117 / 722
第2章 幼年編
118 モーリス・ヴィヨルド
しおりを挟むクラス分け試験、剣術。
290人の生徒も僅か10人ほどに減ってきた。
2番訓練場は俺を含めて四隅に4人。あっという間にスペースが広くなった。
中央では2組の剣戟が続く。
1つは3人組のヒューマン対1人の獣人。
獣人は木爪。
目線や声かけで合図を送っているヒューマンの3人組は仲間のようだ。
獣人はハンス。
俺と体術を戦った狼獣人のハンスだ。
正面に相手がいなくなった俺は静観の構えだ。
四隅にいる他の3人も奇しくも俺と同じように思っているみたい。静観。
格闘(体術)と変わらず剣術でもハンスは強い存在感を見せる。ハンスからは強力な魔獣を前にしたような威圧感もある。こうしてみれば獣人の爪はダガーと変わらないんだよな。あの爪は外れない短剣だよ。
ハンスの剣気に、囲んでいるはずのヒューマンが押し負けている。そしてハンスは油断なく1人の男の子のみに視線を向けて迫る。
「くっ!くそー」
睨まれたヒューマンの男の子の剣先が震えている。
もう気持ちでハンスに負けているよ。
ブンッ
ハンスが振り抜いた木爪は男の子の剣を叩き落とした。
ガツン
素手となる男の子。
「えっ?」
剣を落として茫然としている男の子。
ポン ポン ポン
彼の肩を軽くたたいて紫色に変えたハンス。後ろに残った2人も茫然としている。まさに戦意喪失だ。ハンスが2人の肩もポンポンと叩いた。
こうして1対3の戦いは剣戟になることもなく、勝敗が決した。
おー、やっぱり強いな ハンスは。
堂々と闘う姿勢にも共感できるよ。
「ハンス!グッジョブ!」
「アレク!」
カッコいいな、ハンスは。
キラキラ光る白い犬歯も眩しいぜ。
(イケメンなところはちょっぴり悔しいけど)
そのままハンスと俺の2人は横並びになり、中央のもう一組の剣戟を観戦した。
こちらは獣人の女の子1人を2人組のヒューマンが挟み撃ちしている。
獣人の女の子は、最初の予選でも目にしたとても速い子だ。
金色とブラウンのツートンの髪をツインテールに。クリクリした大きな猫目。短パンの下からはしなやかな肢体がのぞく。短めのシャツからははち切れんばかりの双丘が主張を止めない。
小柄なんだけど抜群のスタイルの良さだ。思わず視線が固まりそうになる俺。かわいい。
(村のアンナもそうだったけど、獣人の女の子ってみんな早熟なんだよな)
山猫?ピューマ?豹?うん、わかんないけど何かの猫系獣人だ。
剣戟は佳境。
2対1。しかも男が2。なんか嫌な展開だ。俺は男なら1対1で闘れよと思ってしまう。
じりじりと獣人の女子に迫る2人組。
すると、獣人の女子はあっという間に跳び上がり一方の男の子の後方へまわった。
そして右手の木爪で一閃、続く左手の木爪でもう一閃。
さらにその勢いのまま
すかさず2人めの男の子にも一閃。
わずかな時間で、2人を木爪で切り裂いた。
あっという間に紫色の顔になる2人の男の子。
「くそー」
「やられたー」
天を仰ぐ2人組の男の子。でもこれ、もし木製の爪じゃなく実戦だったらけっこうヤバかったかも。やるなーあの子。
「アレク、あの子はシナモン。俺の幼馴染だ」
「へー。けっこう速いな」
「ああ」
「はい、2番訓練場そこまで!」
2番訓練場からはハンス、俺を含めて6人が勝ち残った。
隣の1番訓練場にはいつの間にか2人しかいなかった。向き合うのはバスターソード(大型の西洋剣)を正眼に構える子と短めのダガーを構えるハイルだった。
人数的にはもう2次試験も終わっているはずなのだが、このまま流れで戦いが続いているようだ。
おそらくバスターソードの子が他を圧倒する力をふるった。その圧巻の技量に対するべく、自然と共闘することにした他の多くの受験生。1対多数。
だとすれば、ハイルはその残った最後の1人かもしれない。
(ハイルがんばれ)
バスターソードを片手で構える長身のヒューマンの子。
(強いな。構えに隙がない)
佳境。
ダガーを前にハイルが腰を屈めて突貫の構えに入る。
ユラユラ ユラユラ
足首をユラユラと屈伸をするように緩めているのは、これから発現する突貫の前準備だろう。
バスターソードを構えた子もやや腰をおろしてハイルを迎撃する構え。といっても悠然とした構えなんだが。
「突貫!」
ダガーを手にハイルが一気にトップスピードに入る。
ハイルが相手の間合いに入る直前。
バスターソードの子が大剣を上から振り下ろした。
ダーンッ!
うっ
振り下ろされたバスターソード。地面に突き刺さるダガー。あわせて昏倒するハイル。
刹那の勝敗はバスターソードの子の圧倒的な剣技に軍配が上がった。
バスターソードの子が刀を置いて、そっとハイルを抱きかかえて訓練場に控えていた先輩たちの担架に乗せた。先輩たちによって医務室に運ばれていくハイル。聖魔法のセーラさんも付き添っているから心配はなさそうだ。
なんか良い奴だなと思った。
「ハンス、あいつは?」
「ああ強いだろ。モーリス・ヴィヨルドだ。領主の子だよ」
「へー」
「アイツは剣一筋、真面目だぞ」
「へー、いーじゃん」
「ああ。ただな‥」
「ただ何?」
「同じクラスになるんだ。すぐにわかるよ」
「ふーん」
▼
ハイルは負けてしまったけど、1番訓練場の最後の2人になったんだから、悪くても2組か3組には入れるだろうな。後で見舞いに行こう。
結局2次試験からは7人が残った。
「クラス分け。剣術の試験。最後に決勝になります。7人集まって」
「「「はい!」」」
狼獣人のハンス、豹獣人のシナモン、バスターソードのモーリス・ヴィヨルド、ハイルと短い1日の間に知ることになった4人が出揃った。
ベスト8になった。いよいよあと少しだ。
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
異世界召喚されました……断る!
K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】
【第2巻 令和3年 8月25日】
【書籍化 令和3年 3月25日】
会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』
※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜
大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。
広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。
ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。
彼の名はレッド=カーマイン。
最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。
※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる