126 / 722
第2章 幼年編
127 女装
しおりを挟む学園生活も2週間ほどが過ぎた。
だんだんとここでの暮らしにも慣れてきた。
午後から冒険者ギルドに向かったこの日。
どこかの他領から凱旋する領都騎士団をたまたま見かけた。
キャー
ヘンリーさまー
かっこいい
ステキー
領都騎士団への声援の過半数は、騎士団若手のホープ、ヘンリー・ヴィヨルドへのもの。
あーあれが天才と評判のモーリスの兄だな。悔しいけどたしかに‥イケメンだわ。(モーリスもだけど)
騎乗のまま、声のする方に向き手を振って。
モーリスよりさらに天才でイケメンで人気者の長男。
以前、「チッ」と不満を漏らした次男モーリスの面白くないであろう気持ちもわからなくもないよな。
そんな日の夕方、たまたま時間もあったのでいつものランニングも寮を出て領都内を走った。
門限までにまだ時間はあるが、すっかり宵闇迫る貴族街を走っていると、やけに足運びがたしかな女性が歩いているのを目にした。
あ~この人歩き方はぜったい剣士だよな。ロングドレス越しに判るよ。
ん?てかかなり肩幅広くない?
なんとなく物陰からそっと見たら・・・
「まさかモーリスか?」
それはバッチリ化粧もした女装のモーリスだった‥。
「あらアレク君お帰りなさい」
寮に帰ったらたまたまレベッカ寮長と鉢合わせた。
今日の寮長は普通に背中が大きく開いたドレスだった‥。
「り、寮長、き、き、今日はまたすごいドレスですね‥」
「でしょー。セクスィーでしょー」
「あははは‥はい‥」
翌朝
「ハンスちょっといいか?」
「ん?どうしたアレク?」
「昨日の夜な‥」
かくかくしかじかと女装のモーリスを見たことをハンスに伝える俺。
「あーついにアレクも見たか」
ハンスが頭を掻いて応えた。
(あれやっぱりモーリスだったんだ)
「その‥モーリスもレベッカ寮長と同じで心は乙女なのか?」
「いや違うと思う」
「あれはたぶん、モーリスなりのストレス解消法なんだと思う」
「そっか。俺、モーリスの気持ちもなんとなくわかるんだよな‥」
誰しも人知れず悩みやストレスを抱えている。天才の兄を持った領主の弟は、その注目度も予想以上に高いんだろうな。
「だからなアレク、見なかったことにしてやってくれ」
「ああ、もちろんだよ。たとえアイツに気づかれたとしても俺はアイツを馬鹿にしたりはしないよ」
「ああ」
そう、普段のイケメンもモーリス、女装姿のモーリスもモーリスなんだ。
▼
寮に俺宛の手紙が届いていた。
ヴィヨルド領の商業ギルドからだ。
(ヴィヨルドへ出立前、ギルドのピーナさんにお願いしておいたのは、俺への連絡手段には、男子寮への手紙でと言付けしておいたのだ)
「近々お越しください」
との文言だ。
これは明日にでも商業ギルドへ向かうかな。
▼
ヴィヨルド領の商業ギルドは領都ヴィンランドの商業街の目ぬき通りにある。石造3階建の建屋だ。領都サウザニアとほぼ同じに思える建屋は、ひょっとしたら商業ギルド全体のの統一規格の建屋かもしれないと思った。
うん、歴史ある銀行みたいだ。
そんな建屋に入る俺。
やっぱり雰囲気もカチッとした銀行みたいだよ。
受付嬢もサウザニアと同じ制服のクールビューティ。
「こんにちは。サウザニアギルドのピーナさんから紹介してもらってるはずの俺、アレクと言いますけど。お手紙を頂きまして」
届いた手紙を合わせて見せる俺。
「あっ!貴方がアレク様ですね。おまちしておりましたよ」
「失礼ですが、決まりですのでご本人様の確認は宜しいですか?」
こう言ったクールビューティなお姉さんが、魔水晶を示した。
「はい」
俺は魔水晶に手をかざす。水晶玉の本人チェックは商業ギルドも冒険者ギルドも同じだ。
なぜか不思議と手をかざしたら、本人かどうかの判定ができる。
「はい、失礼致しました。アレク様、あらためてヴィンランドギルドへようこそ」
「はい。あのー綺麗なお姉さん、すいません俺、ただの農民のガキですからもっと砕けて話してくれると嬉しいです」
(まっ!綺麗なお姉さんだって!)
