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第2章 幼年編
111 ピンボールマジック
しおりを挟む「6年1組マリー・エランドルさん対1年魔法1位アレク君の魔法術模擬戦を開始します」
うおおーー
キャーーー
会場内のボルテージが爆上がりした。
まるでアイドル歌手のライブだよ。
さすがは学園1位のマリー先輩だ。
「じゃあさっそく闘(や)りましょうか!」
「はい!」
「アレク君は土と風だけでいくんだよね?」
「はい」
「じゃあ私は普通に精霊魔法すべてでいくけどいい?」
「もちろんです」
「フフ」
「始め!」
ピーー!
合図と同時。
マリー先輩はその場で精霊魔法を発現する。俺はすかさず50mほど後退して様子を窺う。
マリー先輩と風の精霊シンディ。
2人が発現するのはコンビ魔法ともいえる精霊魔法だ。その代表的な攻撃魔法は強力な風魔法エアカッター(風刃)。
エアカッターを発現するのが得意なヒューマンが何人も集まってもまるで敵わない、それが精霊魔法だ。
これは精霊魔法を発現できる前と後という俺自身の、まさに実体験から断言できる違いなのだ。
そんなマリー先輩の精霊魔法のエアカッターがすかさず襲い来る。
ブンッ ブンッ
何も見えない前方からひたひたと微かな音だけが接近して来る。
近づく音の方向からは僅かに空気も歪んで見える。
真夏のアスファルト道が歪んで見える感覚に近いといえば解るだろうか。あれは温められた空気と屈折率の関係(シュリーレン現象)なんだけど、このエアカッターの魔法で空気が歪んで見えるのは、今まさにそこに圧縮した空気の刃があるからだ。
50mの距離。
新1年生では、殆どすべての生徒が魔法としての威力を保てられなかった距離である。が、マリー先輩のエアカッター(風刃)は普通に殺傷能力を有した威力の高い魔法の発現だ。
ドーン ドーン ドーン
シュバババーーーッ
俺はこのエアカッターを即座に土塀を隆起させて防ぎながら石礫を扇状に広く射出して挨拶代わりとした。
エアカッターと同じく50mの距離でも普通に殺傷能力を持つ石礫だ。
マリー先輩は余裕でこれを回避する。
マリー先輩の精霊魔法エアカッター(風刃)が土塀を穿つ。
ザンッ ザンッ
日本刀で竹を割ったような見た目。
俺がけっこう固く作ったと自信のある土塀が、ザックリと切れ味も鋭く剥がれ落ちる。
「さすがマリー先輩だよ」
「ねーねーアレク、アレク、アタシの出番はまだなの、まだなの?」
ワクワクした顔のシルフィが俺の横で飛び回っている。
ワーワー
いつしかほぼ満席となった観客席。
生徒はもちろん、教師まで。領都学園にいるほとんど全ての人が固唾を飲んで見守っている。
「すごい‥」
「さすがNo. 1のマリー先輩だぜ」
「あの1年生も無詠唱であれほどかよ。凄いな」
石礫を射出しながら土塀でマリー先輩を一方向に誘導していく俺。ちょうど懐かしのアーケードゲームにあった昭和のパッ◯マンだ。このまま土塀で誘導しつつ最後は落とし穴にと思ったのだが‥
「あははは」
マリー先輩の笑い声が訓練場に響く。
「アレク君、おもしろいわ」
マリー先輩は落とし穴に引っかかるどころか土塀そのものを軽く飛び越えてしまった。
「あはは。アレク君アイデアがおもしろいよ!」
くそー!マリー先輩には俺の作戦はお見通しなんだろうな。
石礫に時おりエアカッターやエア苦無を織り交ぜて撹乱を試みてみるがマリー先輩自身はもちろん、気配を察した精霊のシンディが放つエアガードが俺の攻撃を楽々と潰していく‥。
うーん。さすがにマリー先輩と精霊魔法だよなぁ。俺の土魔法と風魔法だけじゃまるで歯が立たないや。
だいたいシルフィの精霊魔法の助けがない今のままだと、スピードもぜんぜん出ないんだよな。
「アレク君、そろそろ終わりー?」
「まだいけますよー」
そうは言っても手が無いなぁ。困った。
せめてスピードだけでもシルフィの力を貸してもらおうかな。
マリー先輩は精霊魔法すべてを使うと言いながら風魔法しか使っていない。少しぐらいはマリー先輩にも本気になってもらいたいんだけど。
うん‥そうだ!
まだこの手があった!
俺はマリー先輩に気づかれぬよう訓練場各所に土魔法を発現する準備をする。そして石礫とエアカッターをばら撒きつつ、マリー先輩を訓練場の中央付近へと誘導していく。
マリー先輩は俺が何かを企んでいると知っているのに、あえて乗ってくれたみたいだ。
マリー先輩が訓練場の真ん中あたりにきた。
準備OK。
ヨシ、いくぞ。
ドーンッ
俺は自分の足下に土塀を斜め20度に隆起。その勢いで俺自身を射出。突貫を合わせて機動力を上げ、中央のマリー先輩へ向けて球が飛ぶように突進する。
生まれて初めて突貫を発現したあのトランポリンの感覚だ。
温泉地のホテルや古いボーリング場などにあるピンボールゲームをイメージできるだろうか。そのピンボールゲームの玉に自分がなったイメージだ。
ドーンッ ドーンッ
マリー先輩を囲った四方八方から、連続して突っ込む俺。その勢いでエアカッターやエア苦無も発現していく。
「なんなんだあの1年!めちゃくちゃ速くないか!」
「すげぇーー」
「アレク君すごいわねー!」
これにはさすがのマリー先輩もびっくりしてくれたみたいだ。
「つッ!」
マリー先輩の肩をエア苦無がかすった。
よし、次にマリー先輩の足下を泥化させて安定感を崩す。同時に付近から土塀をランダムに発現させる。
目の前にいきなり土塀が現れたり、沈んだり。
そう、これはモグラ叩きゲームのイメージだ。
「キャー何これー!」
マリー先輩の精霊シンディが思わず悲鳴をあげた。
シュッ
咄嗟に。
シンディが見当違いな方向にエアカッターを放った。
シュッシュッーー
これにマリー先輩が放ったエアカッターが同期。
シュッシュッシュッ‥
さらにはマリー先輩が避けた俺のエアカッターの3つの風魔法が奇跡的に同期した。
そして3重となった風魔法が訓練場脇に飛んだ。
シュバババーーーーー
3重になったエアカッターが向かった先には、聖魔法使いの女の子がいる。
「ヤバっ!」
訓練場脇には聖魔法を発現できる新1年生の女の子がいた。
ただでさえ殺傷能力のあるエアカッターがその3倍のパワーとなっている。万が一女の子に当たろうものなら‥
「アレク君!」
「はい!」
マリー先輩より俺のほうが距離は近い。
「シルフィ!」
「わかってるわ!」
「突貫!ブースト!」
俺は突貫にブースト、シルフィの精霊魔法を合わせて隅にいる聖魔法の女の子の前にギリギリ立った。
ほぼ同時に俺を襲う3重の風魔法エアカッター。
「「エアガード!」」
襲ってくるエアカッターのギリギリ直前に。俺とシンディがエアガードを発動させた。
「キャー」
俺と聖魔法使いの女の子にエアカッターが迫った。
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