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第2章 幼年編
122 決勝
しおりを挟む「決勝アレク君対モーリス・ヴィヨルド君。クラス分け試験の最後。これから始めます」
先生から丁寧な拡声魔法のアナウンスをうけて最後の決勝が始まる・・・始まらなかった。
「ここからマイク代わりまーす。6年芸術クラブのステファニーでーす。みんな聴いてるー?」
うおおおー
ステファニーちゃわーんわんわん!
なぜかアナウンスが代わり、いきなりアイドル歌手のように女子が登場した。
会場の男子は大盛り上がり。不思議な合いの手わんわんわんを繰り広げる。
たしかに‥ステファニーちゃんはかわいい。ヒューマンに犬系獣人の血が入ったミックスのようで、小柄、つぶらな瞳に思わず釘付けになる。さらには、お尻のモコモコの尻尾!茶色の毛糸の玉のような‥そうだよ!家でも飼ってたトイプードルのぷーちゃんだよ!
見上げてくるつぶらな瞳にモコモコの尻尾。何というか、守ってあげたい保護欲?が湧き起こる。
訓練場内に湧き起こる合いの手に俺もシンクロしていた。
ステファニーちゃわーんわん!かわいいわん!
(はっ!俺、またどっかに逝ってたよ)
「はーい、じゃあ対戦者のプロフィールを簡単に説明するよー」
「アレク君。お隣のヴィンサンダー領デニーホッパー村の農民の子だよー。デニーホッパー村は最近村の農地改革が成功したって有名なところだよねー。でアレク君はそこの村出身でお父さんもお母さんも農民なんだって。あとはなんと2つ名もあることが判明したよー。同じヴィンサンダー領出身の3年生カーマン君情報ねー。ヴィンサンダー領の領都学校の生徒なら誰でもみんな知ってる2つ名だそうだよー。2つ名は『ヴィンサンダーの狂犬』なんだってー」
ぷっ‥ギャハハ~
観覧席中大爆笑となった。
(カーマン許すまじ!)
「対するは、モーリス・ヴィヨルド君。我らがヴィヨルドのご領主ジェイル・ヴィヨルド様の次男だねー。お兄様はあの有名なヘンリー様。誰もが知ってるヴィヨルド騎士団の若き天才ヘンリー様だよー」
うおおおーーーー
キャーーーーー
再び巻き起こる歓声の嵐
「チッ」
そんな中、モーリスが舌打ちをするのを俺は聞き逃さなかった。
「それじゃあさっそく闘ってもらうねー!2人ともいーねー。いくよー・・・始め!」
ピーーー!
よーし、今日最後の一戦だ!
「アレクだ。よろしく」
「モーリス・ヴィヨルドだ。よろしく」
軽く拳を打ち合い、改めて2人、構えをとる。
バスターソードを両手に、正眼に構えるモーリス。剣先は俺の喉元に当てている。
刀を両手に中段正眼に構える俺。
剣先は真っ直ぐモーリスの喉元に。
刀と大型剣のバスターソードの違いこそあれ、その構え、足の運びともに、モーリスも俺もほぼ同じであることにそれぞれが思い入る。モーリスも全く俺と同じことを思ったのだろう。
「クック。アレク、同じ王都騎士団だな」
「ハハ。ああモーリス。同門だな」
ヴィンサンダー領とヴィヨルド領の違いこそあれ、ともに王都騎士団の流れを汲む剣術だ。
一合二合と打ち合うが、同門ならでは響きを感じる。
そりゃそうだろう。
ヴィヨルド領で剣の道を歩む者の多くはその目指す頂が王都騎士団であるのだから。そしその王都騎士団流ともいえる剣術の源流が俺の師匠ディル神父様なのだから。
「アレク、さすがに強いな」
「モーリス、お前もな」
「ではこれでどうだ?」
モーリスがバスターソードにややトリッキーなフェイントを織り交ぜつつ刺突を加えてくる。
「へぇー、これはモーリスお前のオリジナルか?」
「ああ」
会話を交わしながらの剣戟である。
天才の名を戴くだけあるモーリスの剣技は、自身の努力を加えて美しさまで覚える太刀筋だ。もっと上手くなりたい、もっと強くなりたいと日夜努力に努力を重ねていることが如実にわかる。だって俺自身がそうだから。
だが‥。
モーリスには負けられない理由がある。
俺にはディル師匠とホーク師匠という2人の師匠から剣の教えを受けているんだ。だから同年代に負けることは決してない。さらには精霊魔法という人外ともいえる武技が俺にはある。
そして何より、この学園のクラス分けが俺のゴールじゃない。俺のゴールはまだまだ先なんだ。
「モーリス、ここからは一気にいくぞ。ついてこいよ」
「フン」
モーリスが改めてバスターソードを構え直す。
「おおおーーー」
俺は俺自身が持つ、今現在で発現出来うる力をすべて解放した。
新1年生を含めて訓練場の誰もがしばらく言葉もなかった。
そんな静かな訓練場でただ1人、セーラ先輩のみが微笑んでいた。
「今日の新入生クラス分け試験はこれで終了よー。剣術のベスト8を発表するわーん」
トイプードルみたいなステファニーちゃんが
拡声魔法で訓練場内に告げた。
剣術
1位アレク
2位モーリス・ヴィヨルド
3位セロニアス
4位ハンス
5位トール
6位セバスチャン
7位シナモン
8位ハイル
後の6年次。黄金世代と呼ばれる8傑だ。
「新1年生のみんなー、クラスは明日の掲示板を見てねー。それと授業も課外活動もみんなまとめて学園生活を楽しんでねー。芸術クラブも待ってるからねー!今日はこれで終了ー。みんなー、気をつけて帰ってねーわんわん」
「わんわん」
ステファニーちゃんを見つめながら、思わずこう言ってしまっていた俺。握手をしようと俺に近寄っていたモーリスが、あの可哀想な子どもを見る目で俺を見つめていたという‥。
帰途。
医務室により、ハイドを起こして帰る。
「ハイド帰るぞー」
「あーアレク、おはよ。今日は試験がんばろうな」
ハイドは寝ぼけていた。
▼
まだ興奮していたのか、なかなか寝付けなかった。
それにしても楽しかったな。
体術の獣人、剣士、聖魔法使い。
何せ超えるべき目標がたくさんいる。
この同級生のメンバーとは後に6年生ダンジョンに一緒に潜ることになる。
ヴィヨルド領学園1番且つ歴代でも稀な「豊作の年」だったいう。
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