。アレクはワタシがいないとぜんぜんダメなんだもん」
「そうなの」
フフフ
「本当にアレク君は珍しいわ。お兄ちゃんがヒューマンの子を弟子同様に可愛がるのも初めてだし」
「ヨシ、アレク君外へ行きましょ。お勧めのご飯屋さんがあるのよ」
この後、店を閉じたミューレさんにご飯屋さんに連れて行ってもらった。
おいしい地元の料理をご馳走になった。
(もちろん寮に帰ってから夜ご飯も食べた)
「ミューレさん、ごちそうさまでした」
「アレク君、いつでも遊びにきなさいね」
「はい!」
こうして俺は暇な日にはミューレさんの工房に遊び(手伝い)に行くようになった。
奥の工房はヴァルカン工房と同じく、あの懐かしい炎の現場だった。
炎に向き合うときのミューレさんは、一転してやっぱり兄のヴァルカンさんと同じ無口になった。
俺もひたすら、ただ集中してミューレさんを手伝った。
うん、鍛治仕事は楽しいなぁ。
やっぱり俺は、ひたむきに向き合う鍛治仕事が性に合うようだ。
こうして俺はヴァルカン同様にミューレさんにも世話になった。
後々わかるのだが、ミューレさんも名腕の職人だった。女性ながらにヴィヨルド領刀鍛冶の至宝との2つ名を持つミューレ(ヴァルミューレ)さん。
ダンジョンでの刀以外の俺の装備はもちろんのこと、6年のダンジョン攻略ではミューレさんに作ってもらった武器装具を全員が装備して臨むことになる。
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