アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

127 女装

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学園生活も2週間ほどが過ぎた。
だんだんとここでの暮らしにも慣れてきた。

午後から冒険者ギルドに向かったこの日。
どこかの他領から凱旋する領都騎士団をたまたま見かけた。

キャー
ヘンリーさまー
かっこいい
ステキー

領都騎士団への声援の過半数は、騎士団若手のホープ、ヘンリー・ヴィヨルドへのもの。
あーあれが天才と評判のモーリスの兄だな。悔しいけどたしかに‥イケメンだわ。(モーリスもだけど)
騎乗のまま、声のする方に向き手を振って。
モーリスよりさらに天才でイケメンで人気者の長男。
以前、「チッ」と不満を漏らした次男モーリスの面白くないであろう気持ちもわからなくもないよな。


そんな日の夕方、たまたま時間もあったのでいつものランニングも寮を出て領都内を走った。
門限までにまだ時間はあるが、すっかり宵闇迫る貴族街を走っていると、やけに足運びがたしかな女性が歩いているのを目にした。
あ~この人歩き方はぜったい剣士だよな。ロングドレス越しに判るよ。
ん?てかかなり肩幅広くない?
なんとなく物陰からそっと見たら・・・
「まさかモーリスか?」
それはバッチリ化粧もした女装のモーリスだった‥。



「あらアレク君お帰りなさい」

寮に帰ったらたまたまレベッカ寮長と鉢合わせた。
今日の寮長は普通に背中が大きく開いたドレスだった‥。

「り、寮長、き、き、今日はまたすごいドレスですね‥」

「でしょー。セクスィーでしょー」

「あははは‥はい‥」



翌朝

「ハンスちょっといいか?」

「ん?どうしたアレク?」

「昨日の夜な‥」

かくかくしかじかと女装のモーリスを見たことをハンスに伝える俺。

「あーついにアレクも見たか」

ハンスが頭を掻いて応えた。

(あれやっぱりモーリスだったんだ)

「その‥モーリスもレベッカ寮長と同じで心は乙女なのか?」

「いや違うと思う」

「あれはたぶん、モーリスなりのストレス解消法なんだと思う」

「そっか。俺、モーリスの気持ちもなんとなくわかるんだよな‥」

誰しも人知れず悩みやストレスを抱えている。天才の兄を持った領主の弟は、その注目度も予想以上に高いんだろうな。

「だからなアレク、見なかったことにしてやってくれ」

「ああ、もちろんだよ。たとえアイツに気づかれたとしても俺はアイツを馬鹿にしたりはしないよ」

「ああ」

そう、普段のイケメンもモーリス、女装姿のモーリスもモーリスなんだ。





寮に俺宛の手紙が届いていた。
ヴィヨルド領の商業ギルドからだ。
(ヴィヨルドへ出立前、ギルドのピーナさんにお願いしておいたのは、俺への連絡手段には、男子寮への手紙でと言付けしておいたのだ)

「近々お越しください」
との文言だ。

これは明日にでも商業ギルドへ向かうかな。





ヴィヨルド領の商業ギルドは領都ヴィンランドの商業街の目ぬき通りにある。石造3階建の建屋だ。領都サウザニアとほぼ同じに思える建屋は、ひょっとしたら商業ギルド全体のの統一規格の建屋かもしれないと思った。
うん、歴史ある銀行みたいだ。
そんな建屋に入る俺。
やっぱり雰囲気もカチッとした銀行みたいだよ。
受付嬢もサウザニアと同じ制服のクールビューティ。

「こんにちは。サウザニアギルドのピーナさんから紹介してもらってるはずの俺、アレクと言いますけど。お手紙を頂きまして」

届いた手紙を合わせて見せる俺。

「あっ!貴方がアレク様ですね。おまちしておりましたよ」

「失礼ですが、決まりですのでご本人様の確認は宜しいですか?」

こう言ったクールビューティなお姉さんが、魔水晶を示した。

「はい」

俺は魔水晶に手をかざす。水晶玉の本人チェックは商業ギルドも冒険者ギルドも同じだ。
なぜか不思議と手をかざしたら、本人かどうかの判定ができる。

「はい、失礼致しました。アレク様、あらためてヴィンランドギルドへようこそ」

「はい。あのー綺麗なお姉さん、すいません俺、ただの農民のガキですからもっと砕けて話してくれると嬉しいです」

(まっ!綺麗なお姉さんだって!)