聴こえてしまうくらいのひとりごとを言ったお姉さんが、今度はフレンドリーな笑顔を見せてくれた。
「ようこそ、アレク君。いつ来てくれるのかって待ってたのよ」
と、そのまま応接室に通された。
(えー、俺ただの学生だよ。それとも何か悪いことやった?)
たいして待つことなく、恰幅の良いのおじさんがやってきた。そしてそのまま食い気味に握手をしてきた。
「いやあアレク君、アレク君。待ってたよー。私がヴィンランドギルト長のカミール・ミョクマルだ。さっそくだがね、君が考案したミートチョッパー、アレク袋、粉芋のどれもがヴィヨルドでも当たりまくっててね。ギルドでももう忙しくて嬉しい悲鳴なんだよ。
しかも来月からいよいよマヨネーズが発売になるよね。
(えっ?そうなの?)
試食させてもらったけどあれも間違いなく売れるよ!もうアレク君様様だよねー」
ここまで一気に捲し立てられた。
お茶をがぶがぶ一気飲みして、ミョクマルさんも少し落ち着いたようだ。
「ああ、あらためていうとね、私はミカサ商会長とは長年の付きなんだよ。仕事というよりかは友人の間柄なんだ。
だからね、先日王都で会ったミカサ会長からも聞いてるよ。
アレク君自身は目立つことなくやりたいってこともね」
「あーそうなんですか」
さすがミカサ会長は俺の気持ちも代弁してくれたんだな。
「だからね、こちらからアレク君が前に出るようにならないようにするからね。それでも何かあったらどんどん言ってくださいよ」
「はい、ご配慮ありがとうございます」
「でも本当にアレク君は農民の子なの?すごく丁寧だよね」
「はい、俺はただのデニーホッパー村出身の子どもです」
ワハハ
あはは
「でね、アレク君がヴィヨルドに居るあいだは商業ギルドとしてミランダが担当になるから、何かあればミランダを窓口としてね」
「アレク君よろしくね」
制服クールビューティが3人並ぶ受付嬢はみんな綺麗だった。もちろんミランダさんが最年長だった‥。
この後、ミランダさんから業務連絡的に報告を聞いた。ヴィヨルド領領都学園への入学金と当年度の授業料、寮費等も支払い済みだとか、来年以降の授業料等の支払いもギルドでやってくれるそうだ。
水晶玉の本人チェックも済んだので、今後はヴィンランドの商業ギルドでもお金の出し入れができる。
と言っても使うつもりはないんだけど。
今お金がいくらあるのかとかは、敢えて聞かなかった。だって今の俺には関係ないことだからね。
「ミカサ会長のお孫さんのサンデー商会ヴィヨルド支店がまもなくできるって。それでね、サンデーさんと打ち合わせはいつがいい?」
「午後からならいつでも大丈夫です」
「わかったわ。調整してまたお手紙で連絡するわね」
「はい」
俺は袋からアレク塩を取り出す。
(もうどこへ行っても最初はこれだよ)
「ミランダさんこれ、おれが作った香草入りの塩です。焼いた肉にかけたりしてください」
俺、これだけしか言わないよ。俺も学習したから。彼氏さんとか旦那さんとかのワードを出さないって。
「うわぁこれが噂のアレク製ね!ありがとう」
「でも‥アレク君!誰と食べたらいいのよ!キー!」
うわー逆ギレだよ!
このパターンは予想して無いわ‥
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
異世界召喚されました……断る!
K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】
【第2巻 令和3年 8月25日】
【書籍化 令和3年 3月25日】
会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』
※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜
大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。
広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。
ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。
彼の名はレッド=カーマイン。
最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。
※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる