アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

132 デイキャンプ?

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集合時間である6点鐘前に正門前に到着した。
もちろん俺が1番乗りだ。

「「アレクおはよー」」

腰に小袋を下げたハンスとトールがきた。

「ダーリンおはよー」

手ぶらのシナモンがきた。

「「アレクおはよー」」

腰に刀を佩いただけのモーリスとセバスがきた。

「「アレクおはよー」」

杖だけを持ったアリシアとキャロルがきた。
さらに杖だけを持ったセーラがきた。
棍だけを持ったセロがきた。
えーみんな武器以外本当に手ぶらじゃん!

刀を腰に佩き、肩から弓を提げ、山ほどの荷物を背嚢に背負った俺は何なの?

「「「「アレクはどこへ行く?」」」」

「‥背嚢はぼくが持つね」

トールがこう言ってくれた。

「トールありがとう!」

おおートールが荷物運び(ポーター)だよ!
似合うぜ。





初級者ダンジョンの入り口で名前を書いて入山した。

わいわい
わははは
わいわい
あははは

みんなでぞろぞろと、和気あいあいとダンジョンを進む。
シナモンに至っては俺の腕を組んだまま歩いている。

「ちがーう!!」

思わず俺は叫んでしまった。

「えっ!?ダーリンどうしたの」

「いやだってダンジョンなんだよ?どこからどんな魔物が出てくるか分かんないんだよ?それをハンスとトールとシナモンはステファンたちがどんなにかわいいかの話で盛り上がってるし、セーラとセロはなんか難しい女神様の話をしながら歩いてるし、モーリスたちは領都がどうとかの話てるし、アリシアとキャロルはどこのお店のお菓子がおいしいって‥‥ちがーう!!ダンジョンの魔獣は油断したら出てくるんだよ?危ないんだよ?」

「ダーリン、だってここ初級者ダンジョンだよ。本当の初心者や闘いが苦手なセーラだって勝てるんだよ?」

そう言いながら、向かってくる一角うさぎを余所見しながら足蹴にするシナモン。

「えい えい」

歩くより遅い早さで向かってくるアルマジローの群れをセーラが杖で叩いている。
無双かよ‥。

あゝ‥男のロマンが崩れていく‥

「でもさ、でもさ、やっぱりさ、先にシナモンが斥候に出て、前衛に、ハンスやセバス。真ん中にモーリスやセロ。セーラを守って遠距離の魔法にアリシアとキャロル。トールや俺がポーターで後衛をセロ。これが正しい攻略じゃないの?‥」

「えい えい」

「やー どーだー」

セーラに加えてアリシアやキャロルまで杖でアルマジローやチューラットをポコポコと無双している。モグラ叩きかよ!

「‥アレク、お前変なとこにこだわりがあるんだな‥」

モーリスが慈愛に満ちた目で優しく俺の肩に手を置いた。
あーくそっ!あの大人がよくやる目つきだよ!



わいわい
わははは
わいわい
あははは

向かってくる魔獣を適当に無双しつつ、楽しくダンジョンを進む。
なぜかダンジョン内では、ふだん逃げるチューラットやアルマジローで向かってくる。
それも相変わらずかなりの遅さで。

「もうすぐホールにつくぞ。そこで休憩な」

「ダーリンお腹空いた!」

「「「私もです!(俺も!)」」」

腹を空かせた小鳥たちが煩い。

「着いたよ」

ホールと呼ばれるそこは、学校の体育館くらいある広々としたスペースの休息エリアだ。ここは魔獣も現れない安全地帯だという。
飲用可能な湧水もあり男女別のトイレまであった。なぜかわからないけど。

先に到着していた何組かはキャンプファイヤーよろしく薪を燃やしてご飯を食べながら歓談している。
デイキャンプかよ‥。

「「お母さんお腹すいたー!!」」

アリシアとキャロルが腹が減ったと叫ぶ。

「誰がお母さんやねん!」

そう言いながらも、ダンジョン失意だった俺の気持ちもあっという間に晴れていた。

「じゃあみんなまずは座っててくれ」

ズドーンッ!
ドンッ ドンッ ドンッ

瞬時に全員が座れる椅子と長テーブルを出現させる俺。

「「「おぉー!すげぇー」」」

のんのん村や家で何度もパーティーをやってるから慣れたものだよ。まるで木製のような精度の高いテーブルに椅子を出現させる俺。
今度は食材の調理だ。

「アレク、お前猟師並に上手くないか!」

セロが感嘆の声を上げる。

「えー!本当に父ちゃんより上手いよ!」

トールも驚いている。

「村は田舎だったから解体も慣れてるんだよ」

「「へー」」

途中、捕まえて血抜きだけしたチューラットをパパッと解体していく。
この世界の人は魔獣の解体という、ある種スプラッターなものに対する抵抗感はまるでない。回転寿司で見たマグロの解体ショーと変わらないくらいだ。
だから女子もふつうに解体を眺めている。

でもここ、湧水があるのはいいなぁ(俺水魔法は使えないことになってるし)

解体したチューラットの肉を土魔法で作った大皿にのっける。

「セーラとシナモンはこの肉を中に入れてミンチにしといて」

「「はーい」」

持ってきた鉄の塊から瞬時に発現させたミートチョッパーで荒めのミンチにしてもらう。

ズドーン ズドーン

竈門と大鍋も出現させた。

「アリシアはこの竈門に火をくべといて。トールは大鍋に水を汲んでアリシアと湯を沸かしといて」

「「はーい」」

同時進行で竈門と大鍋を作る。

ガチャ ガチャ

人数分のお皿とカトラリー(ナイフとフォーク)も出現させる。

「セバスとセロはみんなのお皿を並べて」

「了解!」

「ハンスとキャロルはこのスライム袋に粉芋を入れて湯が沸いたら、マッシュポテトを作って」

「ああアレク袋な」

いつしかみんなにもアレク袋やら粉芋が俺製だということも知られていた。

「よし。モーリスは俺の真似をしてこのミンチを整形してくれるか」

「はいよー」

ミートチョッパーで荒めに作られたミンチ肉に俺特製のアレク塩を入れて練っていく。

パンパンパン

最後は両手のひらで空気を抜きながら楕円形に形を作り、表面を焼いてから竈門の中でじっくりとグリルする。
竈門の側面には小麦粉から作ったナンも貼りつけて焼いているよ。
道中、発酵されててモチモチのナンだ。


同時進行。みんなの共同作業だからあれよあれよという間にご飯ができていく。
大鍋の中の茹で芋もいい感じで火が通っているな。

みんなのお皿にはハンバーグ(誰もがツクネとよぶようになっていた)、マッシュポテト、茹で芋、ナンが並ぶ。

「「「腹減った!、腹減った!、腹減った!」」」

みんなが大合唱している。
ホール中に肉の焼ける芳しい匂いが漂っている。

「お待たせー。今日のご飯はデニーホッパー村名物のチューラットのハンバーグ、粉芋のマッシュポテト、茹で芋、ヴィヨルド産の小麦粉から作ったナンだよ。ナンは手でちぎってそのまま食べても、ハンバーグやマッシュポテトを挟んで食べてもおいしいからね。あと、みんなに1本ずつあるのが今度売り出す新製品のマヨネーズ。まずは茹で芋にかけて食べてみて。あと、ナンに挟んだハンバーグと一緒にかけてもいいかも。もし邪魔じゃなかったらお土産に持って帰ってくれ」

「「「はーいお母さん」」」

「誰がお母さんやねん!」

わはは
ワハハ
あはは

ホール中に広がる肉の焼ける芳しい匂いに気もそぞろなのはシナモンだけじゃない。

「「「いただきまーす」」」


「ツクネ、うまーい!」

アツアツのハンバーグを食べて絶叫しているシナモン。

「うちの町で食べたのよりおいしい!」

「ホントだ!」

アリシアとキャロルも頬張りながらうんうんうなづいている。

「デニーホッパー村の芋はうまいな」

セロが噛み締めるようにしみじみと言う。

「アレク、マヨネーズ?これすごい!」

「ああ、めっちゃ美味い」

セーラやモーリスがマヨラーになった瞬間だった。

「ナン?モチモチで美味いな」

「ああ」

ハンスやセバスがうなづき合う。
ナンはこの1年ほど村にいる時から試行錯誤しながらよく作っていた。土魔法で竈門が作れれば、粉さえあればどこでても食べられるからね。
いつかカレーを見つけたときのためにもナンは白ご飯と並ぶ選択肢だから。


その後、というか最初から最後まで何事もなく終わった初級者ダンジョン。ひょっとして何かイベントが発生するかとも期待をしていたんだが、、。
まさにまったく、期待を裏切るくらいフツーの初級者ダンジョンだった。

「「「ごちそうさまー」」」

「お粗末さまです」

「また明日ー」

「楽しかったよー」

「ばいばーい」

「ばいばーい」

何もイベントは発生しなかったけど、チューラットやアルマジロー、一角うさぎなどの弱い魔獣の魔石はいっぱい手に入った。
そしてそのまま冒険者ギルドに納品した。

この日、俺は鉄級冒険者になった。
学園の1年生で鉄級冒険者になる者は実は滅多にいない快挙だと後にきいた。
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