聴こえてしまうくらいのひとりごとを言ったお姉さんが、今度はフレンドリーな笑顔を見せてくれた。

「ようこそ、アレク君。いつ来てくれるのかって待ってたのよ」

と、そのまま応接室に通された。

(えー、俺ただの学生だよ。それとも何か悪いことやった?)

たいして待つことなく、恰幅の良いのおじさんがやってきた。そしてそのまま食い気味に握手をしてきた。

「いやあアレク君、アレク君。待ってたよー。私がヴィンランドギルト長のカミール・ミョクマルだ。さっそくだがね、君が考案したミートチョッパー、アレク袋、粉芋のどれもがヴィヨルドでも当たりまくっててね。ギルドでももう忙しくて嬉しい悲鳴なんだよ。
しかも来月からいよいよマヨネーズが発売になるよね。
(えっ?そうなの?)
試食させてもらったけどあれも間違いなく売れるよ!もうアレク君様様だよねー」

ここまで一気に捲し立てられた。
お茶をがぶがぶ一気飲みして、ミョクマルさんも少し落ち着いたようだ。

「ああ、あらためていうとね、私はミカサ商会長とは長年の付きなんだよ。仕事というよりかは友人の間柄なんだ。
だからね、先日王都で会ったミカサ会長からも聞いてるよ。
アレク君自身は目立つことなくやりたいってこともね」

「あーそうなんですか」

さすがミカサ会長は俺の気持ちも代弁してくれたんだな。

「だからね、こちらからアレク君が前に出るようにならないようにするからね。それでも何かあったらどんどん言ってくださいよ」

「はい、ご配慮ありがとうございます」

「でも本当にアレク君は農民の子なの?すごく丁寧だよね」

「はい、俺はただのデニーホッパー村出身の子どもです」

ワハハ
あはは

「でね、アレク君がヴィヨルドに居るあいだは商業ギルドとしてミランダが担当になるから、何かあればミランダを窓口としてね」

「アレク君よろしくね」

制服クールビューティが3人並ぶ受付嬢はみんな綺麗だった。もちろんミランダさんが最年長だった‥。

この後、ミランダさんから業務連絡的に報告を聞いた。ヴィヨルド領領都学園への入学金と当年度の授業料、寮費等も支払い済みだとか、来年以降の授業料等の支払いもギルドでやってくれるそうだ。
水晶玉の本人チェックも済んだので、今後はヴィンランドの商業ギルドでもお金の出し入れができる。
と言っても使うつもりはないんだけど。
今お金がいくらあるのかとかは、敢えて聞かなかった。だって今の俺には関係ないことだからね。

「ミカサ会長のお孫さんのサンデー商会ヴィヨルド支店がまもなくできるって。それでね、サンデーさんと打ち合わせはいつがいい?」

「午後からならいつでも大丈夫です」

「わかったわ。調整してまたお手紙で連絡するわね」

「はい」

俺は袋からアレク塩を取り出す。
(もうどこへ行っても最初はこれだよ)

「ミランダさんこれ、おれが作った香草入りの塩です。焼いた肉にかけたりしてください」

俺、これだけしか言わないよ。俺も学習したから。彼氏さんとか旦那さんとかのワードを出さないって。

「うわぁこれが噂のアレク製ね!ありがとう」

「でも‥アレク君!誰と食べたらいいのよ!キー!」

うわー逆ギレだよ!
このパターンは予想して無いわ‥
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