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第2章 幼年編
107 マリー先輩
しおりを挟む同室となったハイル。関西弁っぽい言葉遣いをする小柄な男の子だ(ヴィヨルド領南部の方言だという)
突貫のスキルを持つ彼は冒険者の斥候になるのが夢だそうだ。
足の速さには自信があるという。
領都学園へもその足の速さから地元の教会学校からの推薦で入学したという。
精霊魔法を発現する前の俺が、突貫にブーストの併用で速く走れたように、今のハイドはまさにそんな感じの速さなんだろう。
「アレクは何のスキルがあるんや?」
「俺か。俺は風魔法と土魔法だ」
「ダブルか!すげぇな」
違う系統の魔法を発現できるダブル、さらに希少なトリプルは学園でも注目の的だった。
(全属性を発現できる者は中原中にほぼいないと言われている)
「どこまで発現できるんや?」
「どっちもLevel3かな」
「すげぇなー。さすが他所の領から推薦で来るわけや。わしは突貫以外使えへんから、羨ましいわ」
「まぁ、わし足の速さだけは自信あるけどな」
トントンと足を叩いたハイドである。
ここヴィヨルドで俺は風魔法と土魔法が発現できるダブルにしてある。
その他はもちろんだが、精霊魔法を発現できることも言うつもりはない(もし肩にいるシルフィが見える人がいたら別だけどね)
ただ剣と格闘術(体術)に関しては隠す気はない。
「アレクはええ剣持ってるけどお金持ちなんか?」
「いや、俺は農民の子だぞ」
「じゃーなんでそないにええ剣持ってるんや?」
「これか。これは自分で打ったからな」
「打った?鍛治屋でか?」
「そうだよ」
「へー。ダブルで剣使いで鍛冶屋。アレクはなんやオモロい奴やのー」
「褒めるなよい!」
「褒めてへんわい!」
わはは
わはは
「ところでハイドはここでの目標はあるのか?」
「ああ」
「やっぱり10傑入してダンジョンに潜りたいよなー」
ヴィヨルド領領都学園の大きな特徴の一つが学園内にダンジョンを有することだ。
しかも年に1度開催される武闘祭で10傑入をすれば、ダンジョンを授業単位で潜れるという破格の特典がある。
「アレクは?騎士志望なんか?」
「いや、俺は冒険者になりたいんだ。だから剣も必要だろ」
「たしかにな。俺も斥候としてダンジョンに行きたいしな。じゃあ仲間でライバルだな」
「そうだな」
「アレク、明日のクラス分け試験、お互い頑張ろうや」
「ああ、お互い頑張ろう」
クラス分け。
ヴィヨルド領の領都学園は試験の成績順にそのままクラス編成になるのだという。
クラスは定員30人が10クラスある。
俺はモンデール神父様(領都学校長)からの推薦でここに入学した。神父様に恥をかかせないよう、頑張らなきゃな。
さっそく明日は領都学園の座学試験と実技試験がある。
頑張るぞ!
寮生活での新しいルーティン。
座学ではシスターナターシャから渡された課題に取り組み、剣の素振りをしてからランニングに出よう。
寝る前はドラゴンの欠けらに魔力を注ぎ込むこと、鉄の塊をニギニギすることは変わらない。
「じゃあハイル、俺は外を走ってくるわ。先に寝ててくれ」
「ああアレク。悪いが先に寝てるわ」
ハイルは明日に備えて早めに寝るそうだ。
寮周りをジョギングする。
寮周りといってもかなり広い。ヴィンサンダー領都学校の訓練場くらいはあるな。
と、前方からランニングをする先輩らしき女性が走ってきた。
精霊を連れたエルフだ。
エルフの先輩もその精霊もしっかりと俺とシルフィを見つめている‥。
(これは素通りはムリだな)
立ち止まって一礼をする俺。
「先輩、こんばんは」
「あら、あなたヒューマンなの?珍しいわね」
「はい。ヴィンサンダー領から来た新入生のアレクです」
「私は風の精霊シルフィ」
シルフィから声がかかる。
(アレク、あの子‥かなり強いわ。まだアレクでも勝てないわね‥)
「こんばんは。私は6年のマリー・エランドルよ」
「私はシンディよ」
銀髪サラサラのストレートヘア。
均整のとれた、いかにもというエルフのすごい美人さんだ。クールな目元は‥ホーク師匠にも似てるなあー。
精霊のシンディはシルフィと同じ風の精霊だ。ちょっぴり勝ち気な雰囲気もシルフィに似ている。
「エランドル‥先輩はホーク師匠の血縁の方ですか?」
「えっ?」
「あなた、ホーク叔父さんを知ってるの?」
「あーやっぱり!俺、ヴィンサンダー領領都学校出身なんですが、春休み中はホーク師匠から魔法を指導してもらってます。もう3年になります」
「へー、知らなかったわ。ホーク叔父さん、もう何年も里には帰ってないと思ったらヒューマンの子を弟子に持ってたのね」
「えーっとアレク君、ちょっと座りましょうか」
「はい、マリー先輩」
(うん、マリー先輩からいい匂いがするよ‥)
マリー先輩によれば、ホーク師匠はマリー先輩のお母さんの弟らしい。
(ホーク師匠、自分のことあんまり喋らなかったもんな)
「アレク君、今の在校生にエルフはもちろん、精霊を見える子は1人もいないわ。だから安心していいわよ」
ウインクをしてニッコリと笑うマリー先輩。
(うぉー、美人エルフのウインクだよー!ズキュンズキュンだよ!)
「えーっとアレク君?‥どうしたのアレク君?」
マリー先輩が不思議な顔をした。
(やばっ!また俺どっかにトリップしてたのか!)
「す、す、す、すいません先輩。俺、精霊魔法はもちろんなんですが、風と土しか使えないことにしてますから。黙っててくれると助かります」
ウフフ
ニッコリ笑ったマリー先輩が頷いた。
(あー本当に綺麗だよ‥)
早くも会ったばかりののマリー先輩の笑顔にやられてしまった俺。
「さてと。じゃあアレク君、明日からよろしくね!」
「はいマリー先輩!よろしくお願いします!」
「まずは明日のクラス分け、頑張るんだよ!」
「はい!」
颯爽と走り去るマリー先輩を俺はぼーっと見送っていた。
「マリー、良かったわね。これで今年のダンジョンは期待できるわ!」
「ええ。シンディも友だちができたわね!」
「ホントよ。ここの学園、友だちがいなかったから寂しかったのよねー。アレクに憑いてる子、同じ風の精霊だからうれしいわ」
▼
寮に戻った。
初日から美人エルフの先輩に出会えたぞ!
マリー先輩、いいなぁ。
学園生活も楽しくなりそうだ。
明日の試験も頑張らなきゃな。
さて、寝るか。
ウゴーウゴーウゴー
ハイルのいびきがすごい‥
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